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落下物、どこから狙っても「百発百中」

(2015.02.24)  先日土曜日のミニ科学番組(Eテレ)

 大科学実験

は、久しぶりに動力学の実験だった。

 吊るした物体を落下させる場合、落下と同時に狙いをつけた矢発射機の引き金を引けば、発射機が上を向いていても、下を向いていても、左下向きでも、どんな角度からの発射でも、また設置する発射機の落下物からの遠近に関係なく、百発百中で落下物を空中で撃ち落せるという実験をして見せていた。空気抵抗の違いを無視できるよう工夫していた。

 ● ガリレオの「ピサの斜塔」実験が土台

 ガリレオのピサの斜塔の落下実験を土台にしたみごとな発想である。

 軽い矢であろうと、重い落下物であろうと、その重さに無関係に一定の時間には一定の距離落下する。だから、最初の的狙いさえしっかりしている場合、落下と発射が同時であれば、この法則のおかげで自動的に矢は的に当たる。このことを実験は応用した。

 この番組のおもしろいところは、このあとの実験にあった。

 それでは、矢発射機20台を、上部に落下物を吊るした支柱の周りに配置する。支柱からの距離はだいたい等距離にしていたが、多少の違いは、先の実験からわかるように、実験の結果には影響をおよぼさない。

 周りに配置する場合、発射機の狙う方向をあえて異なるようにするため、20台の配置は、らせん階段上に並べていた。つまり、上のほうの発射機は下向き、下の発射機は上向きに矢を射ることになる。さらに、らせんだから、方向もそれぞれ少しずつ異なるという趣向である。

 落下と引き金が同時になるように機械系でつながっていた先の実験と異なる点は、20台にそれぞれ一人ずつ人員を配置していたこと。それぞれが落下と同時に狙いをつけた発射機の引き金を自分で引く。ここに

 発射と同時に引き金を引くとはいっても、人間系に微妙なズレ

ができる。このズレから理論的には百発百中のはずなのに、どれくらいが落下中の直径50センチの的に当たるのだろうか

という興味がわいてくる。

 第1回の実験では、20台のうち7本しか当たらなかった。それで、20人に何度か練習してもらい、あらためて本番。

 今度は20台のうち半分以上の12本が当たった。

 これはおどろくべき優秀な結果である。なぜか。

 どうして残りは、当たるはずなのに当たらなかったのか。計算してみればわかる。

 矢は発射後、約0.5秒で的までやってくる。このとき的は、地球の重力で約5.0メートル落下。このときの落下速度は1秒当たり約5メートル、つまり秒速5メートル。これは落下する的の直径50センチを0.1秒で通過する速さである。

 ということは、発射のタイミングは0.1秒以下の正確さで引き金を引くことが求められることになる。NHKの時報の精度並みを人間に求めるのは、限界に近い。

 大きい的には空気抵抗があるにしても、0.1秒早く引き金を引けば、的が落下してくる前に矢が通過してしまう。逆に0.1秒遅ければ、矢が的に到着したときにはもう下にいってしまっている。

 そんななか、12本も的を射たというのは、実験に参加した若いスタッフの反射神経が驚異的だったと言うべきだろう。

 ● 的中率を上げるには

 この的中率を上げるには、理論的にはできるだけ的の落下速度の小さいうちに発射することである。ということは、できるだけ、支柱の近くに発射機を設置すればよい。矢の飛行時間は短くなり、おそらく、ほぼ百発百中になるだろう。

 逆に、支柱からもっと離したらせん階段上に設置すれば、この的中率、20台のうち12台というのは大幅に低下するだろう。この場合だと、的はより高速で落下しているときに矢がやってくるので、当たりにくくなるという理屈である。

 ここまで書いてきて、ふと思った。

 かつて湾岸戦争のとき、アメリカ軍は高速で飛んでくるイラクの弾道ミサイルに悩まされた。そこで高速のパトリオットミサイルで地上から狙いをつけて迎撃し、着弾前に撃ち落そうとした。が、ほとんど撃ち落せなかったとの米軍側報告書が後日明らかになった。

 この実験番組をみて、なるほど当たらなかったのも無理はないと納得した。

 動かない地上の目標物ならともかく、音速に近い高速弾道ミサイルの空中での迎撃破壊は、攻撃側に多少の誘導装置があったとしても、きわめて難しい。音速をかなり超える宇宙兵器同士ならなおさらだ。ざっとみて、千分の一秒の精度で機械系を制御する必要がある。

 このことを実感した実験でもあった。

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