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内部被ばく告発の新藤映画「第五福竜丸」 -- 発見された乗組員たちのカルテ

Image2321 (2016.04.18)  あるこじんまりした会合で先日、

 60年ぶりによみがえる幻のドキュメンタリー映画

 「第五福竜丸」(新藤兼人監督、1959)

というのを見た。世界で初めて、放射能を浴びたり吸い込んだりした体内残留放射能からの内部被ばくの恐ろしさを描いている。

 被ばく半年後に死亡した無線長、久保山愛吉さんを宇野重吉が熱演している。その妻を演じたのが乙羽信子。監督の独立プロダクション(近代映画協会)時代の作品である。

 ● 幻の映画、東日本原発震災後にDVD化

 製作資金難や上映配給難をかかえながらも、大映が配給を引き受けることで、なんとか公開にこぎつける。しかし、興行的にはなぜか国民の関心事とはマッチせず失敗。既存の映画づくりにはない独立プロの鋭い批判精神が作品に息づいているのがリアルであり、見ものなのだが、その後劇場で上映されることはなかった。しかし、ビギニ事件から60年後の2014年春にDVDでよみがえる。

 こうした経緯をたどったDVD版には、東日本原発震災後の今、放射能というものの恐ろしさや過去の被ばく事実に今一度向き合って考えてみてほしいという関係者の願いが込められていると言えよう。

 ● 死因、日米で異なる結論

 事件から5年後の1959年に公開されたこの映画には、東日本原発震災時の避難住民の内部被ばくの放射能問題でも話題になった

 半減期が約28年のストロンチウム90

という放射能を持つ物質が登場する。吸い込んで体内にとどまった「死の灰」は数十年間にわたり放射線を出し、体の内側からその人の体を少しずつむしばむ。半年後に死亡する第一番目の犠牲者が、年長だった久保山さんである。

 この映画を見て、ブログ子は、次の二つの点に注目した。

 一つは、久保山さんの死因は何か、という点である。

 実際の事件においては、主治医師団のカルテでは、肝炎発症はあるものの、それには放射線障害による影響が大きいとして「放射能症」と記載されている。いわばこれは放射能症主因説である。これに対し米国側は治療にあたって投与された売血を輸血した医師団をとがめている。つまり、この輸血が主な原因でウイルスに感染、急激に肝炎が悪化させた「血清肝炎」としている。血清肝炎主因説であり、どちらが正しいのか、今日まで決着はついていない。

 現在では、この中間、被ばくで免疫力が低下していたところに、売血の輸血によってウイルスに感染。それによる肝炎が、年齢もほかの乗組員より高いこともあり、急激に悪化したという複合原因説がどちらかといえば有力視されている。

 一方、映画では、主治医師団の見解をより重視した、つまり肩入れした描き方をしている。血清肝炎についてはほとんど触れられていない。放射能症単独説に近い。

 ● 事件から45年後にカルテ発見

 そんなおり、2009年7月、行方不明だった久保山さんの死亡までの治療記録(カルテ)が東京の国立国際医療センター(カルテ保管庫)で発見された。また、翌年にはほかの乗組員16人分のカルテも発見された。

 今回、DVDをみて、双方の死因見解が分かれているのだから、この発見されたカルテをもとに、現代の知見に照らし久保山さんの死因の真相がはっきりするのではないかと思った。それには、久保山さんの臓器の組織標本の再検討も大事だろう。組織標本の保存先は同医療センターなどであることを思えばなおさらだ。

 かつての乗組員23人のうち、15人以上はすでになくなったが、現在でも、第五福竜丸の冷凍士だった大石又七さんをはじめ何人かは、肝炎や肝がんなど一部障害を抱えながら暮らしている。カルテの発見を契機に、きちんと死因を解明し、その教訓を生かさなければならない。

 ● 東海村臨界事故の治療記録を生かす

 Imgp9588jco もう一つ注目したのは、第五福竜丸事件(1954年)とカルテ発見(2009/2010年)の間にはウラン加工工場での

 東海村臨界事故(1999年)

があるという点である。

 放射能を持たない中性子だが、連続的な核分裂という臨界に伴い発生する中性子線を大量に浴びることの危険性を具体的に示した日本で初めての事例である。

 わかりやすい言い方をすれば、広島、長崎の「ピカドン」の恐さである。

 これは放射能による内部被ばくではないが、これもまた放射線障害事故であることに変わりはない。死因は多臓器不全で、二人の作業員が亡くなった。全体で約20Sv(シーベルト)と、致死量をかなりこえる非常に強い中性子線を一瞬で浴びた作業員(35歳)は、3か月後に死亡。もうひとりの作業員(40歳)も7か月後に亡くなっている。

 今回の新藤監督映画を見て、死因の解明とは別に、あらためて外部被ばくや、内部被ばくの詳細について、現時点での知見に基づいて解明する必要性を痛感させられた。 

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