« このインドなるもの 映画「ライフ オブ パイ」 | トップページ | 不沈戦艦大和の泣きどころ 設計者の証言 »

今だけに生きているチンパンジー      ほかの動物にはない人間の進化的本性とは

(2016.01.04)  ひまなお正月というのもいいものだ。あまりに暇だったので、BSテレビの放送大学「特別講義」を拝見した。

 チンパンジーの心・ヒトの心

  人間の本性の霊長類的起源

という講義だった。話が、松沢哲郎さん(京大霊長類研究所所長、愛知県犬山市)だと知って、聞いてみた。さすがは松沢さん、見事な、そして説得力のある、しかもわかりやすい内容だった。

 ● 類人猿には想像する能力がない

 結論を一言で言えば、霊長類の中では進化的に人間に一番近いはずの

 チンパンジーの心には過去のことも、未来のこともない。目の前の現在のみに生きている

というものだった。絶望もないが、そのかわり希望もない世界に生きている。驚くべき結論である。これに対して、人間の心には過去や未来も含めて

 想像する能力が進化的に備わっている

という。チンパンジーの脳にはこの想像する能力がない。しかし人間の赤ちゃんにはこの想像する仕組みが進化的に脳にしっかりと刻み込まれている。

 これらのことをほとんど疑いのない実験や観察で確かめたことを、わずか45分の授業のなかで具体的に紹介していた。

 今から600万年から800万年前、霊長類(分類学的には「目」)のなかのチンパンジー属から進化的に分岐したヒト(科)。ほかの霊長類にはない、したがってほかの動物にもないヒト(科)としての

 ヒトの本性は想像する能力

であるというわけだ。ヒト(科)には、3つの属、古いほうからアルディピテクス(属)、アウストラロピテクス(属)、ホモ属があるが、いずれも想像する能力が備わっていると考えられている。

 ● 人間の「社会性の起源」

 以下は、ブログ子の仮説だが、この3属のうち、約200万年前最も新しく分岐したホモ属(この属の中で現在も生存している種はたった1種しかいない。わたしたちホモ・サピエンス種である)のみが、おそらく、想像する力をさらに発達させて

 ホモ・サピエンス種の(相手に)共感する能力、共感力

を獲得したのだろう。人間の赤ちゃんは生まれながらに想像する能力を持っているが、共感力は後天的な行動を通じて少しずつ養われる(今の類人猿ではいくら訓練してもこの共感力を生涯持つことはできない。前提となる想像力がそもそも脳の働きとして具わっていないからだ)。これが、ほかの動物にはない

 ホモ・サピエンス種の社会性の起源

であり、ホモ・サピエンスがかろうじて絶滅せずに生き残り、今も生きながらえている原因ではないか。この共感力によって

 自己犠牲を惜しまない、あるいは見返りを期待しない家族のルールと対等のギブ・アンド・テイクの地域共同体ルールの両立

を図っていった。森に暮らすゴリラは家族のルールを、木から地上に下りたチンパンジーは主として共同体ルールを選択した。しかし、食料を求めて地上からサバンナへとより生存競争の厳しい環境に立ち向かっていった人類=最終的にはホモ・サピエンスは、その両立を図ることで生きのびていった。

 ●行動が共感力を進化させた

 脳がトップダウンで行動を決めているのではない。こうした人類の環境への行動が、遺伝子の制約の中で脳の構造を決める。その結果として心、今の場合、共感力を強めるように人類は進化し、生きのびてきた。

 そんなことを「想像」させる見事な講演だった。

 なお、人間(ホモ・サピエンス)の場合、何歳ごろから、想像力から発達させたこの共感力を持つようになるのかということをうかがい知る番組として、

 「4歳児のヒミツ」(Eテレで2015年9月6日深夜再放送)

が面白かった。イギリスの研究者たちのある保育園に密着した実験の様子をまとめたものだが、子どもたちは友情をどのように築くのかなど、大人たちの知らないリアルな日常を活写している。友情を育むのに必要な共感力は4歳児ごろから発達することがよくわかる。つまり、

 人間の子どもが想像力や共感力といったほかの動物にはない高度の能力を身につけるようになるのは、4歳児以降

ということになる。そういえば、子どものころの大人の過去の記憶も、確かなものは小学校に入学後(6歳)から。あやふやなものも含めてもせいぜい4歳ぐらいまでであろう。3歳のころまでの記憶は、たとえその様子をスナップ写真で見せられても本人の記憶にはそれを体験したという実感は残っていない。

 つまり、人間の4歳児は、もはや

 今だけに生きているというチンパンジーの世界

には生きていない。過去も未来も想像できる。そして、この番組のように相手の立場を想像し理解し、その上で友情を育むには欠かせない共感力も身につけるようになる。このことは、入園したばかりの年少組の保育園児(3歳児)には、とてもむずかしい。

  ● 補遺 講演を聴いた後に補足も入れて作成したメモ

01_06_0

|

« このインドなるもの 映画「ライフ オブ パイ」 | トップページ | 不沈戦艦大和の泣きどころ 設計者の証言 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/63001265

この記事へのトラックバック一覧です: 今だけに生きているチンパンジー      ほかの動物にはない人間の進化的本性とは:

« このインドなるもの 映画「ライフ オブ パイ」 | トップページ | 不沈戦艦大和の泣きどころ 設計者の証言 »