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このインドなるもの 映画「ライフ オブ パイ」

(2016.01.02)  お正月の暇つぶしに、BSプレミアムの

 ライフ オブ パイ

というのを見た。3年前のお正月、劇場映画として公開されたものだが、見そびれていた。サブタイトルをストーリー的に言えば、動物園を経営する一家が動物も引き連れてインドからカナダへ移住する途中、乗った貨物船が嵐で遭難、家族のなかの少年が一人だけ生き残り、

 トラと(大西洋を狭い救命ボートで)漂流した227日

の過酷な物語というもの。見たのだが、この映画は何を描こうとしたのか、最近のハリウッド映画とは違いあまりに洗練されているので、見ている間にはまったくわからなかった。日本映画にはもちろん、ヨーロッパ映画にもない感覚が伝わってきた。ドタバタがない分、大海原を舞台としたこの映画には、見る者にじっくり考えさせるという不思議な力があった。

 この映画の監督、アン・リーは、この映画に何を込めたのであろうか。

 ブログ子の到達した結論を先に言えば、インドからカナダへの移住という設定のなかで、アメリカや西欧世界にはない

 インド的なものを描こうとした

というものである。その象徴が、インドだけに生息し、今や絶滅の危機にある圧倒的な存在感のベンガルトラである。一家の動物園で飼われてはいたものの、そして漂流中はなんとか少年と命をつなぎあっていた。しかし、漂着先のメキシコ海岸の砂浜に到着するやいなや、瀕死の少年の前をゆっくりと通り抜け、そのまま静かに野生のジャングル世界に戻っていった。

 ラストシーンは、その間、トラは一度たりとも少年のほうを見やることはなかったというもの。そして、その振り返ることのなかったトラの後姿をじっと悲しげに見つめていた衰弱しきった少年。砂浜に倒れていた彼は駆けつけた住民たちによってようやく文明世界に戻っていった。最後には、ただまばゆいばかりの砂浜ビーチの照り返しのみが映し出された。

 きわめて洗練された監督のメッセージであり、このシーンを描きたいがために、この映画をつくったということがようやくわかった。遭難で亡くなったものの、少年の父親は合理的な精神、科学的なものの考え方が大事だいつも教育していた。しかし、監督は、それだけがこの世界のすべてではない、インド的なものもあることを伝えたかったのだろう。

 具体的には、ベンガルトラは、このインドなるものの象徴として描かれたと思う。それをもっと具体的に言えば、インド人の心の中に深く刻み付けられている西欧文明への同化の拒否だといえば言いすぎであろうか。この映画の舞台をカナダへの移住の途中の遭難に設定したことに強い意味が汲み取れる。

 ● 「大西洋漂流76日間」

 このブログでは、ヨット遭難による大西洋の漂流について、2014年9月9日付で

 「大西洋漂流76日間」(S.キャラハン、早川書房)

について書いた。なぜ、一人ぼっちで2か月半も生きつつけられたのか、耐えられたのかについて、その要因を4つほど考察してみた。今回の映画の漂流日数はこの3倍も長い。到底、現実の漂流を描いたものではない。同じ大西洋漂流でも、キャラハンの物語は

 アメリカ人の、ドキュメンタリー風な事実の形而下物語

であり、

 パイの物語は

 インド人の、超自然的な目には見えない形而上物語

という違いがある。

 そんな思いもあり、ヤン・マーテルの原作『パイの物語』をいつか読んでみたい。映画の後半に出てくる人っ子一人いない美しい「謎の浮島」が何を意味するのか、あるいは原作と映画のテーマの違いなどもわかるかもしれない。そうすれば、また違った感想が出てくるだろう。なかなか難解な映画だったが、観る者に考えさせようという意図のある点では成功していると思う。

 それはともかく、「男はつらいよ」寅さん映画の嫌いなブログ子だが、お正月映画だからといって、バカにはできない映画もあることを思い知った。 

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