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再々論、アイヒマン裁判とは何だったか

(2015.01.27)  アウシュビッツ強制収容所の解放から今日でちょうど70年、先日、中東を歴訪中の安倍首相がイスラエル国立ホロコースト記念館を訪れ献花、犠牲者に哀悼の意を表した。

  もう1年近く前になるのだが、大戦中、ユダヤ人虐殺に深くかかわったアドルフ・アイヒマンの裁判傍聴記をテーマにした

 映画「ハンナ・アーレント」

について、このブログで取り上げた。この女性はドイツ系ユダヤ人で、強制収容所から脱出した経歴のある哲学者。

 書いたのはいいのだが、読者から、何が言いたいのか、わかりにくいとの苦情が2通も来た。

 そこで、ブログ子は、恥を忍んで、昨年6月27日付で

 再論 映画「ハンナ・アーレント」

を掲載した。そこでは、枝葉を切ってはっきりと

 巨悪は思考停止という凡庸さから生まれる

ということを主張した。50年以上も前のアイヒマン裁判の現代に持つ意味、つまり現代性を指摘したつもりであった。思考停止し、長いものに巻かれよとうそぶくようでは、いつか日本でも深刻な事態が起きる、声を上げよといいたかったのだ。

 ● 生々しい被告の映像と証言

 ところが、これで読者に納得していただいたと思っていたが、なんと、今度は、

 主張はわかった。だが、それは、傍聴したアーレントの言い分を一方的に聞いた上での主張ではないか。こうした裁判で論争となるような問題の場合、被告のアイヒマンの言い分も聞いてから、主張すべきではないか。はなから犯罪人扱いでは公正さに欠ける

と厳しく抗議された。

 だから、指摘されてこの数か月、裁判の実況中継に近い形で映像が世界に広められたこのアイヒマン裁判の映像を見てみたいと思っていた。そこにはアイヒマンの肉声があるはずだからだ。

 ところが、なんと、生々しい実写の裁判シーンを多く取り込んだその実録ドキュメンタリーがBS1の「世界のドキュメンタリー」番組で先日、放送された(2011年、フランス制作)。

 早速、メモを取りながら見てみた。まず第一に

 イスラエル政府がこのような異例も異例の裁判の〝生中継〟をしたのは、

 600万人ともいわれているユダヤ人犠牲者の悲痛の声を生き残った人々の証言を通じて世界に届ける役割を担った場

にしたかったということが理解できた。

 そもそも大戦中に存在しなかったイスラエルという国が、過去の犯罪についてまでさかのぼって処罰することが、人道に反する罪、平和に対する罪だとしても裁くことができるのだろうかという疑問も持った。

 ● 思考停止がもたらす結果

 しかし、それでもなお、検察の追及に対するアイヒマンの一連の証言

 「私は計画立案者ではない。ガス室までの移送計画の実行にかかわったにすぎない。したがって〝最終解決(ガス殺人)〟にはかかわっていない。第一、私には自由意志はなかったし、しかも変更不可能な任務だった。ただ、命令に忠実に従っただけ」(要約)

というのには、あきれた。600万人もの人間を、移送だとしてガス室に送り込んだ人物とは思えないほど、あまりにも凡庸な内容だった。まったくその肉声からは知性というものが感じられない。

 この点では、

 思考停止の凡庸さ

という以前の主張は正しいと今でも思っている。

 ドキュメンタリーを見たもうひとつの感想は、イスラエル政府の裁判に対する意図とは別に

 アドルフ・アイヒマン裁判は

 ホロコースト事件の象徴

としてアイヒマンを絞首刑にしたかったというものだった。その意味では、誤解を恐れずにいえば

 アイヒマンも犠牲者

だった。といえまいか。

 ● 裁判の本当の現代性とは

 そう思ったとき、ハッと気づいた。なぜ、件の読者が再三、ブログ子にメールを送信してきたかという理由である。

 思考停止という凡庸さを言い募るのは簡単なことだ。それは正しい。しかし、仮にアイヒマンの立場にブログ子が立たされていたら、アイヒマン以上のことが、あなたにできただろうか

という謎かけだったのだ。裁判の実写映像をみたことが、ブログ子にこのことを気づかせてくれた。

 思考停止はあなたにもある。

 アイヒマン裁判の証言映像記録の現代的な意義は、まさにここにある。このことの恐ろしさを、そして声を上げることの大切さを、あらためて映像から学んだ。

 件の読者にお礼を言いたい。

 賢者は草莽(そうもう)の中にある。 

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