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岡本太郎の水爆版「ゲルニカ」 

(2014.10.14)  息子が東京で働いている関係で、また親戚が住んでいたせいで、ブログ子はJR渋谷駅を時々乗り降りに利用している。だから、その渋谷駅と京王井の頭線渋谷駅の連絡通路に、横幅が30メートルはあろうかというバカでかい壁画があるのは知っていた( 写真 )。

 ● ビギニ事件がモチーフの「明日の神話」

 Imagejr2008 しかし、どこかで見たことがある絵とは思っていたものの、それが誰の作品で、何の絵か、またなぜこんなところに抽象画が描かれているのか、その経緯は何も知らずに過ごしてきた。

 それがなんと、大阪万博の「太陽の塔」などでも知られる前衛画家、岡本太郎さんの作品だとは、つい先日知った。また、「明日の神話」と名づけられたこの壁画のテーマが

 米ビギニ水爆実験(1954年3月)で被ばくした第五福竜丸事件

をモチーフにしたものとは知らなかった。

 これは、ピカソを尊敬した岡本太郎さんの、いわば

 水爆版「ゲルニカ」

ともいえる作品だったのだ。

 スペイン出身のピカソは1930年代、ヒットラーの全体主義と戦ったスペイン内戦を体験している。その内戦をテーマに、巨大な虐殺反戦絵画「ゲルニカ」を描いている。おそらく、太郎さんはそれにならったのだろう。

 ● 「太陽の塔」とは対照的な運命

 さて、その大壁画は、岡本さんが今から45年以上も前にメキシコのホテル経営者に依頼されて現地で制作され、大阪万博の前年の1969年に完成した。正面玄関に飾る予定だったが、それが、いつの間にか、公開を待たずに行方不明になってしまった。

 Imgp5745 だから、

 幻の大壁画

だったことになる。いかにも、若い時期、ピカソの作品に強烈に感激した岡本さんらしい作品であるが、しかし同じ時期に完成し、大反響を呼んだ大阪万博の「太陽の塔」とは対照的な運命をたどった太郎さんの代表作といえる( 写真左 = BSプレミアム「日本の巨人」放送テレビ画面から )。

 それがどうして渋谷駅の連絡通路に飾られているのだろうか。

 その全貌を知ったのは、先日のBSプレミアム

 アーカイブス 日本の巨人

というハイビジョン特集番組を偶然に見たからだった。それも、番組終了に近いところでわかった。番組の多くの時間は「太陽の塔」( 写真 )にまつわる話だった。

 番組によると、渋谷駅に飾られることになったきっかけは、行方不明の壁画が妻、岡本敏子さんの努力により、2003年、メキシコのある会社の倉庫で眠っていたこの壁画が発見されたこと。だが、相当に痛んでおり、2005年に修復プロジェクトがスタート、2006年にほぼもとの姿によみがえった。

 その後、お披露目のための展覧会が開かれた後、一般の人に末永くみてもらいたいという遺族の願いから、2008年、人通りの特に多いJR渋谷駅連絡通路に恒久的に設置されたものらしい。

 ● 対極主義の壮大なる結晶

 岡本さんが、この大壁画をその場の思いつきで制作したのではないことは、ビギニ事件後の1950年代、60年代の絵を見ればわかる。大壁画の原画の一部ではないかと思わせる「燃える人」、あるいは「瞬間」といった人間と原爆、水爆とは相容れない、つまり対極にあるということをテーマにした作品を何枚も描いている。

 一言で言えば、たどった運命は大きく違ったが、太陽の塔も、明日の神話も対極主義という芸術観の壮大なる結晶だったといえるだろう。一方は三次元の結晶であり、もう一方は二次元の結晶という違いがあるに過ぎない。

 そして、結晶のそれぞれの中身は「人類の進歩と調和」という大阪万博の崇高な理念に対するアンチテーゼだったということでは一致している。

 ● 原発版「ゲルニカ」

 そして、ふと思った。

 20年近く前に亡くなった岡本さんだが、福島原発事故後の今、生きていたら、どんな対極主義の作品をつくりあげるだろうかと思った。

 きっとそれは原発版「ゲルニカ」として歴史に残る大作になったと思う。ここでも「人類の進歩と調和」に対するアンチテーゼが表現されていただろう。

 そう考えると、太郎さんの抽象作品は、きわめてリアルでエネルギッシュな社会性を持ったものであることに気づく。けっしてシュールレアリズム(超現実主義)などではない。

( 写真下= 太郎さんの自宅兼記念館に今も残る「明日の神話」の下絵の原画。- BSプレミアム「日本の巨人」2014年10月放送テレビ画面から )

Imgp5740

 ● 補遺 岡本太郎とは 2015年5月13日記

 5月12日の夜のBSフジ「プライムニュース」は、昭和の90年間を代表するというか、特筆する芸術家の肖像として岡本太郎を取り上げていた。ゲストは岡本さんと親しかった元東京都知事で作家の石原慎太郎さんと、岡本さんの沖縄文化論など同氏の再評価に取り組んでいる明治学院大学文学部教授(山下)。

 まとめると、岡本太郎とは

 前例とか「常識を突き破る創造力」(教授)を生涯持ち続けた男であり、芸術界の「反乱」(石原)者

ということになる。同感である。時代に反逆するその代表作品が

 太陽の塔

である。進歩と調和をかかげた国家プロジェクトに自ら乗り込み、そのテーマに反乱してみせた。何が進歩だ、何が調和だという憤怒があの縄文土偶をかたどった太陽の塔なのだ。大喧嘩の末、丹下建三のお祭り広場の大天井を突き破って立つ憤怒の太陽の塔こそ、岡本太郎そのものだったのだろう。

 生前、岡本太郎さんがある人から、あなたの肩書きは、と問われて、

 オレの肩書きは人間だ

とこたえたという逸話も紹介されていた。そんな岡本太郎を今の政界にもほしいが、もう出てこないような気がする。ゲストの石原さんは、最後にさびしそうにそう語っていたのが印象に残った。

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コメント

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投稿: ugg online fr | 2014年11月11日 (火) 04時29分

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