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なぜ千年もの間信じられてきたのか ---- 天動説「アルマゲスト」

Image2303 (2016.03.09)  先日、BSプレミアムの

 コズミック フロント NEXT

というのを見ていたら、古代ギリシャの天文学者、プトレマイオスの大著で天動説を確立させた

 『アルマゲスト』(写真= 日本語翻訳)

を紹介していた。コペルニクスの地動説をとなえた  『天球の回転について』

やニュートンの万有引力の法則を確立した

『プリンキピア』

と並んで、天文学の三大著作の一つなのだが、その中では最も古い。

 若いころから天文学に興味を持っていたブログ子は、長年、

 なぜ、千年もの長きにわたって天動説が信じられてきたのか

という疑問を持っていた。それが、この番組で氷解した。天空上での月や惑星の動きを周転円という考え方を使って再現する幾何学的な理論書なのだが、現代から見ても

 その精密さがあまりにも高かった

ことだと理解できた。古代ギリシャでは観測機器の観測精度があまりよくなかったこともあり、その精度の範囲では十分、月や個々の惑星の動きを、この理論書で幾何学的には再現できたのだ(もちろん動力学的には間違っていた)。このことが、理論書の複雑さもあって、そして、地球が宇宙の中心であるという天動説を教義の中心にすえている教会の権威ともあいまって

 天動説は正しい、真実だ

と千年ものあいだ思い込ませる結果になった。「アルマゲスト」は、当時の科学や数学、つまりユークリッド幾何学に基づいた十分合理的な幾何学的学説だったといえる。

 ● コペルニクスもまた誤った

 では、それでは、なぜコペルニクスは、この権威ある、そしてまた正確無比な幾何学的な理論書に疑問を持つようになったのか

ということが気になる。この辺に鋭く切り込んだのがこの番組のミソ。

 実は、正確無比というのは、月や惑星が動く軌跡の再現だけのことであり、たとえば月のような形のわかる大きさのある天体の場合、理論から動きに伴って予想される月自身の大きさの変化までは周転円ではうまく再現できなかった。理論からは月の大きさは1割ぐらい変化してもいいはずなのに、実際の月の大きさにはほとんど変化がないことに、コペルニクスは気づいた。

  惑星についても同様で、どの惑星についてもその動きは個々には「アルマゲスト」の周天円で再現できた。ところが、ほかの惑星たちとの位置関係、たとえば星空での惑星直列の現象などはまったくといっていいほど、当然ながら再現できなかった。わかりやすい言い方をすれば、周転円という幾何学上の便宜で導入したツールでは星空で展開するすべての動的な現象は整合性をもって、とうぜんながら説明できず、

 いわば馬脚をあらわした

というわけである。こうしてコペルニクスはついに天動説を捨てることになる。そしてどうしたらこうした矛盾を説明できるすっきりした自然なモデルは何かを、後半人生の数十年をかけた。そしてついに最晩年に地動説を世に問う

 「天球の回転について」(1543年)

を出版する。死の床にあったときに、印刷されたばかりの本を手に取ったというきわどい出版だった。

 おもしろいのは、番組では触れられていなかったが、コペルニクスのこの本でも、やはり現実の天空を完全には再現することができなかったという点である。

 その原因は、惑星や月の軌道は完全な、つまり当時としては神聖な円であるという仮定そのものが間違っており、実際は少しゆがんだだ円だったからだ。

 ● 科学者も信念で行動する

 天体の軌道は円ではなく、だ円であるというこのことに丹念な観測データから気づいたのは、コペルニクスの死後数十年後に登場するドイツの天文学者、ケプラーだった。やがてこの事実から、ニュートンが万有引力の法則を発見し、惑星は太陽のまわりをだ円軌道上を運行していることを導き出す。

 そして、確かに、地球は不動ではなく、太陽の周りをまわっているということを、具体的なデータで実証して見せたのが、

 星の年周視差の発見(1840年ごろ)

である。それは、実にコペルニクスの死後、300年もあとだった。

 あらためて思うのは、人は、その真偽に関わらず信念に基づいて行動する、ということだった。それは科学者であっても変わらない。

 そんなことを、「アルマゲスト」のプトレマイオスも、そして「天球の回転について」のコペルニクスの生涯のいずれにおいても語っているように思う。

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