« 石田純一「わが人生最高の10冊」 | トップページ | 人はなぜ誤解するのか »

原発倫理にも踏み込んだ差し止め判決

(2014.05.31)  福井地裁が、大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた今回の判決(5月21日、樋口英明裁判長)は、

 「生命を守り生活を維持するという、人格権の根幹部分に対する具体的な侵害のおそれがあるときは、侵害行為の差し止めを請求できる」

とした点で、

 原発倫理にも踏み込んだ判断

として、高く評価できる。

 ● 人格権を前面に

 判決は、この基準に照らし、本件原発の現在の安全性を具体的に吟味し、

 「本件原発の安全技術及び設備は、確たる根拠のない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ちうる脆弱なものと認めざるを得ない」

と結論付けている。

 また、判決は「多数の生存そのものに関わる権利と電気代の高い安いの問題等を並べて論じるような  (中略)  こと自体、法的に許されない」とまで言い切り、電力会社側の主張を一蹴している。

 原発の危険性についてはこれまで、ほとんど人格権という価値には踏み込まず、もっぱら科学の成果のみを総合し、判断されてきたものとは、この判決は大きく異なる( 注記 )。仮に科学的に合理的に判断したとしても、そこには不確実性が伴うことを考慮してこなかった(補遺 )。 

 ● 司法の失敗、くり返すな

 Photo_2 この点について、福島原発事故直後の憲法記念日を前にした定例の記者会見で、当時の最高裁判所長官は、ほとんどの原発訴訟で裁判所が国と電力会社の主張を認めてきたことについて、その感想を問われ

 「あらゆる科学の成果を総合し、原子力安全委員会などの意見に沿った合理的な判断がされているかに焦点を当て、司法審査してきたと理解している」

と述べている( 『原発訴訟』(海渡雄一、岩波新書) )。ほとんどの原発訴訟に弁護士としてかかわってきた海渡氏は、このような司法審査は

 司法の失敗

であると厳しく同書で批判している。

 今回の判決は、国民の常識的な判断を受けたものであり、司法の失敗を繰り返さないためには、上級審はこの判決を真摯に受け止める必要があろう。

● 補遺 原発は人類の「負の遺産」

 ブログ子は、金沢在住時代、北陸電力の志賀原発1号機の差し止め控訴審(名古屋高裁金沢支部)を取材したことがある。1998年9月の判決は、差し止め自体は認めなかったものの、

 「原発は人類の負の遺産であることは否定し得ない」

と初めて、原発の安全性に問題があることを認めている。ただ、このときの判決では、負の遺産の部分があるのは事実としても、原発の当否は「国民が選択すべき事項」であり、裁判所が判断することではないと逃げた判示となった。

 ところが、事故後の今回の判決では、

 「福島原発のような事態を招く具体的な危険性が万が一でもあるか( 中略 )の判断を避けるのは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」

と断じている。これまで消極的だった裁判所が事故後の最初の差し止め判決で安全性の判断に積極的に関わる姿勢を打ち出したことは、地裁レベルとはいえ画期的といえる。

  ● 注記 志賀原発2号機の井戸謙一判決(2006年3月)

 唯一の例外は、志賀2号機(北電)の運転差し止めを命じた判決(金沢地裁、井戸謙一裁判長、2006年)。これは、ブログ子の金沢在住時代に出た判決であり、思い出深い。

 この井口判決を要約すると、原発耐震性の想定が、たとえ国の安全基準に合致していても、その基準自体が実際に起こりうる地震規模の実態を反映したものでない場合、具体的な危険性が生じると推認できるのだから、差し止めの対象になりうるというもの(国の原子力安全委員会は、この指摘に驚き、この判決後、ただちに基準見直しに着手している)。

 その上で、判決は住民の利益は生命、身体なのだから、たとえ公共性があったとしても、一企業の経済的な利益より優先されると判示している。

 これは、人格権を明確にうたった今回の樋口判決に通じる考え方である。

 また樋口判決では、具体的な危険性として、想定した地震規模(具体的にはガル数)が、実際に起こりうると推認されるケースよりも過小に評価されていることを指摘している。これまた、福島原発事故前に出された井口判決に通じる考え方だろう。

 この意味で、井口判決は、その後、控訴審、最高裁で取り消されはしたが、福島後によみがえり、さらに裁判所の責務とは何かに鋭く踏み込ませるきっかけを与えた歴史的な出来事といえる。 

|

« 石田純一「わが人生最高の10冊」 | トップページ | 人はなぜ誤解するのか »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/59736706

この記事へのトラックバック一覧です: 原発倫理にも踏み込んだ差し止め判決:

« 石田純一「わが人生最高の10冊」 | トップページ | 人はなぜ誤解するのか »