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憲法に集団的自衛権禁ずる明文規定はない

(2015.08.21) 床屋で何気なくパラパラと読んだのだが、「週刊ダイヤモンド」に

 国際法は憲法に勝るが世界の常識

 集団的自衛権は憲法違反の大間違い

というのが目にとまった(オピニオン「縦横無尽」欄、7月11日号、2015)。見出しだけを読むと、何をバカなことを言っているのかとあきれてしまった。のだが、このオピニオンの筆者が信頼できるジャーナリストの櫻井よしこさんだと気づいて、中身を丁寧に読んでみた。国家基本問題研究所理事長でもある櫻井さんが根拠のないことを書くはずがないからだ。

 その結果、誰がつけたのか知らないが、上記の見出しは要領を得ない上に、おかしいことがわかった。見当違いな見出しなのである。

 ● 櫻井よしこ氏の指摘

 櫻井さんは、安保法制案は違憲性が強いという大方の憲法学者のなかで、日本大学の百地章教授の指摘に注目している(6月26日生放送のネットテレビ「言論テレビ」番組での発言。櫻井氏がインタビュアー兼キャスターで毎週金曜日に放送)。

 紹介さている指摘の内容を要すると、こうなる。

 日本国憲法より上位の国連憲章という国際法は、加盟国の確固たる固有の権利として集団的自衛権を認めており、この国際法上の権利の行使を、日本が憲法の明文規定で禁じているならば、行使は憲法違反である。しかし、現行憲法には9条という戦争放棄条項はあるものの、集団的自衛権を直接放棄するとの規定は、ない。

 したがって、日本は、戦後の国際社会において一貫して集団的自衛権を持っているし、その行使も現行の日本国憲法上はなんら禁じられてはいない。

という国際法上の論理である。国際法上存在するとされる権利は、憲法にその放棄を規定する明文規定がないかぎり、行使することを国内的にも禁止されていないとみなされるという法律論である。

 櫻井さんは言及していないが、このことは、立憲主義かはたまた非立憲主義かという憲法論の問題には無関係に成立する。なぜなら、憲法の上位にある国際法と、各国の憲法の関係から導き出されたものだからだ。立憲うんぬんとは次元の違う国際法上の法律論なのだ。

 ● 大御所、大石京大教授も指摘

 この指摘が、一私大の憲法学教授のテレビ発言だけなら、あるいはそれほど重視しなくてもいいかもしれない。

 ところが、日本の憲法学界の大御所的な存在といわれている京大の大石眞教授が、法律の専門誌「ジュリスト」で、今回の論議以前の2007年に、この指摘についてすでにきちんと専門家として指摘している。

 櫻井さんも、この事実を指摘している。大石教授はそこでこう記している。

 「憲法に明確な禁止規定がないにもかかわらず、集団的自衛権を(9条があるからといって)当然に否認する議論にはくみしない」

 出典を探してみると、

 「ジュリスト」(「日本国憲法と集団的自衛権」、2007年10月17日号、有斐閣)

であることがわかる。

 憲法学者の9割が「法案は違憲」と断じている。しかし、本当にそう言えるのか。違憲立法の審査権のある最高裁で、真正面からの法律論に基づいて、この法律の違憲性を否定される可能性がある。

 良識の府とされる参院では、あと一カ月以内となった採決の前に、この点について丁寧な、そして突っ込んだ論議が必要ではないか。「60日ルール」に持ち込むなどというはもちろん、論外である。

 床屋談義のレベルですましていい話ではない。

 ● 補遺 元最高裁長官も「違憲」と明言

 以上のことを書いたが、なんと、朝日新聞9月3日付1面準トップに

 「集団的自衛権行使は違憲」

 山口繁元最高裁長官

という、同社の取材記事が出ている。元長官は、その理由として

 違憲だという「従来の解釈が憲法9条の規範として骨肉化して」いることを挙げた。この骨肉化した規範を「変えるなら、憲法を改正」するのが正攻法とも指摘する。いかにも国民にわかりやすい実務家らしい判断だと思う。

 また、安全保障に関する国際的な環境の変化などを理由に、限定的に集団的自衛権行使を容認するのは、法治主義、立憲主義とは何かをわきまえていないとも厳しく批判している。

 法案の違憲性を審査するのはあくまで最高裁だと言い募ってきただけに、この元長官による9条骨肉化論は、安倍内閣に大きな打撃となるだろう。

 いずれも、実務家らしい見解であり、安倍政権は苦しい立場となった。

 この元長官の発言について、ひるがえって考えると、この法制は、たとえ成立しても、ことあるごとに訴訟が繰り返される事態が予想される。つまり、事実上、有効な運用や期待される機能はとうてい発揮できない可能性が高まったと言えそうだ。

 同元長官は、橋本内閣から小泉内閣時代までの5年間、長官職を務めていた。

 なお、この元長官発言については、共同通信社も、中日新聞社など各地方新聞社に、独自の取材も加味して、配信している。

        - この補遺 2015年9月4日記

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