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空間は幻想 か 宇宙の数学「超弦理論」

Imgp0559 (2013.09.04)   気象庁によると、

 今夏の猛暑は異常気象

らしい。こんな猛暑では、こむつかしいサイエンス本なんか、読む気も起こらない。それではと、思い切って、読んでもわからないだろうという本をわざわざ買ってきて、読んでみた。少しは涼しくなるかもしれないという逆療法というヤツである。

 それが、

 理論物理学者の大栗博司さんの最新刊、

 『超弦理論入門』(講談社ブルーバックス)。

 いくら理系の、しかも宇宙大好きのブログ子でも、一般書とはいえ、こんな難解な本は、とうてい理解はできまい。クーラーをかけたまま、昼寝だろうと思って読み始めた。ところが、驚いたことに、一気に読んでしまった。おもしろい。二回も読み返してしまった。

 内容を簡単に言えば、9次元空間のなかの弦の幾何学なである。素粒子は部分を持たない「点」などではなく、一次元の「弦」であるというところから説き起こしている。 

 重力のホログラフィーという考え方も出てくる。Imgp0552

 二次元に三次元立体を復元するレーザー干渉技術のホログラムというのであれば、ブログ子がボランティアをしている浜松科学館にもあり、超弦理論が少しは身近に感じられた(写真下= 浜松科学館「ホログラム」展示コーナー。レーザー光の干渉を使って、ものから光の強弱以外に、位置情報も正確に取り込む。その結果、もとの三次元のタイプライターが立体的に二次元面に浮かび上がっている)

 その考え方の行き着いたところが、温度が分子運動の反映であり、実態を持たない〝幻想〟であるように

 空間も幻想である

というのだから、一般相対論のかのアインシュタインも、そんなばかなと驚くことだろう。

 ● 時間も二次的で、幻想か

 さらに言えば、

 空間とは、弦の運動、つまり、弦の振動の結果にすぎない

という。弦とは、具体的には何か、それは謎らしい。素粒子を「点」というなら、そんなことも気にならないが、ひものような「弦」となると、そのことが少し気になる。

 それは、まあ、さておき、空間が幻想だとすると、なんと最後のほうで、

 もはや時間というのも幻想かもしれない

という論理を展開する。時間というのは、なにか、もっと根源的なものから二次的に立ち現れてくるのかもしれないというのだ。根源的なものとは、何か、40年の歴史を持つ超弦理論研究の今後の挑戦らしい。

 そこから、どんな宇宙像が生まれてくるのだろう

ということを考えていたら、ついついしまいまで読んでしまった。

 時間や空間の考察に限らず、全体としても唖然とするような内容である。それらが、単なる哲学のような言葉の遊びなどではなく、数学的に厳密につじつまが合っているというのだから、不思議だ。

 現代物理学の最先端理論、超弦理論は

 21世紀の「宇宙の数学」

というのも、手前味噌のような気もした半面、一方でなんだか、そうかと納得してしまった。

 最先端の理論物理学は小説よりも、哲学なんかよりも、ずっとずっと奇であるというような気分にさせられた。

 というわけで、先に紹介した沢木耕太郎さんの『キャパの十字架』と並んで、この本は、ブログ子にとって今

 夏の出合いの一冊

となった。

 これほどのスケールの話となると、異常気象うんぬんなんか、小さい、小さいという涼しい気分になる。

 良書の効用だろう。

  補遺 超弦理論の現在位置について

 この本をちょっとほめすぎたので、少し覚めた意見も述べてみたい。

 というのは、この本では超弦理論の数学的なおもしろさを強調するあまり、超弦理論のどこに問題があるのか、現在位置について正直に書かれていないような気がする。

 理論に一本筋を通す、つまり演繹に有用な物理学的な仮説がない、ということだろう。いろいろな事実を個々にうまく証明できる、あるいは導出できるというだけでは、一本筋が通っておらず、統一理論への道はまだまだではないか。

 どういうことか。

 天文学的なたとえで言えば、ニュートンは自ら構築した微積分学で主著『自然哲学の数学的原理』(1687年)で万有引力の理論を定式化した。これが、今で言えば、相対論と量子論の統一理論に当たる。

 この理論に至るまでには、ニュートンは万有引力は

 距離の逆2乗に比例する

という仮定をした。このインスピレーションをどこから得たかはわからないが、ともかくこうすると、それまでに発見されていた観測データからの

 惑星運動に関するケプラーの3法則

が、すべてこの仮定だけで説明できる。このことをニュートンは微積分法を使って証明して見せた。

 そんなたとえで言えば、

 超弦理論の現在位置というのは、ケプラーの3法則の段階に相当するような気がする(注記)

 まだ、核心の逆2乗の法則の設定にまで到達していない。

 それは、時間とは何か、空間とは何かという以前の、言い換えれば数学以前の物理学者のインスピレーションが求められている段階なのではないか。

 リンゴが落ちるのを見て、月が地球を回るのと同じ原理がリンゴにも働いているということをニュートンが喝破した。超弦理論物理学者にも、これまでにない新しい物理概念を生み出すインスピレーションが要る。

 新しい物理の発見から、それにふさわしい微積分法という数学を構築し、主著をまとめるまでに、ニュートンは約20年を費やしている。

  補足的な注記

 Image1892 ケプラーは処女作『新天文学』(1609年)で、惑星の楕円軌道の法則(第一法則)と面積速度一定の法則(第二法則)を正しく提示。さらに、主著『宇宙の調和』(1619年、写真)で、惑星の公転周期の2乗と太陽からの平均距離の3乗は比例することを観測データから正しく割り出している。

 この主著では、

 音階と和音を奏でながら5つの惑星が楕円軌道を描く美しい「宇宙の音楽」

について、音符を多数用いて詳しく語られている。

 これは、弦が奏でる9次元宇宙の音楽ともいえる超弦理論に似ていなくもない。

 なお、この超弦理論入門より、もう少し広い視野から、つまり全体を俯瞰できるよう論じた入門書に

 『量子宇宙への3つの道』(リー・スモーリン、草思社、サイエンス・マスターズ17)

がある(原著=2000年、日本語訳=2002年)。

 この本の最後のまとめによると、著者は

 M理論は真

と信じている。ただし、M理論のような単一の統一理論はあるが、宇宙は多数の異なる物理的な相(側面)であらわれうると予測している。それぞれの相では、なんと物理法則は異なっている。われわれの宇宙はその一つに過ぎないというのだ。

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