« 人間が挑んではいけない夢はない | トップページ | 超常現象はニセ科学か »

司馬『胡蝶の夢』は小説版「親父の小言」

(2014.03.23)  司馬遼太郎さんの小説

 『箱根の坂』(全3巻)

が面白かったせいか、ついついその後の江戸時代の身分制度をつぶさに描いたこれまた司馬さんの

 『胡蝶の夢』(全5巻、新潮社、写真)

を読み始めている。

  このブログは「科学と社会」がテーマ。江戸の身分制社会のなかで、漢方医/漢学と蘭方医/蘭学がどのように社会や幕府から扱われたか、そして幕末、その双方にどんな顛末が待っていたかがたくみに小説化されている。

 Imgp3371_1 身分制度とはほど遠い佐渡の幼い伊之助という人物が、祖父に連れられて身分制度の厳しい江戸に志を懐いて出てくるところから話が始まる。時代はペリー黒船来航(1853年)のころの幕末の話。司馬さんの小説に共通するテーマ

 日本人とは何ぞや

というのにはピッタリの作品だと思う。

 江戸の身分制度は日本人に謙虚さ、うやうやしさを植えつけたという良さもあった。しかし、一方で、その副作用で異常なまでの卑屈さも植えつけた。もの言えば唇寒しうんぬんという

 顔の見えない日本人

という主張しない、あるいは黙りこくって批判しない不気味な国民性も醸成した。

 ● 江戸版の発見

 そんな折、先日、NHK「視点・論点」で往来物研究家で法政大学の小泉吉永氏が、みずから昨年発見した81条からなる

 江戸版「親父の小言」(嘉永5=1852年刊、作者不明)

について、私見を述べておられた。昭和時代に書かれたと信じられていたのが、江戸幕末には広まっていたことが明らかになった( 補遺 )

 箇条書きになっている全文は、下の「注記」に紹介するブログを見てほしいが、小泉氏によると、要するに「対人関係」が大半。

 確かに、「大酒を飲むな」「身の出世を願え」というのもあるが、「人に腹を立たせるな」とか「人に馬鹿にされていろ」とか「義理を欠くな」「人を羨むな」「何事も我慢しろ」という人間関係の処世術を説いたものが多い。

 81条のまとめとも言うべき、最後には歌らしきものまでついている。

 上様や大名方は生きた神様 滅多にするとバチが怖いぞ

 滅多にすると、というのは、理非に事を行なうとの意味だろう。

 そして、気づいた。

 司馬さんの『胡蝶の夢』というのは、この処世術本の小説版なのだと。もしかりに、江戸に出てきた伊之助がこの無料配布冊子を手に入れていれば、ずいぶんと助かったことだろう。

 ● 注記 大空社から「江戸版」刊行

 江戸版「親父の小言」については、大空社から昨年出版されている(定価500円)。解説は、小泉吉永氏。ネットでも、

 「fuakiの日記」=

 http://d.hatena.ne.jp/fuaki/20130824/1377328362 

に全文と丁寧な解説が書かれていて、参考になる。現物の写真も掲載されているなど懇切なブログである。

  ● 補遺 昭和版「親父の小言」 2014年4月23日付記

 福島被災地ツアーでいわき市に出かけたら、

 Imgp3773 いわき市小名浜港の観光物産センター「ら・ら・ミュウ」で、写真のような

 清酒「親父の小言」(鈴木酒造店長井蔵、山形県長井市)

を見つけた。小言は「大めしは食うな」から始まり、40条ある。その由緒書きには、

 親父の小言は、昭和初期に浪江町「大聖寺」の住職暁仙和尚が家族に残した人生訓。昭和30年代に浪江町の(株)マツバヤが額装販売したところ、中略、多くの人の琴線に響き全国に広まりました。中略、親父の小言は浪江町が発祥の地

とある。

 

|

« 人間が挑んではいけない夢はない | トップページ | 超常現象はニセ科学か »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/59342841

この記事へのトラックバック一覧です: 司馬『胡蝶の夢』は小説版「親父の小言」:

« 人間が挑んではいけない夢はない | トップページ | 超常現象はニセ科学か »