佐鳴湖の最新お魚事情 ----------------- 姿消す日も近いかハクレン
(2015.11.18) 佐鳴湖とそこにつながる周辺河川の魚たちの最近事情や、その生息状況(魚相)の経年変化について、「浜松水辺を愛する会」の中村芳正会長に直接、お話を聞く学習会が先日、湖東岸の協働センターであった。中村さんは、この湖の西岸、浜松市西区に在住。
● 「水辺を愛する会」の調査から
お話会は、その日に会長自身によって採取された魚たちを目の前の水槽に入れてすすめられた。同時に、この25年近い会としての調査活動や実施した観察会で得たデータも紹介された。さらに活動体験で感じたことも加え、それをわかりやすく解説していただくなど大変に有益な会合となった(写真右)。
この日の結論の意味で、
この30年間、湖にどんな魚が生息していたのかというそのときどきの調査結果とその変遷のまとめ
については下欄の一覧表を最新のものとして挙げておく(水辺を愛する会作成)。
この表では川(東神田川、段子川、新川)上流に棲む「淡水魚」の仲間と、そのほかの「汽水系・海水魚」の二つに分類。それぞれについて、上流から河口に向かう順序で、おおむね表上から下に向かって表示されているなど、とてもわかりやすく便利に作成されている。
中村さんたちが直接かかわった調査によると、
これまでの30年間で見つかった淡水魚は39種。汽水系・海水魚は38種。合計77種。
これを在来種/外来種で分けてみると、
在来種70種、外来種7種
だった。
静岡大工学部の戸田三津夫さんによる最新まとめも参考にするとおもしろい(「補遺」に最新の一覧表)。戸田さんによると、過去すべての調査で92種の魚類がこれまでに確認されている(テナガエビなどの甲殻類などは除く)。
( 写真や資料をダブルクリックすると拡大できる )
● 多いコイ、ハゼの仲間
箇条書き風に、講演内容の要点をまとめると、次の通り(写真右=採取された魚を観察する参加者)。
一覧表をみるとすぐわかるのは、
コイやハゼの仲間が比較的に多い
ということ。今年6月には、眼の退化したエイリアンのような珍しいハゼの仲間、
チワラスボ
が初めて採取された。
カワアナゴ(写真左)
もいた。表を見ればわかるが、どの時期の調査でもほぼ確実に捕獲されている。
コイ、ハゼの仲間とは対照的に、汽水の佐鳴湖には、塩分をきらうせいか外来種のブルーギルやブラックバスはどの調査でも採取されていない
こともわかる。これは淡水湖のびわ湖にはたくさんいるのとは対照的。
ほかの外来種、たとえば、3年前までの調査では、毎回採取されていた外来種で、
コイの仲間、ハクレン
が、今回の6月調査でも9月の調査でも捕獲されなかった。
この魚は中国産淡水魚で、成魚は1メートルを超す。アオコの除去を主目的として組織的に放流したが、佐鳴湖では繁殖せず現在に至っている。
中村さんによると、
「放流してから40年以上たっており、今年の2度の調査でも捕獲されなかった。9月の調査時に80センチほどの死がいを1匹、目視するにとどまった。このことから完全に姿を消す日も近いのではないか」
とのことであった(下欄「補遺」文献では、1958年、1973年に放流)。
中村さんたちの「水辺を愛する会」発足のきっかけとなったコイの仲間
アブラボテ
も、30年近く前に、当時の佐鳴湖環境調査会が調査で採取して以来、捕獲されていない。同様に、同じコイの仲間のハスも30年前のこの調査会の採取以来、とれていない。
● 魚相変化の可能性も
同じコイの仲間、タモロコ
も同様だ。さらに同じコイの仲間、
タイリクバラタナゴ
も、この7、8年、まったく調査採取ではとれていない。それ以前の調査では毎回確実に網にかかったのとは大違い。
こう考えてくると、コイの仲間が比較的に多い点には変わりはないものの、この30年間で湖の環境の変化(たとえば湖が浜名湖と新放水路でつながるなど)で
