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ブーメランはなぜ戻ってくるか 

Image2000 (2014.09.28)  サラリーマン時代、お別れのせん別として、ブーメラン好きの友人からもらって10年、今も、それがブログ子の机の上に飾ってある(右写真)。

 左右非対称で、裏側は真っ平ら。なのだが、写っている表側はやや上向きの曲面で、写真のように天体のデザインが美しい。

 友人には悪いのだが、投げ方がわからず、本当に戻ってくるのかどうか、一度も試したことはない。飾ったままになっていた。ましてや、

 なぜブーメランは手元に戻ってくるのか

という疑問すら持たなかった。

 ● 浜松科学館のイベントに参加

 ところが、つい最近、ボランティアをしている浜松科学館(浜松市)で、小さな子ども向けに

 ペーパーブーメランを飛ばそう !

というイベントがあった。そのチラシ( 写真最下段 )を見たら、この機会に、戻ってくる原理はともかく、子供たちにまじって、あるいは一緒に

  作って、飛ばしてみよう

と思い立った。そこでボランティアとして手伝いに出かけた。飛行原理をあれこれ考えるより、まず、体をつかって試してみようというわけだ。

 参加してくれた子どもたちは、たいてい母親と一緒で、小学校に入学する前がほとんど。だから、親子でつくるブーメランといったほうがいいかもしれない。

 Imgp5605 左右長さの違う「く」の字型をつくるのかと思ったら、右写真のように、120度ずつ離れたまったく同じ長さの3枚羽根の風車型(ボール紙)であったのには、とても驚いた。

 羽根となる三枚の細長い長方形のボール紙の一方に切れ目を入れ、120度の間隔をおいて中心で互いにかませるだけなのだ。拍子抜けするほど簡単なもので、これまた二度びっくり。

 かませた跡は、中心部をホッチキスでとめる。これで出来上がり。なのだが、こどもたちに喜んでもらうために、表側にする羽根に、好きな色を塗ってお絵かきをしてもらった。器用なこどもなら、15分ほどで完成。

 この工作時点での感想は、

 こんな対称なつくりでは、手元には戻ってくるはずがない。非対称な「く」字か、「へ」の字にしなくてはならないのでは

というものだった。これには相当の自信があった。しかし、そのあとには驚きの結果が待っていた。

 ● びっくりの連続だった投げ方

 出来上がったのだから、さあ、みんなで広い館内で飛ばそうとなった。のだが、ここからが、大学院まで出た理系人間であるはずのブログ子にとっては、またまた驚きの連続だった。

 三枚羽根を床面に水平に投げるのかと思ったら、なんと、床面に垂直、つまりたて投げにする

というのだ。水平投げ、つまり横投げで試すと、戻ってくるどころか、前方で急上昇、天井に激突してしまった。その後、真下にポトンと落ちてしまう。

 投げ方のコツの第二は、手首のスナップを利かせて、ブーメランに回転(自転)を与えること

だという。この二つのコツをこどもたちに〝伝授〟すると、なんと、対称な風車型ブーメランはちゃんと戻ってきた。

 Imgp5604 これには、こどもたちと一緒に

 不思議、不思議、不思議 !

と大はしゃぎしてしまった。あまりにも、不思議なので、何回も試したのだが、何回やっても、クルクル自転しながら、ゆっくり左へ、左へとカーブを描きながら手元近くにきちんと戻ってきた。

 その様子を丁寧に観察すると、次のようなことがわかった。

 ブーメランを右腕でスナップを利かせて、少し前に向かって押し出すように「たて投げ」する。と、自転しながら、絵を描いた表側が少しずつ上を向きながら左に大きくカーブ。投げたとき床面に垂直だった表側が次第に床面に水平に近づきながら、手元に戻ってくる。戻ってきたときには、絵を描いた表側は完全に床面と平行になり、自転軸は垂直な上向きになっていた。

 その動きは、まるで、

 起き上がりこぼうし

のようだった。

 こどもたちが、こうして投げている様子は上の写真の通り。

 ただ、気になったのは、ブーメランには左右の区別はないのに、なぜ、いつも左へ、左へとカーブしながら、手元に戻ってくるのかという点。右へ、右へとカーブして戻ってきてもなんら原理的にはおかしくない。なのに、それがないのはなぜか。

