石田純一「わが人生最高の10冊」
(2014.06.01) こんなことを言えば、偏見もはなはだしいとしかられるかもしれない。そして失礼な話だが、実はブログ子は、俳優の石田純一さんについては、これまで半分バカにしていた。だが、その理由に確たる根拠もなかった。
● モテるための読書とは言うが
ところが、「週刊現代」2014年5月10・17日号の
わが人生最高の10冊「モテるための読書で人生が劇的に変わった」
という読書エッセイ( 写真 )を読んで、
これはなかなかの人物かもしれない。すくなくとも芯がある
ということに気づいた。
最初は、タイトルのモテるための読書うんぬんというので、うんざりした。しかし、ともかく読んでみて、プロの文章ではないが、内容がしっかりしていると思った。10冊の本を紹介しているのだが、実際に読んでいなければ書けないことも盛り込まれている。そんなことはちゃらちゃらした人間にはとうていできない。
しかも紹介した本には、うならせるものが多い。選択の視点がいい。つまり、どこにでもある話をとり急ぎこねまわしたようなインチキ紹介ではない。
冒頭部分で、第一位に選んだのは、なんと古風な中村天風さんの本。
そして一転、たとえば、2番目に挙げた『ビジョンナリー・カンパニー』。これについても
「会社にとって一番の財産はカリスマ経営者でも、生み出す商品でもなく、その会社自体だと定義つけたのがすごい」
と喝破している。いくら、大学の商学部でマーケティングを学んだからといって、こういうところに目をつけるのは、容易ではないはずだ。
『原発メルトダウンへの道』(NHK ETV特集取材班著、新潮社)
を紹介している。紹介の仕方も、
「僕が素晴らしいと思ったのは、「原子力政策研究会」なる会合(の会話)を録音した100時間を超えるテープの中で語られる、原子力を推進してきた方々の赤裸々な話で構成されていること。」
とポイントを突いている。これからの日本のエネルギーをどこに託そうかと考える上で重要だとの意見も添えている。
ブログ子も、かつての科学技術庁主導のこの勉強会の肉声記録の重要性を痛感しており、石田さんのコメントについては、その通りだと思う。
そのほか、
第3位 『官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪』(講談社)
第10位『宇宙誌』(徳間文庫)
も取り上げるなど、あえていえば歴史書や小説がないのはややさびしいが、選択のメリハリと選択視野の広さには、ほとほと感服した。
イケメンの石田さん、モテるうんぬんと、自分をあえてごまかしてはいるが、相当なインテリである。
能ある鷹は爪をかくす
といえば、買いかぶりすぎか。
確かなのは、浅薄なのは、根拠もなく偏見をいだいたブログ子のほうだということである。
(写真は、ダブルクリックすると拡大)
● おまけ 私の「人生の10冊」
参考のため、出あいの書、あるいはありきたりではない
わが人生の10冊
を挙げるとすれば、次の通り。
『新明解国語辞典』(三省堂)
『悪魔の辞典』(A.ビアス、こびあん書房)
『NOTO 能登・人に知られぬ日本の辺境』(P.ローエル、十月社)
『私の進化論』(今西錦司、思索社)
『細胞の意思』(団まりな、NHKブックス)
『逆システム学』(児玉龍彦ほか、岩波新書)
『唯脳論』(養老猛司、ちくま学芸文庫)
『徳川家康』全18巻(山岡荘八、講談社)
『敦煌』(井上靖、講談社)
『増訂 日本古代王朝史論序説』(水野祐、小宮山書店)
『太陽系大地図』(小学館)
できれば、
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(S.フィッツジェラルド、角川文庫)
『天平の甍』(井上靖、中央公論)
『脳の中の幽霊』(V.S.ラマチャンドランほか、角川書店)
も、ありきたりではない出あいの書として挙げておきたい。これらは、いずれも、どこにでもある、いわゆる「不朽の名著」ではないことに注意してほしい。不朽の名著に名著なしと、あえて心得たい。
ただ、司馬ファンとしては、ありきたりだが、
『竜馬がゆく』全5巻(司馬遼太郎、文藝春秋社)
もいい。装丁の異なる二種類の本で、二、三度も読み、今も書架に入っている。
この作業を通じて、世間には、聖書とか、万葉集などありきたりな、あるいは読んでもいないのに格好をつけるために取り上げている「私の一冊」がなんと多いことかと気づいた。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 二兎を追うコウモリのスゴ技 でもこれは-(2016.06.07)
- なぜ実名にしなかったのか 『絶歌』に絶句 (2015.06.30)
- 科学者の社会的責任、日本はどうだったか - 湯川、朝永著作集を読む(2016.04.19)
- 自動運転車、そのプログラムは〝運転手〟か -- 電脳建築家、坂村健の目(2016.02.19)
- 生物論争史、今も重要な何かが欠けている(2016.02.03)
コメント