魚相の時代変化
があるのかもしれない。魚相とは、ある環境での魚の種類の構成のこと。
かつてあんなにいたギンブナは今もいるにはいるが、量的にずいぶん減った。モツゴ(コイの仲間)も減った。このことからも、感覚的には魚相の変化の可能性はあるとしてもおかしくない。もっとわかりやすい例で言えば、第一、(ニホン)ウナギ自身が最近、湖ではめっきり釣れなくなったという感覚的な事実とも、この結論は整合性がとれているといえるかもしれない。
● 姿見せない日本の絶滅危惧種、ホトケドジョウ
湧き水の多い、しかもほかの魚の少ないところを好む
ホトケドジョウ
も今回のいずれの調査でも採取されなかった。
中村さんたちの調査では、湖とつながっている東神田川の一部にはいるようだが、全国的には危惧種。とはいえ、遠州地域にはまだ比較的多く生息していると言われているものの、今回、湖での生息は確認できなかった。
写真右は、6月調査で採取されたチワラスボ。目がほとんど退化していて〝エイリアン〟のような姿になっている。
● 創造性ある佐鳴湖学のために
中村さんの話によると、佐鳴湖の魚の最大の天敵は、愛知県あたりから環境変化にあおられて湖に〝移住〟してきた
カワウ
だという。なにしろ、隊列を組んだ集団で、前の列のカワウたちが魚を食べると後方に下がり、次の列が前に出てきて魚をとる整然とした行動を見たことがあるという。しかも湖にはそんなカワウが群れている。これでは、魚はたまったものではないというわけだ。このこともさまざまな魚の量が減ってきた原因の一つかもしれないという。
こうした最近の魚事情を通じて、佐鳴湖はいま、私たちに何を伝えようとしているのだろうか。中村さんの解説を聞いて、そして実物の魚たちを目の前にして、ブログ子は、魚たちが訴えようとしていることを具体的につかみ、効果的に将来に生かすためには、湖を総合的に探る
行動する実践的な佐鳴湖学
が必要な気がした。
静岡県が戦略研究課題として
快適空間、佐鳴湖の創造
という湖の総合調査(2005年)を3年かけて行い、その結果を大冊の報告書にまとめてから7年。もう一度この報告書を、10年ぶりにじっくり読み返してみる必要があると感じた。
浜松市も今年度から新しい
佐鳴湖水環境向上5カ年行動計画
をスタートさせている。
科学的な調査に基づく成果の活用と、地域住民などの社会的な合意形成に基づく統一的な行動。有効な佐鳴湖学の確立は、この二つが車の両輪のようにかみ合ってこそ実現する。
今年は、魚たちの声に耳を傾け、創造性ある佐鳴湖学に向けスタートを切るよいチャンスであると思う。
雨の中、佐鳴湖の市民水質調査(秋)
- 2015年11月14日、漕艇場で
・ 以下は、講演会場に展示された近畿地方の河川に生息する魚たち。
一般に、西日本のほうが魚の種類は多い傾向がある。
・ びわ湖と川の魚(琵琶湖博物館)
・ 以下は、中村さんたちが実際に採集した魚たち(甲殻類も)
● 注記
以下は戸田三津夫(静大工学部)さん作成(2015年11月現在)
● 補遺
上記報告書の放流魚介類調査(入野漁協)
注 養殖放流については、ワカサギ(の卵)は、戦前から比較的に長期にわたって放流されており、1975年まで続けられていた。最近の採取調査ではほとんど見かけない。注目したいのは、嫌われ者の外来種、ブルーギル。1964年に2000匹放流されている。当時、食用魚として注目されていたことがわかる。1968年にはシジミも68kg放流されている。このことは、それ以前のような自然繁殖だけに頼るのではなく枯渇に備えて養殖も視野に入れていたことをうかがわせ、興味深い。
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ハクレンは今年2回も釣り上げていますので、まだまだ数がいると思われます。
投稿: 釣り人 | 2016年7月20日 (水) 21時07分