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『大西洋漂流76日間』を読む なぜ耐えられたか

Imgp5281_2  (2014.09.08)  「身近な気象学」という放送大学の講義を聞いていて、こんなすごい本が紹介されるとは思ってもみなかった。

 『大西洋漂流76日間』(S.キャラハン、ハヤカワ文庫NF、1986)

である。どういうわけか、科学ジャーナリストの翻訳。

 1982年2月、赤道貿易風の吹く大西洋のど真ん中で起きたヨット遭難事故。当の遭難者自身による日記をもとにしたドキュメンタリーである。ヨット設計者だった著者がたったひとり大海に放り出され、漂った76日間にわたる記録なのだが、一番の関心事は

 なぜ生きのびられたのか

ということだろう。食料も持ち出す暇もなく、救命ゴムボートに乗り移り、たった一人でどのようにして航海できたのだろう。 

 赤道近くの焼けつくような、ヒリヒリする酷暑にまず耐えなければならない。飲み水をどのようにして確保したのか。食べるものはどうしたのだろう。

 そうした肉体的なこともさることながら、夜の真っ暗な海に漂う恐怖、サメに襲われるのではないかという悪夢。それらをはねのけ、長期にわたる精神的なストレスにどう耐えたのだろうか。

 たいていは、絶望のあまり、数日で死にいたるというから、驚異的な出来事にはちがいがない。

 そんな疑問をもちながら、それこそ一気に読んだ。

 ● 運を引き付けた4つの決め手

 結論を言えば、生き延びることができたのは、運もあったのだろうが、次の4点が決め手ではなかったかということだった。

 第一は、狭いボート生活だったが、ただただ多忙だったこと。余計なことを考えている余裕はなかった。このことが、この手記を読むとよくわかる。

  とにかく、よく動いた。食料のための魚とり、真水づくり、円形ゴムボートに次々と発生するトラブルの対応と修理、手元のありあわせのものを利用しての救助用の凧づくりなどなど、陸地にいるときよりも忙しそうだった。

 第二は、ヨット設計者としてセーリング(航海術)やサバイバル術に長けていたこと。

 第三は、日記をつけているなど、冷静な判断力を持ち続け、自己をコントロールできたこと。物事をその場限りにしないで、周到に状況を判断する習慣が身についていたことは生きのびるチャンスを大きくひろげたと思う。とても、刹那主義ではこの突然の難局は乗り切れなかっただろう。

 ● 先の見通しを具体的に知る努力

 第四、これが大きく効いたと思うが、ともかく少しずつではあっても、目的地のカリブ海の島々に近づいているのだということを自ら確信できるよう行動したこと。このことが生きのびるのだという執念と希望を失わせなかったことにつながったと思う。

 それもあと何日で到着すると弾き出し、それを自分に言い聞かせ、奮い立たせていた。まったく目印のないところで、漂流している方向を知り、ボートの速度をおおよそ割り出していたのは、驚異的だった。

 事実、鉛筆でつくった簡易な天測器でほぼ正確な位置をつかんでいた。手先が器用だったことも幸いした。

 先の見通しを具体的に知ろうとした、そして知ったことが76日間の苦闘を支え続けたのだ。

 これは、私たちの人生のすべてにいえることだろう。

 この本を読むと、

 人生に絶望というものはない。あるのは運を引きつける努力と自らがつむぎ出す希望に向かう行動だけである

ということが、痛いほどわかる。

 人生論なるものは世に山ほどある。が、これほど読む者の心を打つものは、マア、ないだろう。

 ● 補遺 『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一、1962)

  ヨットマンによる似たような話は、太平洋単独横断成功の手記としては

 『太平洋ひとりぼっち』(堀江謙一、文藝春秋。1962)

がある。

 ベストセラーとなり、またただちに映画化もされた。が、ブログ子には、正直、これより失敗談のほうがはるかに得るところが多かった。

 もう一つ、1970年4月に起きた米有人月着陸宇宙船遭難の7日間の一部始終をまとめた

 『アポロ13号 奇跡の生還』(新潮社、1994年)

も挙げておきたい。ただ、これは、遭難の宇宙飛行士自身によるものではない。その分、当時の様子をビビッドに伝えるものとはなっていないのが残念。しかし、アメリカの技術力の底知れなさを世界に認めさせる壮大なる出来事ではあった。

 この生還でも、チーム力を生かし、ネバーギブアップ精神が見事なまでに発揮されていたのは間違いない。

 ただ、この三冊に共通するのは、

 陸地のありがたさ

である。再び不動の陸地に戻りたい。これが、孤独や恐怖と闘い続けた彼らをして、生きる希望の土台となった。

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