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ウォール街のラブ・コメディ        -  新自由主義の正体

(2015.06.24)  2008年に起きたリーマンショックをテーマにした史上最強のマネー・エンターテインメントとうたった

 「キャピタリズム マネーは踊る」(M.ムーア監督、2009)

Imgp784420150621 をある小さな勉強会で見た。原題は

 キャピタリズム あるラブストーリー

だった。

 見た感想を言えば、原題のほうが内容とよくマッチしている。異常なまでにお金を愛するウォール街の人たちを、毒舌を通り越し、皮肉たっぷり、ユーモアたっぷりに描いているからだ。

 監督が言わんとすることは、

 マネーは踊る、されど誰も罰せられず。これこそが歯止めなき新自由主義の正体だ。この事態を「21世紀の資本」は乗越えられるか。このままじゃ、とても無理でしょう

というものだ。

 ● M.ウェーバーの言葉

 100年前にドイツの社会学者、マックス・ウェーバーが、資本主義はどこから生まれてきたのかということを分析した

 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

が有名だ。資本主義の精神はキリスト教の教えからであり、その倫理というのは、勤勉と合理精神に伴う禁欲である。

 それなのに100年後の現代において、プロテスタント的な倫理が、いったいどうして非人間的なお金がすべてという強欲資本主義の精神を生み出す結果になってしまったのか

というのが、正直な感想だった。

 ましてやプロテスタントのなかでもひときわ禁欲的なピューリタンの国、アメリカがなぜこんなに、歯止めのない金、金、金という欲望の世界にのめり込んでいってしまったのかというのが、とても不思議である。

 倫理観が資本主義の精神を培ったと分析して見せたマックス・ウェーバーが生きていたならば、これに対し、なんとこたえるだろう。

 ● 金融王、モルガンの言葉

 そう思っていた矢先先日、同じテーマで、BSプレミアムが、

 リーマンショック 欲望が招いた破たん

というのを放送していた。こちらのほうはラブストーリーという洗練された手法ではなく、ストレート物語である。投資銀行、リーマン・ブラザーズの内情にポイントを絞り、論理明解に話を進めていた。

 2000年代前半、アメリカでは住宅ローンを組むことのできる法的規制条件がドンドン緩和された。その結果、ローン債権のリスクがドンドン高まっていく。その様子が、ドンドン下がるリーマン投資銀行株価の動きなどを通し具体的に描かれていた。そんな危ない債権をむしろ買いあさって、ハイリスク/ハイリターンで収益を上げようと賭けに出て、リーマン投資銀行は破たんした。

 そんなストーリーなのだが、リーマン社員のボーナス・給与は自社株で支払われたから、破たんの影響は株を売り抜けなかった社員にとっては計り知れない。一夜にして文無しということもあったという。

 そんなストーリーだから、面白みはなかった。のだが、最後のエンディングが秀逸、というか、事件の核心を突いていた。

 引用されたのは、100年前のアメリカの金融王、J.P.モルガン(モルガン財閥の創始者)の言葉で、

 「人は、隣人がいとも簡単にお金をもうけているのを見ると、つい理性を失い、そこに潜んでいるリスクを忘れてしまう」

 人間の抗いがたいこの情動こそ、プロテスタンティズムのけいけんな経済倫理をなんなく打ち砕いてしまったのだ。

 新自由主義のあやうさの正体は、ウェーバー同様、

 リスクを考慮するという理性よりも人間心理の情動のほうが強力だということを見落としていること

だ。抑えがたい情動には合理精神は存在しない。これが歯止めなき新自由主義のあやうさである。

 リーマンショックの教訓とは、歯止めのない金融資本主義は社会を崩壊の淵に立たせることを示したことだろう。

 ● 「21世紀の資本」とは

 もっとわかりやすく言えば、ウォール街の人たちは、サブプライムローンというリスクの大きい、いわば

 毒入りワイン

を飲み続けたのだ。酔いがまわり始めてもなお、またそれが毒入りだと理性ではわかっていてもなお、その心地よい酔いがリスクを忘れさせ、さらに飲み続けることになった。

 「21世紀の資本」は、社会が崩壊しないためには何をすればいいのだろう。それはわからない。しかし、何をしてはいけないのか、この映画とテレビドキュメンタリーは、表現手法は異なってはいたものの、ともに同じことを語っているようにみえた。

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