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「人にも起きているとは限らない」の怪   - しのびよる低線量の内部被ばく

Imgp7752_2 (2015.06.09)  福島原発の近くに生息する野生の生き物が放射能汚染で、この4年間どのくらい内部被ばくしているか。

 その実態と健康への影響について、科学者たち4人それぞれの追跡調査の様子が、先日、NHK総合テレビでドキュメンタリー番組として放送された。調査対象となった生き物はコイやヤマメのほか、ウグイス、そしてより人間に近い牛だった。

  コイには、コイと長年付き合ってきた当の専門家でさえめったに出合わないような異常な痕跡が体内に見つかった。コイの免疫機構だけでは処理しきれないくらいの細胞死があったことをうかがわせる(右写真=ダブルクリックで拡大)。

 Imgp7762 別の専門家のウグイス調査では、体表に異常な〝おでき〟も発見された。汚染地に放し飼いされていた牛からも内科的な異常をうかがえさせるデータも得られている。

 この番組は東北地方ではすでに1月に放送されていた。のだが、今回、あらためて全国向けにも放送された。

 ● 人間の安全側に立つ

 今回の調査のポイントは、科学者たちがその分野の専門家としてそれぞれの生き物の通常の、したがって正常な姿を熟知しているという点である。その上で、これはおかしいと直感した。これが大事な点である。

 拝見したブログ子の感想と結論は次の通りである。

 これらの生き物たちは、等しく、

 等閑視されがちな低線量被ばくは、人の将来の健康への脅威であり、その対策については今すぐにも乗り出すべきである

と警告を発しているのではないかというものだった。

 以下は、この結論に関するコメント-。

  番組を見て、まず思ったのは、こうした異変が「人間にも起きるとは限らない」として低線量被ばくの人への影響を過小評価し、あるいは退けようとする姿勢は本当に正しい対処なのだろうかということだった。

 その上で言うのだが、今回のいずれの生き物の結果についても自然な解釈として「人間にも同じようなことが起きている」とするのが素直である。「起きているとは限らない」という解釈と結びつけるには相当の無理がある。

 なぜなら「起きているとは限らない」ことを示唆する調査結果が、別個の生き物について、しかも独立して調査した4人の研究者のいずれからも、得られていないからだ。少なくとも「限らない」という近接例を明示する挙証責任があろう。

 Imgp7759 ただ、自然な解釈ではあっても断定まではできない。そういう野外調査の限界というべきか、難しさを考えると、

 疑わしきは人間の安全側に立つ

というのが真っ当な行動の原則であろう。疑わしきは「黒」とまではいえないかもしれない。ものの、決して「白」ではない。あくまでも灰色。それを「白」といいくるめるのは、ためにする論理だといわれても仕方があるまい。

 1960年代、水俣病の被害が急速に拡大したのは、〝奇病〟と原因物質のメチル水銀との間の医学的な因果関係が明確ではないことを理由に、あるいはそれを盾にして対策を先延ばしし、放置したことである。灰色は白だと強弁したことに等しい。そのにがい失敗をまた福島で繰り返してはならない。

 ● 細胞膜の化学的で、効率的な破壊  

 それと、もうひとつ、今回のアプローチとは逆に、少し窮屈だが、人間側からのアプローチが国外にあることだ。人間への長期間にわたる低線量被ばくの脅威については、国際的な健康被害報告書

 チェルノブイリ事故から25年

 未来のための安全 ウクライナ政府報告 

がある(2011年4月)。報告書は、汚染地域で、甲状腺がんだけでなく、心筋梗塞など血管の病気が子供たちにすら多発している実態を詳細な診断データをもとに明らかにしている。

 報告書によると、大雑把な目安だが、年間で10mSv( =毎時数μSv 、健康目安は年間1mSv)ではっきりと健康被害がでている。今回の放送の調査地でも、大雑把だが、毎時数μSv = 年間換算で約10mSv、と同程度だった。当然ながら、とても、長期に滞在できる状況ではない。

 これら2つのアプローチを総合すると、冒頭述べたように、今回の生き物調査で起きていたことは、人間の将来の健康への影響を強く警告していると受け止めるのが整合性のある判断といえるだろう。

 この点について、もう少し踏み込むと、高レベル放射線は危険だが、

 低線量は安全だ

というのは、思い込み、ないし希望的な観測であり、神話の可能性もある。思い込みというのは細胞核内のDNA破壊を前提としているから起きたものであろう。がんに限らず、たとえば慢性疾患も視野に入れるのが正しい対応だと思う。

 とすれば、むしろ逆に、

 低線量では細胞膜の破壊がより効率的に起きる

という可能性もあり得る。事実、その具体的なプロセスを指摘している文献もある( ペトカウ効果、注記 )。

 この意味で、人をも含めた生物について、低線量被ばくの長期にわたる実態の調査がぜひとも必要といえる。

 とともに、たとえ困難が伴うことがあるとしても、低線量による人の健康への影響ないし被害の起きるメカニズムを具体的に突き止めることも非常に重要である。

 「だからといって、人にもそんな異常が起きているとは限らない」

という論理にここからも風穴を開けたい。この論理が低線量の問題解決にとって大きな妨げになっていると思う。

 目に見えないものにも論理が行き届く。それが科学的というものだろう。

 ● 比較対照のコイを求む

 Imgp7749 まだまだ道半ばの以上のような話をすると、これは福島県だけの問題のように考えがちだ。今回、コイの調査を通じ、その組織が相当にダメージを受けている可能性をとらえた鈴木譲東大名誉教授( 写真 )は、さらに調査に説得力を持たせるために、

 福島の汚染コイと比較対照できる非汚染地帯のコイの提供

を全国に呼びかけている。いまどき、

 放ったらかしのため池にエサも与えられずにたくましく生息しているコイの提供

というのはなかなかむずかしい注文かもしれない。このブログを見た読者で、そんなため池をご存知の方があれば、ぜひ鈴木譲氏と連絡をとって、協力をしてほしい(yuzuru.suzuki@xui.biglobe.ne.jp)。

 ( 写真はいずれも、6月7日放送の同番組テレビ画面から )

 ● ペトカウ効果とは

 低レベル放射線の生物学的な影響、とくにペトカウ効果については、グロイブ/スターングラスによる

 『人間と環境への低レベル放射能の脅威』(あけび書房、2011年)

という労作がある(翻訳は肥田舜太郎/竹野内真理)。

  生殖系の細胞核内のDNAを破壊する高レベル放射線は遺伝との関係で深刻である。その分、細胞内の化学反応によって細胞膜を破壊するとされる低線量被ばくはとかく軽視しがちになる。しかし遺伝には結びつかないものの、その被ばく本人の健康への影響は決して無視できないだろう。このことを、この著作は詳細なデータをもとにできるだけ具体的に警鐘を鳴らしている。 

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