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神の「見えざる手」と、人間の「見える手」とは握手ができるか

(2015.02.03) 先日、NHKの

 クローズアップ現代

を見ていたら、今、話題の『21世紀の資本』(みすず書房)の著者、トマ・ピケティ教授(フランスの経済学校)が出演し、キャスターが直接インタビューをしていた。

 Image207820150130_3 21世紀の資本主義はどこへ行く

というのがテーマ。このままでは、19世紀のような流動性のない

  世襲型資本主義

になってしまうと警告する。莫大な資産を相続したものだけが繁栄する社会である。技術革新を刺激しない富めるものだけが富む社会に後戻りする。

 ● 話題の『21世紀の資本』

 質問項目そのものは、専門家に用意してもらったのだろうが、著書で教授の言わんとするところを、上手に引き出していた。ベテランのキャスターの面目躍如だった。経済学者を出演させなかったことが、かえって明解なメッセージを出す結果になった好例だろう。

 言わんとするところとは、資本主義のエンジンである

 市場メカニズムは万能ではない

ということだ。

 ● 資産収益率は所得伸び率よりも高い

 従来、経済学でいわれているような資産家と所得者の間の経済格差は、世代交代とともにいずれ解消するというのは、20世紀の初頭の不完全な研究から生まれたものであり、正確ではない。

  事実はその逆で、その格差は20世紀の間を通じて、大戦中の一時期を除いて、拡大を続けてきた。不動産、株式、預金といった資産の収益率のほうが、概ね、いつも労働対価としての所得の平均収益率(= その国の経済成長率)よりも大きいという事実があるからだ。それはたいてい、数倍も高い。また、資産規模が大きいほど、スケールメリットがあり、その率格差は広がる。

  特に先進国のような低成長率の国では、あるいは人口減少の国では、この格差は広がりやすい。成長のために投資を呼び込もうとして、政府は積極的に優遇策を打ち出すからだ。

 低成長を続けている日本でもこの15年で相対的貧困率は増大傾向にある(現在は16%前後)。貧困層が増えているのだ。

 遺産相続によって世代交代しても富める者はますます富む。貧困者はますます貧しくなる。

 21世紀の資本とは世襲型資本主義

であるというわけだ。

 このことを世界規模で収集した膨大な経済データからあぶりだした。その上で、教授は、

 このままでは、国民の間の経済格差は21世紀中には不必要なまでに拡大し、社会はより不安定化するだろう

という見通しを語った。

 ● グローバル資本課税の提案

 社会不安を、これ以上拡大させないようにするには、活力を維持するためには具体的にどうするべきか。

 教授は次のような提案をしている。

 まず、所得について。

 世界の富の約10%も占める所得隠しの対策強化が必要だとしている。つまり、脱税のためのタックス・ヘブンをなくすこと。これにより脱税を根絶し、不公平感をなくする。

 その上で、資産について。

 国際協力による足並みをそろえた

 グローバル資本課税

の導入である。たとえば、今、格差が極端に広がっているアメリカでも議論が始まった

 富裕層の資産に対する累進課税

などを挙げていた。富が富を生み出すメカニズムの是正である。しかし、ある国だけがこの導入を行なっても、効果は少ない。資産が他国に流れるだけだからだ。ザル法とならないよう、国際協力は不可欠というわけだ。

 ● 「最小多数の最大幸福」は破滅

 つまり、ピケティ教授は、容易ではないが

 神の「見えざる手」と、人間の「見える手」とは、握手ができる

といいたかったのだろう。

 これによって、かつて19世紀イギリスの経済学者、ベンサムが目指した

 最大多数の最大幸福

を目指せというわけだ。

 裏を返せば、格差拡大の結果

 最小多数の最大幸福

では競争原理が働かなくなり、資本主義そのものが滅びるということだろう。

 つまり、教授は、資本主義には格差はつきものであるが、それにも限度があり、不必要なまでの格差の拡大は資本主義そのものを変質させ、ひいては崩壊させると警告している。

 ● 社会保障の充実も必要

 だから、そうならないためには貧困問題と深い関係にある

 社会保障の充実

も一つのポイントであろう。ばらまきとはならない充実策である。このセーフティネットにかかわる指摘は、キャスターからも教授からもコメントはなかったのは、残念だった。

 ただ、ピケティ教授自身は、

 貧困対策には

 手厚い社会保障は不可欠である

と、この番組とは別のところでは強調している。

 それにしても、最近では、結局、神の見えざる手は万能であるとの見方が広がっていた。のに、事実はそうではない、限度があるとデータをもとに実証してみせた意義は大きい。

 日本の経済学者ももう少しきちんとした、つまり数学のお遊びに堕することない研究をしてほしいというのが、番組を見たブログ子の感想だった。

 経済学の貧困が、日本ではとても高いというのでは困る。

   ( 写真は、2015年1月30日付中日新聞総合面 )

 ● 補遺 

 来日中のピケティ教授は、先日、岡田克也代表ら民主党幹部と会談した際、安倍首相の経済政策にふれて

 「アベノミクスは不平等を拡大する」

とコメントしたらしい。

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