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なぜ村上春樹さんは賞がとれなかったか

Imgp1426 (2013.10.18)  ある行きつけの喫茶店でいつものようにコーヒーを注文して、週刊誌を見ていたら、こんな記事が出ていたのには、びっくりした。

 今年もまた、村上春樹氏がノーベル文学賞を逃したことを受けて、

 いつになったら

 世界は村上春樹を理解できるのか

と、見出しで、ため息をついていた(写真)。10月27日号「サンデー毎日」である。

  ノーベル文学賞をとったというのなら、どんな作家であろうと、大騒ぎするのは、これは仕方がない。読んでもいないくせに、読んだようなフリをして、ほめたたえるのは、まあ、人間のあさましい虚栄心であり、仕方がないと、あきらめる。

 なのに、とってもいないのに、

 なぜ早く授与しないのかと、脅迫的におねだりしている記事を読んで、日本文学のはしたなさをまざまざと見せ付けられるようで、いくら程度の低い文芸評論家とはいえ、あまりいい気分ではない。当世、もはや武士は食わねど高楊枝の矜持などない。

 ところが、驚いたことに、この春樹文学を「分析」するとして記事を書いたのは、なんと、天下の毎日新聞の論説委員だと知ってあ然とした。いくら暇だからといって、これはひどい。

 筆力がないのかどうか、文脈がたどれないばかりか、見出しで何を主張したいのか、よくわからない。ので、こちらで整理する。ごたごた書いてはいるものの、どうもこういうことらしい。

 村上文学の核心は、夢の共同体「阿美寮」にある。村上のどの小説にもこれがよく出てくる。この核心はあの小説にも、この小説にも出てくる

と衒学的な話にほとんど終始している。見出しに対応するような結論はない。文系の論説委員にはこの手合いが多いが、もう少しきちんとした「分析」がほしかった。

 ● 村上春樹ロングインタビュー

 あんまりひどいので、仕方がないので、理系のブログ子も、わざわざ

 Imgp1429_1_2 季刊誌『考える人』2010年夏号の特集

 村上春樹ロングインタビュー

をじっくり読んでみた。3日間にわたるインタビューを100ページにわたって紹介している。まえがきには

 すでにそこにある作品を目の前において、村上さんの小説家としての姿勢や考え方が浮かび上がってくるようなお話をうかがえればと思っています

と書かれている。インタビューの最後では聞き手は

 「3日間のインタビューを通じて、村上さんの小説家としての姿勢やお考えについて、深いところでさまざまに腑に落ちた三日間でした」

ととりつくろうように語っている。どんな深いところで、どういうように腑に落ちたか、具体的にはどこにも書かれていない。これは聞き手がよく理解できなかったからだろう。

  具体的に言えば、件の論説委員によると、村上文学の核心のはずの「阿美寮」という言葉が、100ページにもなる長い長いインタビューなのに、インタビュアーからも村上さん自身からも一言も出てこなかった。

 村上さんは「僕自身は作家として、ほんとうはそのこと(オリジナリティのことを指す)をいちばん誇りに思っているんですけれどね。オリジナルであること、ほかの誰にも書けないものを書いている」とは話している。また、「僕が目指しているのは、十九世紀的な自己完結した物語ですね。別の言い方をすれば、「完全な物語」ということになるかもしれない」とも語っている。それがどうしてオリジナリティと結びつくのかというと、「二十一世紀になって、自我の扱いに関して、そこでまたひとつの組みかえが新しく起こっているのではないかと、感じることがあります」というわけだ。そこでまたひとつ、というのは、二十世紀に続いてという意味。

 村上さんは「二十一世紀に入ってから「海辺のカフカ」を書き、また「1Q84」を書いたというのは、そういう精神的再編成の大きな流れの上に乗っていることかもしれない」と自らの作品を分析して見せている。

 これが村上さんのいう、ほかの誰にも書けないオリジナリティの正体というわけだ。

 この程度しか理解できなかった、文学に疎いブログ子だが、このインタビュー記事を読んだ正直な感想は、実際のインタビューがこの程度のことだったとしたら、こんなんでは、いつまでたっても世界は村上文学を相手にしないだろうというものだった。

 とすれば、件の論説委員の期待もむなしく授与されなかったのは、失礼な話だが、文学そのものが、あるいは今ひとつ怪しげなのもだからかもしれない。少なくとも明確に著者の作品の意図が、先の論説委員を含めて読者に伝わっていない。こういえば、少し言いすぎであろうか。

 そうなのかどうか、今後、ノーベル賞の季節になるたびに、わかるだろう。 

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