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続 ブーメランはなぜ戻ってくるか

(2014.10.02)  先日、この欄(9月28日付)で

 ブーメランはなぜ戻ってくるか

というブログを書いた。その最後のほうで、大阪経済大学の西山豊さんのブーメランについての見事な解説を紹介した。

 ● もっともらしい原因いろいろ

 ご教示のお礼のメールをお送りしたら、その返信で、理科系大学生でも、戻ってくる理由として

 野球のカーブ球の原理(マグヌス効果)

と考えている人が多いという。

 これは、球の進行方向に対して、球の自転がどのような向きになるかにより生じる空気力学的な揚力差(だけの)効果。カーブ/直球、スライダー/シュートの原理だ。これだと、球のスピードや投げ方次第では、再びピッチャーに球形の球が戻ってくることになる。説明力としては明らかに間違いか、きわめて不十分である。

 Imgp5603 そのほかの理由として、自転する台風の進路が北半球では右へ右へとカーブする台風のコース原理、つまりコリオリの力だという学生もいるらしい。南半球では左、左へと台風はコースをとるからもっともらしい理解だ。

 しかし、これだとブーメランの原理というのは、空気力学的な揚力差には無関係ということになる。この話が本当なら、揚力差の生じない真空中でも、ブーメランはりっぱに〝ブーメラン〟することになる。本当だろうか。

 最後には、古典力学の初歩で習う

 遠心力

という説も飛び出すらしい。

 地球という重力の中心の回りを周回する宇宙ステーションやスペースシャトルでは重力と、周回で生み出される遠心力とがつり合う。だから、船内では無重力状態になる。周回中のスペースシャトルが地球からどこかに飛んでいってしまわないのは、一定方向、重力のもとである地球の中心の方へ、地球の中心の方へと落下するように旋回しているからだ。

 この意味では、ブーメランのカーブする動きを説明しているように一見みえる。しかし、ブーメランの場合、重力の中心にあたるものはどこにもないという点を見落としてはなるまい。この説は質点の力学にとらわれており、問題のありかを捉えてはいない。つまり、アナロジーが適切ではない。その上、「コリオリの力」説同様、揚力差と無関係というのが致命傷。

 ● 戻る原因は、回転物体の歳差運動

 では、ブーメランする理由を説明する原理とは何だろうか。

 西山さんの論文を読んでわかったのだが、クルクル自転する回転体の歳差運動がポイントなのだ。手首のスナップを効かせてブーメランをたて投げにすることが、戻ってくるためには欠かせないのはこのためなのだ。

 重力のような保存力の場では、クルクル自転する物体は、自由度がある場合、その角運動量(ベクトル)を保存しようとしてその自由度にそって変化する。歳差運動である。

 もう少し具体的に言うと、次の二つの運動AとBが同時に起こる。

 A  羽根の表側と裏側の揚力差による横倒し運動

 B  回転体が角運動量を保存しようとする(歳差)運動。

 Aという流体中の物体の回転力(いわゆるモーメント)と、Bという角運動量のモーメントが合成される。それがブーメランを左へ左へと連続的に〝ひねり〟つづけ、ブーメランを元に戻す効果を生んでいる。

 これは、遠心力でシャトルが重力の中心地球へ、地球へと落ち込むのと似てはいる。しかし、戻り現象は外力の重力のせいではない。回転体自身が持つ角運動量(ベクトル)の保存という制約のせいなのだ(「補遺」参照)。

 ● 正確には戻らない原因

 理屈はこれくらいにして、ブログ子のブーメランの観察も十分ではなかったことが、西山さんの返信で明らかになった。

   ブログ子の楽しんだ三枚羽根の風車型ブーメランでは、投げたときの最初の位置に正確には戻ってこなかったはずだ。手元より、もっと手前のはず

との指摘を受けた。

 ブログ子も、繰り返した観察を通じて正確には元に戻ってこなかったことを知っていた。だいたい戻ってきただけだ。しかし、これは、〝誤差〟の範囲と根拠もなく切り捨て、ちゃんと戻ってきたと書いてしまった。

 これは間違いだった。

 今回のような三枚羽根の場合でも、羽根の中心線が重心を通るようなブーメランでは、理論的には、投げたときの高さを保って手元にきちんと正確に戻ってこないというのだ。できるだけ揚力を抑える工夫が要るという。

 具体的には、どうすればいいか。

 西山さんの解説論文の最後には、その作り方が、懇切丁寧、しかも具体的に掲載されている。高さを保ち、正確に投げた手元に戻ってくるよう重心をいずれの翼の中心線からも少しずらすという巧妙な考案が述べられている。

 この論文を読んで、ブーメランの面白さを知ったと同時に、その観察の難しさ、思い込みの恐ろしさをつくづく思い知らされた。

 そして、ブーメランを贈ってくれた友人もときどき仕事の合間に参加しているという本物のブーメラン大会を、一度見てみたいとも思った。

  ● 補遺 宇宙ステーションでブーメラン成功

 ブーメランの戻り運動は、外力の重力のせいではなく、角運動量の保存という制約が原因というこの結論を支持する実験ある。

 2008年4月、宇宙飛行士の土井隆雄さんが無重力の宇宙ステーション船内で、三枚羽根のブーメランを、地上と同様に、見事成功させているのがそれ。船内には地上と同じように空気があるのだから、上記のA、Bともに満たしている。だから、成功して当たり前なのだ。

 この動画映像は、YouTubeの

 http://www.youtube.com/watch?v=fyj9m8mVR0Y

で見ることができる。このことから、最初に述べたように、重力が関係する遠心力は戻り運動には無関係なことがわかる。

 ただ、映像を見るとわかるが、重力がない分、ほとんど水平に戻ってくる。左へ、左へとゆっくりカーブを描いても、無重力の船内では〝下〟には落ちないからだ。

 この実験は空気のある船内で行なわれたから成功した。しかし、宇宙服を着て、無重力で、しかも真空の船外で行なったらどうなるか。

 当然、揚力差がないので、いくらスナップを効かせて押し出しても戻り運動はない。ブーメランしない。ガリレオの法則どおり、そのまま宇宙のかなたにまっすく等速直線運動し、消え去ってしまうだろう。ただし、ブーメラン自体は、最初の状態を保ったまま、何時までも一定の速さでクルクルと自転しながら、角運動量を保存し続けるだろう。

 

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