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現代の「罪と罰」  映画ハンナ・アーレント

(2014.03.04)  ユダヤ人虐殺にかかわったナチス戦犯の

 アイヒマンの戦争中の行動の何が問題なのか

をテーマにした実話的な映画、「ハンナ・アーレント」を観た( ドイツ、フランス、ルクセンブルク、2012年。写真= 同映画のパンフレットより )。

 自らもドイツ系ユダヤ人として強制収容所に入れられた経験を持つアーレント。彼女は、実際のアイヒマン裁判を1960年代に自ら希望して直接傍聴している。

 Imgp3112_1_2 そして実存主義の哲学者として冷静な思考と傍聴の結果について、同胞の感情を逆なですることになるのを承知で公表した。寄稿先は亡命先のアメリカでは有名な「ニューヨーカー」だったから、予想通り、ユダヤ人からの非難などの反響はすさまじかった。

 地獄に落ちろ、ナチスのクソ女

とまで脅迫的な酷評をされたらしい。

 ● 映画の二つの現代的意義

 結論を先に言うと、この映画の現代的な意義を、ドストエフスキーのラスコーリニコフ流になぞらえれば、

 現代の「罪と罰」

について、描いているということである。

 一つは、官僚の「罪と罰」であり、もう一つは新聞論説委員の「罪と罰」である。

 虐殺について、上からの命令に従っただけだとアイヒマンは裁判で証言する。ユダヤ人に憎悪があるわけではなく、法律に決められた組織に従っただけだというのだ。

 つまり、何一つ、自発的に行なったことはない。命令に従っただけ。

 私に何の罪もない。罰などとんでもないというわけだ。

 ここからアーレントは、

 アイヒマンはきわめて凡庸な役人だった

と結論付ける。役人としての義務感だけであり、良心というものは考えられなかったというわけだ。利己心からの悪ではない。

 それどころか、裁判では、ナチスに協力するユダヤ人幹部もおり、迫害者のモラルとともに、被迫害者のモラルもあったはずだと同胞にも批判の矛先を向けたのだから、騒ぎは大きくなったらしい。

 この映画を見ながら、日本でもエイズ問題では、1990年代ほとんど官僚の責任が裁判で問われることはなかったことを思い出した。また、水俣病でもそうだった。問われたのは民間人、民間企業だけだった。

 そして、今、原発事故を起こした東電も政府要人も誰一人刑事責任を問われることがない異常事態になりつつある。大きすぎて、責任が問えないというわけだ。

 日本だけではなく、あのリーマンショック(2008年9月)を引き起こしたウオール街の強欲金融資本家たちもまた、いまだに誰一人裁判でその責任を問われたものはいない。ただ、法律に認められることにしたがって行動しただけであるというのが、彼らの議会証言なのである。

 映画では、アーレントは、

 とてつもない悪というのは、極端に凡庸な悪から生じる

と断じている。利己心のない悪の恐ろしさを描いた映画といえば、この映画の核心を当たらずといえども遠からずで射ているだろう。

 ● 論説委員にこの覚悟と勇気はあるか

 この映画のもう一つの現代的な意義は、

 新聞社の論説委員にアーレントのこの覚悟と勇気はあるか

という点にある。思考停止することなく、考えることで人は強くなるというアーレントの信念。

 哲学者としては当然の考え方だが、社会の常識にとらわれずに気づかない巨悪に迫る。ペンでそんな社会悪に立ち向かうことが仕事であるはずの論説委員もまたこの信念をどれくらい持っているだろう。

 映画を見ながら考えたが、3人もいれば、多いほうだろうという忸怩たる感慨をいだいたことを正直に書いておこう。

 書くことで、あるいは書かないことで、人は堕落するとは思いたくない。

 ● 注記 

 イスラエルでのこの裁判の結果、A・アイヒマンは結局、死刑になっている。ユダヤ人虐殺の最高責任者、H・ヒムラーはヒットラーの死後、逃走したが、逮捕された。しかし、逮捕後自殺。副総統だった、ルドルフ・ヘスは戦後のニュールンベルグ裁判で終身禁固刑。1987年、40年以上の獄中生活の後、病死。

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