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動く秒針まである家康のゼンマイ洋時計

Imgp7821_32015.06.24)  日本で使われた最古の機械時計というのは、久能山東照宮博物館(静岡市)に保存されている

 家康の洋時計(1584年、ベルギー・フランドル製)

である(製作者=ハンス・デ・エバロ)。1611年、スペイン国王が晩年の家康に贈ったものらしい。

 時計の日(6月10日)を前に、出来上がったばかりのその精巧な複製品がブログ子の近所にある浜松市博物館に展示されている。というので、散歩がてら先日拝見しに出かけた。

 ● 浜松市博物館にその複製品

 館内には、写真のように家康の「しかみ像」の近くに展示されていた(写真右)。そこに添えられた説明は、至極あっさりしている。のだが、よくよく、このレプリカを見ていて、おどろくべきことを〝発見〟した。

 本物にもあるのだが、複製品に、時針と分針のほか、なんと、真正面の文字盤の中心に小さくはあるが、

 動く秒針

まであった(写真)。動くことは、このブログに写った写真のいずれも秒針の位置が異なることからもわかるだろう。

Imgp782845_3  もしや、と思って、秒針が2回転するまでの時間を計ったら、きっちり2分だった。1回転が1分と正確に機能している。そこでふと気づいた。時針も分針も正確なのだ。

 この写真を撮ったのは、夕方の4時ちょうどくらいから4時20分くらいの間。写真をみるとわかるように、時針も分針もほぼ正確に動作し、時を刻んでいる。つまり、時計をカメラで撮った時刻がほぼ正確にその文字盤に写っている。

 これはどういうことだろう。

 今から430年も前に制作されたゼンマイ時計が、こんなに正確に時を刻むことができるはずはない。この時計が製作された前年の1583年、振り子の等時性がガリレオによって発見された。それが秒単位という精度の高い振り子時計として実用化するのはほぼ100年後の1650年代以降。ましてや秒単位で時の刻みを一定に保つには精度のよくないゼンマイ仕掛けの家康時計ではできないはずだ。

 そんなこんなで、博物館の学芸員にこの疑問をただしてみた。こうだった。

 Imgp7835416_2 今から考えると無意味に思える。しかし、今と同様に1日24時間、時間の刻みは時針で、分の刻みは分針で行う。1分=60秒という基本的な考え方を、そのままゼンマイ動力源と、複雑に組み合わされた歯車だけで実現しようとしたのではないかという。

 つまり、1秒を60回刻むと1分、その1分を60回繰り返すと1時間。その1時間が24回歯車で数えればちょうど1日が終わるように歯車群の組み合わせをうまくセットするというわけだ。

 職人魂が秒を刻む秒針歯車まで製作させた。そして、その精巧さ誇ろうとしたのであろう。

 ここで種明かし。

 それにしてもブログ子は展示複製品の今も正確に1秒、1秒を刻む精巧さにおどろいたのだが、実は、これ

 複製したのは外観だけで、中身の歯車群は複製していない。中身は今日の電波時計でそっくり代用、電波時計の出力をそのまま復元した文字盤に伝えているだけ

という説明を学芸員から聞いて、またびっくり。この複製時計、ゼンマイでは動いていないのだ。つまり、中身は電波時計。

 それにしても、秒針、分針、時針が400年以上たってもうまく連動して文字盤上に時を告げているところはやはり、感心せざるを得ない。

 ( 注記 2015年10月21日、修理されたこの国宝時計とともにNHK番組に出演した久能山東照宮の宮司の説明によると、文字盤中央のごく小さな針は、目覚ましの時刻をセットするためのものだという。秒針、分針という話はどうやら見当違いらしい )

 ● 当時は不定時法で実用性はなかった

 もうひとつ、贈られた家康はこの時計を手元に置いて大切にした。というのだが、実は当時の日本は当時のヨーロッパのような定時法ではない。したがって同じ日でも夜と昼とで1時間の長さが異なる。また、同じ昼でも夏と冬とで、つまり季節の違いで1時間の長さが異なる。

 だから、家康も床の間の飾りとして重宝したらしい。定時法を前提につくられたこの時計は日本に適した実用時計としては使われなかった( 補遺 )。

 じつは、このことが幸いした。というのは、実用としては使わなかったので外観、中身が製作された当時のまま保存されることになった。実用品として使っていた場合には、故障したら当然、部品を入れ替え、修理する。当時高価な実用品だったヨーロッパではこのため製作当時の中身のまま残っている時計は極めて珍しいという。

 数年前の大英博物館の専門家の鑑定でも、「極めて貴重」との結果が出ている。

 ● なるか、国宝

 このそっくり残ったという僥倖が

 家康の洋時計を国宝指定に

という運動を生んだといえよう。ここ数年、この時計の世界史的な貴重さから、文化庁あたりでも国宝指定の動きが本格化しているらしい。

 そんなことに思いを馳せた博物館への小雨模様の散歩だった。

 以下の写真は、晩年の家康が愛用したとされる目器(めがね、レンズも復元したレプリカ)。贈られた洋式時計のとなりに展示されている(久能山東照宮博物館にあるレンズのない本物は重文)。

  このメガネ、ふと思ったのだが、今の眼鏡のような耳にかける部分がない。こちらのほうは、実用品であるはずだからどのようにして使ったのだろうという素朴な疑問がわいた。そうした説明がないのはいかにも不親切だと思った。不明というのであれば「実際の利用法は不明」と書くべきだった。

 Imgp7825

 ● 注記

 家康の洋式時計の詳細については、久能山東照宮の落合偉洲宮司による

 『家康公の時計』(2013年、平凡社)

という著作がある。大英博物館の専門家による詳しい調査と鑑定の様子も詳しく書かれている。

  ● 補遺 不定時法の腕時計

 独立時計師の菊野昌宏さんは、2015年の時計国際見本市(バーゼル)で

 不定時法時計「和時計改」

を発表している。しかも、おどろくべきことにコンパクトな腕時計である。昼と夜、また季節が変わるごとに12個ある時針文字の間隔が変化する。つまり、普通の腕時計とは違って、この時計は今、夜なのか昼なのか、また季節はどうなのか、ちゃんと知っているのだ。デジタル時計ならいざ知らず、歯車だけの組み合わせでどうコンパクトに実現させるか、その秘密を、きっと菊野さんは江戸の時計職人から学んだのだろう。

 分針の12個の刻みは等間隔(区切りだけで文字の表示はない)。秒針はない。動力源はゼンマイ。

 お値段は1800万円らしいのだが、これだったら、家康も実用性があるので腕にはめたであろう。セイコーは製品化の段階で協力しているという。

 なお、参考までに、このバーゼル国際時計見本市2015(3月開催)のほかの出品作品については、

 取材班を派遣した「週刊ダイヤモンド」(2015年7月11日号に、

 新作腕時計図鑑

として、100点近い腕時計が紹介されている。数十万円から1億円を超える

 リシャール・ミル社のトゥールビヨン「フルール」

までをカラーで紹介している。5分置きに文字盤にある花びらが開閉するというスイス製芸術品。この時計、2015年秋には、30台限定で発売されるらしい。

 

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