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魚たちの縞模様 大野麦風の博物画集展

Imgp0654 (2013.09.09)  浜松市に暮らしているせいか、

 ウナギにはどうしてウロコも縞模様もないのか

という疑問をときどき持つことがある。ウロコのことは今はさておいて、たいていの魚の体にはりっぱな縞模様があるのに、というわけだ。

 ヨーロッパ産だろうと、アメリカ産だろうと、インド産だろうと、ウナギにはほとんどこれといった模様はない。体に模様がないので、みんな同じに見えてしまう(補遺)。

 そんな思いで、東京で用件を済ませたついでに、JR東京駅のステーションギャラリーで今開かれている

 大野麦風の魚たちの博物画集展

にぶらりと気晴らしに出かけてみた。見事な生き生きとしたウナギを描いてはいたが、麦風の博物画にも、やはり体には模様がなかった。

 しかし、驚いたのは、たくさん描かれた魚の博物画のほとんどには、その体表にいろいろな縞模様が鮮やかに真に迫るような描き方で書き込まれていたことだ。圧巻としか言いようのない一枚、一枚。今にも画幅から飛び出てきそうな描き方。いずれもカラー写真のまねのできない立体感と正確さを併せ持つ迫力である。

 あらためて、博物画の重要性が肌でわかった。

 その一例が、上の写真(アカハタ)である( = 図録「大野麦風展 - 「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち」より )。背から腹にかけてみごとな幾筋もの「横縞」が描かれている。

 ● 縞模様は4分類

  うっとりと眺めていて気づいたことは、縞模様は大きくわけて4分類できることだった(注記)。

  まずは、魚が泳ぐ方向と平行に走る「縦縞」の魚。

 典型はくっきりとしていて見事なカツオである。うっすらとしたのはスズキ。サワラ、ゴンズイ。ボラのように、斑点が縦じまに流れているものもある。ウグイは斑点が一筋に縦じまをつくっている。

 次は、泳ぐ方向に対して直角(垂直)の「横縞」模様の魚。阪神タイガースのユニフォーム型だ。写真のアカハタが典型だが、クロダイ、マハゼ、コチなどもこの仲間。

 三番目は、オコゼが典型だが、縦じまでも横じまでもなく、なんだかよくわからない大小不定形の斑点、まだらがある魚。フグもこの中に入る。サバなどもこれだろう。

 そして、最後は模様らしいものがない魚。典型はウナギ(ドジョウは縦じま)。マゴイ、フナ、アユなども模様はない。

 ● 重力が関係しているのでは

  こう、分類してみて気づいたのだが、縞模様が水平と垂直との二分されることから、縞模様のでき方には

 地球の重力がなんらか関係している

ということだった。もし、事実だとすれば、重力が消されている宇宙ステーションで発生を行なったらどうなるか。写真のアカハタの見事な横じまも大きく乱れたものになるのではないかということが推測される。

 果たして、これは本当だろうか。

 このように縞模様がどのようにしてできたのか、展示会場であれこれ考えているだけで、楽しい2時間はすぐに過ぎてしまった。

 ● なぜないウナギの模様

 縞模様のできる理論については、このブログでも書いたが、どうやら一つの有力な仮説として

 反応拡散波の理論

というのがあるらしいことを紹介した( http://lowell.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-0d77.html )

  生物体内につたわる化学反応物質の拡散速度の違いが、成長過程を通じて模様をつくりだすという仮説である。60年も前にA.チューリングが数学的な側面から縞模様について予言したという。しかし、いまだ縞模様がどのようにしてできるのかや、その具体的な化学物質の解明はほんの一部しかなされていないらしい。

 それなら逆転の発想で、ウナギの体表には、なぜ、いずれにも縞模様がないのか。ここからなぜ縞模様ができるのか、解明できないか。似たような形のアナゴやドジョウには縦じまがはっきりとあるのに。発生過程や成長過程に鍵がありそうだ。

 発生過程や生まれてからの成長の仕方を反映したのが、縞模様ではないか。そう考えていると、また、はたと気づいた。

 人間の肌には、色黒な肌、色白な肌はある。しかし、なぜ縦じまとか、横じま肌とかがないのか

という問題である。人間はウナギの仲間なのだ。こう考えてくると、表面的な縞模様問題は魚だけにはとどまらない意外に深い謎を秘めたテーマになる。

 そんなことに思いをめぐらしたすぎゆく夏の展覧会だった。

  ● 注記 魚の縦じまと横縞について

 魚の縦じま、横じまの決め方(定義)は、上記のように

 前後方向を縦じま

 魚の進む方向に対して直角(垂直)で、背腹方向を横じま

とするのが、研究者や漁業関係者の間では正式なのだということをはじめて知った(トラフグ研究で知られる元東大教授、鈴木譲氏のご教示)。 

 ● 補遺 2013年9月22日

 このブログを掲載して、しばらくたったら、

 ニホンウナギにも表面に縞模様がある

という読者からの指摘を受けた。具体的には、自由百科事典「ウィキペデァ」の

ニホンウナギ(Anguilla japonica)の項目最後に、100年以上も前の超細密な博物画スケッチが掲載されているというのだ。

 実際閲覧してみたが、なるほど、

 長い背びれにそって両側にそれぞれ二筋、等間隔の白い斑点(つまり、たて縞)がくっきりと尾びれまで続いている(ただし、アナゴにこのような縞模様があるので、ひょっとすると、スケッチは、ニホンウナギではなく、マアナゴのものかもしれない。スケッチの下あごの先が、上あごに隠れているのも、アナゴの特徴らしい)

 事典によると、描いた著作者まで分かっている。ということは、これで例外もあるのかもしれない。ほとんどのニホンウナギには縞模様がない、と書くべきだったかもしれない。 

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