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公開から1年、「吉田調書」の教訓とは何か

(2015.09.14)  BS-TBS週刊報道LIFEで、先日、9月13日日曜日夜

 専門家と読む「吉田調書」

という特集を放送していた。福島原発事故で所長というか、原発事故の対応本部長として、吉田昌郎所長はどのような指示、行動、決断をしたのかについて、非公開を条件に政府が詳細に聞き取った調書の検証である。A4の大きさにして400ページ以上もある証言記録から、何を学ぶかというのがテーマ。科学ジャーナリストがゲスト解説者役をしていた。

 ● 見ごたえのあったTBS検証報道

 事故対応にあたった吉田さんは、事態の深刻さから死を覚悟したほどだから、この証言には、記憶の混乱はあったとしても、意図的なウソはないだろう。それだけに、教訓も多いはずだ。

 事故直後に複数発表された事故調報告とは違い、事故対応に直接かかわった当事者の証言という別の角度からの検証であり、何が問題だったのか、調書をもとに冷静にしかし生々しさをもって考えることができていた。

 さらに調書公開から1年というさまざまな観点から検討のできる時間的な余裕があったことから、放送に先立って2人の専門家に取材するなどの周到さも発揮している。吉田さんの対応の限界も指摘するなど、総じて、見ごたえ、聞きごたえのある誠実な番組だったと思う。

 専門家として、

 『メルトダウン』の著書もある田辺文也氏(元原子力研究所主幹、社会技術システム安全研究所主宰)

と、

 原子炉設計技術者の田中三彦氏(元国会事故調委員=黒川委員会)

だった。スタジオに科学ジャーナリストをゲストとして招くなども含めて、メリハリのある人選だったと思う。

 ● 正常時と異常時の対応、区別を  2つの教訓

 結論として、二人の専門家によって指摘された教訓は以下の通り。

 第一。

 吉田さんは、事故当時所長をしていたが、所長をしていたがゆえに、全電源喪失という異常事態にもかかわらず、通常通り、自動的に、つまり規則どおり、災害対策本部長として指揮を執り続けざるを得なかった。しかし、これは適切ではなかったのではないか。

 アメリカ、ロシアなど諸外国では、原発事故については、原子炉事故に精通した危機管理の専門家が法的に整備され、対応している。

 吉田さんは補修課(正常時のメンテナンスを担当する部署)出身であり、シビアアクシデントという異常時の危機対応が担える専門家ではない。航空機が飛行中に何らかの異常事故に遭遇した場合、地上の整備士では対応できない。すくなくとも危機対応の能力のあるベテラン機長でなければ、墜落を食い止めることは無理。

 事実、吉田さんは調書で復水器(IC)の存在を知らなかったと証言している。知っていれば、全電源喪失であっても、少なくとも2号機、3号機のメルトダウンはなかった可能性が高いという。

 また、本部長が危機対応の専門家ではなかったことは、事態を深刻さの度合い別に3段階に分けてあらかじめ定められていた危機対応のマニュアルがあったのに、無視するという事態につながってしまった。その結果、この無視は事故をより一層深刻化させた可能性が高いという。

 第二。

 原発の安全性を確保するハード技術は数十年前に比べて、格段に向上した。しかし、それだけでは原発の安全を確保することは困難という認識を持つべきであるという教訓が第二。

 深刻な危機に立ったとき、安全を確保するためのオペレーション技術と、それを的確に運用できる人材の育成が不可欠であり、急務である。

 ● 吉田さんが訴えたかったこと

 以上の2点をまとめると、

 正常時と異常時とは、組織論的にも、人材論的にも明確に区別し、対応する。これが吉田調書から学ぶことだろう。正常時の専門家が異常時も的確に対応できるというのは誤解である。死を覚悟したという吉田さんは、そんなことを調書で語りかけているといえる。

 しかし、再稼働が始まろうとしている今になっても、その区別が組織論的にも、人材論的にも確立していない。

 吉田さんが、この事態を知ったら、なんといって嘆くだろう。 

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