 あらためて、三枚かませたブーメランの設計図(上図)を眺めてみた。

 全体の形に左右はない。が、中心部のかみ合わせ方に左右の違いがあることに気づいた。上の図では、反時計回りに120度離れた次の紙の切れ目の手前部分を下にしてかませている。同じことをさらに120度離れた紙にほどこす。さらに三枚目も手前の切れ目を下にしてかませている。

 かませるときのかませ方で、かませる相手の切れ目の手前の紙の部分を、さっきとは逆に、上にしてかみ合わせると、きっと、右へ、右へとカーブする

という推理が成り立つのではないか。

 やってみたら、確かに、今度は何度やっても右へ、右へと、みごとにカーブした !  ただし、今度は裏側を上、つまり次第に天井に向けるように戻ってきた。   

 さらに、面白いことに気づいた。

 このイベントに参加する前までは、ブーメランは風がないと戻ってこないのではないか、と漠然と思っていた。が、ご覧のように風のない室内でも、十分にクルクル自転しながら、カーブを描いて、おきあがりこぼうしよろしく、ちゃんと手元近くに戻ってくる。

 これで気づいたのだが、航空機同様、戻るブーメラン遊びには原理的に風は必要ない。必要なのは抵抗としての空気があればいい(ただ、風がある場合、追い風状態というのは、この遊びではやりにくいだろう。言い換えれば、風がある場合には向かい風の状態で楽しむのがコツ)。真空中ではきっと、ブーメランは手元には戻っては来ないだろうと予測する。クルクルと自転しながら前に行ったままになる。左にも右にも旋回しない。

 しかし、真空という意味を理解するのは、こどもたちにはちょっと難しいだろう。この実験について、だれか、やってみてはどうだろうか。

 ● なぜブーメランは「く」の字か

 Image2001_6 それにしても、わからないのは、対称型でも戻ってくるのに、なぜ、本物のブーメランはわざわざ非対称の「く」の字、あるいは「へ」の字なのだろう。

 これは、このイベントでは、いくら考えてもわからなかった。何か実用上のわけが必ずあるはずだ。

  それはともかく、10年間、ほったらかしにしてきたブーメランの動きをきちんと把握できたことはうれしかった。

 原理を頭で、つまり理屈で理解することは大事。だが、観察することも非常に大事であることを思い知った一日だった。

 NHKの教育テレビに「大科学実験」というミニ番組がある。この番組のキャッチコピーは

 「だから、やってみなくちゃー、わからない」

である。観察や実験結果を帰納的に考察し、その原理を解明するという手法は、りっぱな科学的な思考だと思う。

 ● 数学者が原理を解説

 そう思って、いろいろネットで調べたら、なんと、

 大阪経済大学の数学者、西山豊さんが、最近、

 ブーメランはなぜ戻ってくるのか

という解説を以下で丁寧にしているのをみつけて、またまたびっくりした。

 http://www.osaka-ue.ac.jp/zemi/nishiyama/math2010j/boomerang_j.pdf

 イベントでの疑問や観察結果を踏まえて読んでみた。その結果、ものの見事に、上記のすべての疑問に、慣性モーメントという古典力学の用語の下に、明解に答えてくれていた。

 最後に残った、どうしてもわからなかった「へ」の型の疑問は、

 ブーメランの飛行の安定性を高めるのに役立つ

とあった。実用性という観点から必要なのであり、戻ってくるか来ないかという機能には関係ない。このことを図入りで見事に解説している。今回のイベントでも明らかなように、戻ってくるというブーメラン機能は対称羽根でも十分にOKなのだ。こういうのを

 目からウロコ

というのだろう。

 ブーメランは何千年も昔の古代人が編み出した狩猟のための道具らしい。より確実に獲物を取るためには、道具の機能の安定性は不可欠なのであろう。さらには弓矢のような一回限りの使い捨てではない。何度も使える立派なリサイクル品なのだ。

 こう考えてくると、ブーメランというのは驚くべき知恵の集積であると、ほとほと感心したことを最後に付け加えておきたい。

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