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〝正直者〟ワトソンの反論 『二重らせん 完全版』 

Image2239 (2015.10.10) その内容もさることながら、その書き方にとかく批判の多かった、あるいは専門家の間でも話題になったDNA構造の発見者の一人、J.ワトソンの

 『二重らせん』(原著1968年。江上不二夫/中村桂子訳、講談社)

について、45年ぶりの改訂版

 『二重螺旋 完全版』(原著2012年。青木薫訳、新潮社)

が出たというので、最近読んでみた。

 生命の設計図とまで言われるDNAの構造の解明に向けた激しい先陣争いの末、英科学誌「ネイチャー」1953年4月25日号( 写真 )に一番乗りで掲載されるまでの迫真のというべきか、あけすけな内幕というべきか、その内情をドキュメンタリー風に〝正直者〟、ワトソンの視点から書きつづったものとされている著作である。

 とはいえ、先陣争いをめぐる言い分をそのまま信じる関係者は少ない。激怒するものも少なくなかったという。

 今回の新著は、完全版と銘打っているが、失ってしまったとされていた50年前のさまざまなやり取りの手紙が、大量に発見されたことを受け、それらをできるだけ盛り込んだものになっている。

 旧著よりも新著のほうが一層事情や背景が複雑で錯綜したものになっているが、一読したブログ子の感想を一言で言えば、

 旧著に対してはさまざまな批判や非難がなされてきた。しかし、それらはお門違い

ということを新著は言いたかったのではないか

というものだった。

 つまり、いかに正確かつ慎重に当時の事実に基づいて旧著が書かれたかということを最近発見された新資料で、そして親しい研究仲間とはいえ第三者の目と分析を通じて証明しておきたいという狙いがこのワトソン氏( 写真下 )の新著にはあった。

 いわば、批判に対する45年ぶりの反論の書なのだ。

 新著のミソは、旧著はワトソンの単著なのに対し、新著は2人の第三者による分析が中心であることだ。主張の信憑性を高めたいという思惑からか、ワトソン氏自身が反論の表舞台には登場してこない。

 別の言い方をすれば、濡れ衣を晴らすためには、最近発見された当時の手紙類という事実をして語らせるのが一番という戦術である。

 いかにも、科学者らしいフェアで、合理的な精神のようにも思える。

 ● 非啓蒙的な科学ノンフィクション

 しかし、注意すべきは、ワトソン氏が現在存命であるという点。

 論旨にあう都合のいい手紙だけを引用したりするなど恣意的に情報を操作していることも十分考えられる。都合の悪いやりとりのデータは出さない。

 つまり、発見された手紙を公正に利用しているかどうかが問題。翻訳者にはこのことはわからない。知っているのは正直者、ワトソンだけというわけだ。

 _j79280294_50814900 そもそも当時、ワトソンは20代前半で、まだ学位を取得したばかり。うがった見方をすれば、そんな若き野心家がたとえば、科学者としてある種の逸脱行為をしたとしても、なんら不思議ではない。むしろ自然なことであり、研究社会にかぎらず青春というのはそういう残酷さがつきまとうものである。

 先陣争いの物語の真実、たとえば最後の最後、DNAの元となる核酸の分子構造は基本的に二重らせんであるとワトソンが理解したのは、あるいは気づかせたのは何だったのかという真実は、出るとしてもやはりワトソンの死後のことだろう。ひょっとすると、それはこれからも謎のままになるかもしれない。むしろ新著によって、ますますその可能性が強くなったと感じた。

 しかし、情報交換がホットに行われる最先端の科学者たちの研究現場は単純ではなく、もともとそういうものだともいえよう。国によってその研究スタイルも異なるという事情もことをさらに複雑にしている。

 ただ、はっきりしているのは、論文という形で明確に先陣を果たしたのはJ.D.ワトソンたちだったということ。発見にたどり着くまでに何があったかその如何にかかわらず、これは厳然たる事実であり、動かない。

 そんな冷酷な感想をブログ子は持った。

 と同時に、完全版と称する、あるいは詳細な注釈と絵入り「二重らせん」と原著タイトルとして銘打った新著。それ自体が、駆け引きや出し抜きなど科学的な発見の人間臭い一面、そして将棋で言えばなによりもスピードが決め手になる終盤の寄せのようなダイナミックな一面を見事に描いてくれていると強く感じた。

 その意味で、新著は啓蒙書とは程遠い、いい意味でも悪い意味でも、

 人間の顔をした科学ノンフィクション

といえば、いえるだろう。啓蒙書とはほど遠いところから、科学の何たるか、その本当の姿がみえてくる気がする。

 ただ、それが名著とまで評価が高まるのかどうか。それがわかるのは、ワトソン氏、87歳の死後、しばらくたってからのことだろう。

 以上が、〝正直者〟、ブログ子の言いたいことである。 

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