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下士官たちの「二百三高地」

(2014.07.14) 数年前、司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』を原作とするスペシャルドラマ

 「坂の上の雲」

をNHKは3年にわたり、3部構成で放送した。

 日露戦争をテーマとしたものだったが、毎回、ドラマ冒頭に流された「まことに小さな国が、開花期を迎えようとしていた」とのナレーションは、よく覚えている。そして国家の目指すところと、実力主義人材登用という個人のめざすところとが一致した「まことに、幸せな時代だった」という明治の明るさが、どうやら結論だった。

 ● 映画制作の意図とは

 知らなかったという不明を恥じなければならないが、そしてどういう時代背景があったのかわからないが、このドラマが放送される30年前にも、日露戦争を取り上げた大型映画があった。

 東映映画「二百三高地」(舛田利雄監督、1980年、原作はない)

である。明治天皇役を三船敏郎、伊藤博文役を森繁久弥、乃木希典役を仲代達矢が演じていた。夏目雅子も登場して話題を呼んだらしい。

 この映画が、先日、BS-TBSで放送されのを見た。

 ブログ子が長く暮らした金沢の第九師団も登場し、金沢弁の「だら」という懐かしい言葉も何度か出てきて、懐かしく見ていた。

 そして、ふと、この映画は何を意図してつくられたのだろうか、ということを考えながら見るようになった。

 それを解き明かすにおいて、第九師団の下士官役、あおい輝彦、その恋人役、夏目雅子の恋物語がかぎであることに気づいた。

 先に、結論を言ってしまえば

 今も昔も、開戦で一番ひどい目にあうのは、敵味方ともに、大将でも、政治家でもない。下士官たちであり、最前線にかりだされて、無残な死を強いられる大衆なのだ。そのことを極端な形で「203高地」は語っている

というものである。

 ● TBS放送の意図は集団的自衛権反対

 BS-TBSが、集団的自衛権で政治が大きく揺れているこの時期にこの映画を放送したのは、このことを多くの人に伝えたいが為であろう。この目的は、すさまじい人的な被害を出した「203高地」の攻防でものの見事に描き出しており、果たしていたと思う。

 この映画のテレビ放映意図は、集団的自衛権反対を訴えることなのだ。

 ● さだまさしの主題曲「防人の詩」

 このことをはっきりと裏付けるのが、さだまさしがこの映画の主題歌として歌った

 「防人の詩」

である。さきもりのうたと読むらしいが、「おしえてください」で始まる。「シクラメンの香り」と並んださださんの名曲である。

 なんと、このうたのもとは、世間の無常を歌った問答歌の「万葉集」第3852首の

  鯨魚(いさな)取り 海や死にする 山や死にする 死ねれこそ 海は潮干て 山は枯れすれ

なのだ。

 意味は、海は死ぬだろうか。山は死ぬだろうか。(もちろん)死ぬからこそ、海は潮が干るし、山は草木が枯れるのだ、というぐらいのところだろう(1973年「日本文学大系7」万葉集より)。

 もう一つ、この映画のポイントは、子どもたちを教える教師であり、戦地で死ぬことになる若き下級士官(あおい輝彦)の妻役を演じた

 夏目雅子

である。夫がかつて立った同じ教壇に残された

 美しい日本

という白墨の筆跡を、映画ラストシーンで教師となった妻もまた、それをなぞり、書こうとするが、涙なくしてそれを書ききれなかった。

 美しい日本のためには「なせばなる、なさねばならぬ」式の単純な戦争肯定と受け取る向きもあるだろう。

 が、愛する夫を戦地で失い、子供たちとともに遺された妻の悲しみは、深い。いくら美しい日本をつくるためとはいえ、戦争はダメだと無念のなみだを流したと解釈すべきであろう。

 戦争で人を殺し、殺されて、何の「美しい日本」なのか

という告発でもある。

 この意味で、この映画の真の主役は、乃木第三軍司令官(仲代達矢)ではなく、下士官の妻、夏目雅子だったと思う。

  ● 日露戦争開戦から110年

      - 「美しい日本」の正体

 ひるがえって、日露戦争開戦から110年。

 かつて『美しい日本へ』(文春新書、2006年)を大々的にかかげて安倍晋三氏が登場、第一次安倍内閣をつくった。この本で安倍首相は、海外から批判の強かった「醜い日本」から美しい日本を目指すには、まず自律の精神が大事であることを強調している。

 最近では、この〝完全版〟と称して

 『新しい日本へ - 美しい国へ完全版』(2013年、文藝春秋社)

という本まで出版している。

 今回の映画は、美しい日本とか、新しい日本とかいうものの正体を、奇しくもあばいているといえるだろう。

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