羽生名人、世界の人工知能開発現場をゆく - ポスト・ヒューマンへの想像力
(2016.05.16) きのうの日曜夜、NHKテレビで、将棋の羽生善治名人が
世界の人工知能開発の現場をゆく
という内容の番組を拝見した。羽生さんは、人間にしかできないこととは何かということ考え続けているせいか、人工知能にことのほか興味を持っているという。その結論として、人間にできる、いわば最後の砦は
臨機応変
ではないかとも、最近語っている。確かに、あらかじめプログラムしたことしかできないというのがロボットや人工知能AIだとするならば、そうかもしれない。
しかし、ブログ子はその臨機応変も人間の独壇場ではないのではないかと考えている。人工知能にもいずれできるようになる。
ただ、今のところ、たとえば囲碁では盤面情報だけが認識できる入力情報であるので、臨機応変といっても、限界がある。これに対し、人間は盤面の視覚情報だけを頼りに勝負しているわけではない。体調はもちろん、周りからの情動的な超知覚情報も取り入れ、臨機応変に判断している。つまり、身体知をフルに活用している。
● AI「アルファ碁」の衝撃
さて、最近、囲碁の世界チャンピョン棋士に人工知能「アルファ碁」が圧勝した。番組では羽生さんはその開発を行ったグーグル傘下の
英国ベンチャー企業「ディープマインド社」
にも足を運び、開発者自身にもインタビューしている。それだけではなく人工知能が切り開く、たとえば医療や交通の革命ともいうべき未来について、案内、ないし思索の旅をしていた。
その結果、番組の最後で、羽生さんは
人間の使い方次第で、あるいはこれからの対応次第で、AIは天使にも悪魔にもなれる
という至極穏当な結論をのべていた。
この番組をみて、あらためてブログ子は、あらかじめプログラムされたことを忠実に実行するだけではなく、AIロボットは自らも独自に学ぶことで知識を生み出し、それが倍々ゲームで蓄積されていく時代に入りつつあることに驚いた。同時に、その蓄積をもとにして、すでに人間もおよそ及ばない発見的「ディープラーニング」学習もできる高みにまで、AIは到達していることを知った。
● 物理学や数学への波及も
こうなると、この驚異と衝撃は、チェス、囲碁、将棋などのゲーム分野だけにはとどまらないはずだ。たとえば、高い創造力が求められる物理学や数学といった学問分野にも必ず波及するだろう。重要な物理法則の発見や数学的な定理が人工知能によって発見されたりする日がやがて来る気がする。この100年以上にもわたって未解決の
素数に関するリーマン予想
という、超難問もAIによって解決できるような予感がする。そのほか、重力理論と調和した超弦理論の完成なども、人工知能がやすやすと成し遂げるかもしれない。
● 天使か悪魔か
そうなると、当然不安になるのが、
人類の未来はどうなるか
ということ。人工知能は生物進化の影響を受けない。ので、現在の人間にはある進化ステージの生物学的な制約を、AIはいとも簡単に乗越えていくことができる。
これからのAIの進化は、これまでの人間のような
炭素カーボン脳
によるものではない。言い換えれば、その進化は、指数関数的な途方もないスピードで非生物学的に進む。いってみれば、シリコン脳の時代。そのスピードにはホモサピエンスは到底かなわない。ゆっくりとしか進化できないホモ・サピエンスの絶滅は、そう遠くない。たとえば、21世紀中にも起るような気もする。
そうなると、かつてこの欄でも取り上げた
カーツワイルの予言 : 2040年代にも人類の進化は〝特異点〟に到達する
というコンピュータ技術者の宣託は、あながち考えすぎとはいえまい。
最近の「アルファ碁」の衝撃は、人類進化に対する晩鐘であり、非生物的なポスト・ヒューマン(= ポスト・ホモサピエンス)の時代の幕開けを告げているのかもしれない。
しかし、それはわれわれにとって悪夢であろう。悪夢を追い払ってくれる天使は、果たして出てくるのだろうか。この不安はブログ子だけではないだろう。
これに対するブログ子の結論は、こうだ-。
悪魔を追い払ってくれる天使は出てくる。しかし、それは臨機応変に対応できる今の人類の中からしか出てこないだろう。AIが臨機応変を自ら学ぶまでには、まだ時間がかかる。それに、たとえ短期間で学ぶことができたとしても、それが人間にとって天使となるかどうかはわからない。おぞましい天使という場合もある。
この猶予期間にホモ・サピエンスがAIについてどう対応するのかによって、種が絶滅するのか、それとは逆に新たな進化段階に飛躍するのか決まるだろう。
この結論について、ひょっとすると、その正否はまだブログ子が生きている間にも判明するような気がする。それほどAI技術の進展はすさまじい。テレビを見ていて、そんな予感をいだいたことを、正直に書いておきたい。
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