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勝海舟を支えたもの 読書ノート

Imgp3894_2  (2014.05.14)  大型連休をはさんだこの3週間、ひまをいいことに、子母澤寛の

 大長編『勝海舟』(全6巻、新潮社。写真右)

をついに読んだ。

 ついにというのは、十数年前、古本屋で買って以来、読もう、読もうと思っていたが、なかなか読む機会がなかったからだ。いろいろ書き込みをしながら、読み終わって

 つくづく暇なのもいいものだ

という読後感を持つことができた。それくらいに、江戸っ子幕臣、勝麟太郎の人間の大きさや人間臭さにふれることができ、うれしかった。

 ● くそ度胸と冷静さと

 あまりに有名であり、いまさら、この主人公の活躍について、ブログ子があれこれ言う必要はない。が、ただ、

 支えきれないほどの困難のなか、幕末という修羅場をさばききり、明治新政をなんとか軌道に乗せた麟太郎の心を支えたものは何だったのか

ということについて、書いておきたい。

 Phview2 一つは、明治維新8年前、艱難辛苦で遂行した咸臨丸(かんりんまる)渡米の艦長体験だろう。この太平洋往復航海で、土壇場の窮地に立たされれば、人間、やれば何だってできるというくそ度胸というか、自信を持った。このときの難航苦楽をともにした幕臣たちが、同じ釜の飯を食った同志としてその後の勝を支え続けたことも幸いした(写真左=「難航の咸臨丸」乗艦運用方鈴藤勇次郎筆)。

 もう一つの支えは、刻々変化する日々にあって、日記をつけていたことだろう。まさに激動の「慶応四戊辰日記」(1868年)がそれだ。深夜、一人、日々変化する情勢を分析し、整理するという冷静さを忘れなかった。

 この二つ、体験にもとづくくそ度胸と、今なすべきことは何かを整理し、その行動の優先順位をさぐる冷静な分析力こそ、勝麟太郎をして、歴史に名を残さしめた原因だったと思う。

 以下、これらのことについて、もう少し詳しく、具体的に話してみたい。

 ● 江戸開城までは長期内戦阻止 

 勝麟太郎の目、つまり行動の優先順位は、江戸開城までと後では、大きく異なっている。

 開城までの使命は、

 旗本幕臣として、徳川家を守る

 江戸っ子として、江戸を戦火から守る

 日本人として、長期内戦を阻止する

であり、このうち最優先課題は列強の狙いである日本の植民地化を招く長期内戦の阻止。

 Imgp3826_17329_1 イギリス、フランスの思惑をけん制するための秘策として、勝は江戸焦土作戦を準備する。上記の海舟日記にはそのための予算(250両、勝の私費)を計上したと書かれている。江戸が焦土になってしまえば、列強の植民地化のうまみはほとんどなくなる。このことを捉えて、列強による薩長恫喝を引き出すという寸法である。薩長も列強の後ろ盾がなければ圧倒的な軍事力を持っている幕府に最終的に勝てるはずもないことは十分承知しているはずだという見方だ。

 この和戦両様により、勝は江戸開城に持ち込んだのである。

 何の秘策もなく、手ぶらではいくらくそ度胸があっても、事はならないことを勝は知っていたのであろう。

 ● 開城後の国家戦略

 一方、開城後の勝の目は、今度は逆に国内に向けられる。すなわち、列強に対する幕藩体制の弱点の克服である。日本は一つにまとまっていない。国家の体をなしていない。これをどうするか。具体的には

 中央集権化を整えるための版籍奉還

である。版籍を新政府に返還すれば藩はなくなる。徳川対反徳川=薩長ではなく、天皇を中心に日本は一つにまとまるべきときにきているというわけである。そうなれば徳川家を旧幕臣としてなんとか守ることにも直結するという戦略である。

 この判断には、咸臨丸による渡米がある。実力主義と公論で新しい時代を築いていたアメリカ社会に早く近づけたいという勝自身の合理精神があったであろう。

 列強の介入は許さないが、列強に学ぶべきものは、何十年かかろうと日本人の手で取り入れる。世界を自分の目で見た男の冷静な情勢判断であり、漢籍にも通じていた勝の歴史認識でもあったといってもいい。

 Imgp3906_1 こうした歴史認識は一朝一夕には生まれない。暗殺されるかもしれないという現実味のある日々のなか、あすの日本を思い、足元の現実に悩み、その間をつなぐ具体的な方途を考えあぐねる。その自問自答をぶつけた日記を書き続けたればこその結論だったろう。

  くそ度胸があるといっても、出たとこ勝負の当てにはならない博打ではなかった。

 ひとことで言えば、

 勝麟太郎は「慶応四戊辰日記」を綴ることで、動乱のなか一人冷静に自分と闘っていた

といえるだろう。

 大長編を読む醍醐味を楽しんだ3週間だった-。

 ● 読み終えて

 この小説を読み終えて、ふと、女たちの幕末、

 この動乱の時期を女性たちはどう闘ったのだろうか

という思いになった。これまた古本屋で買った

 長編『天璋院篤姫』(宮尾登美子、講談社、1984年)

が読みたくなった。

 写真下= 明治維新後の勝海舟(BS-プレミアム「英雄たちの選択」2014年5月2日放送テレビ画面より。慶応四戊辰日記の当時の心境をつづった上記の直筆漢詩の写真も同番組より)

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