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深海はなぜ生き物を巨大化させるのか

Imgp0624 (2013.09.10)  もし、100年以上前のかの有名な進化論のC.ダーウィンが、この特別展を見にきたとしたら、どんな感想をいだくだろうか。おそらく、頭をかかえて、

 ビーグル号に乗って世界の海を周航したが、もっと深海について調べておけばよかった

と反省したことだろう。

 「この特別展」というのは、今、国立科学博物館(東京・上野公園)で開かれている

 伝説の巨大ダイオウイカにあう「深海」 驚異の生き物たち

のことである。深海というのは、大陸棚より外の水深約200メートルより深い海のことらしい。会場に展示されていたこの巨大イカの大きさは、上の写真からもわかる。一言で言えば、

 海の恐竜

といったところだ。子どもたちが群がってのぞき込んでいたのも、当然かもしれない。

 それくらいに、深海というのは陸上とは違った神秘の領域であることを、ブログ子も会場を訪れてあらためて知った。

  ●生き物の垂直の食物連鎖

 Imgp0610_1 深海を理解するには、海の中の生き物が、食うか、食われるかという食物連鎖においてどのように生き延びているか、知る必要がある。水平な陸上の生き物とはずいぶん違う。

 これが第一のポイント。そのせいだろう、

 会場のはじめあたりに、写真のような

 生物の鉛直移動

というパネルがあったのはありがたかった(写真をダブルクリックすると拡大される。以下同様)。

 パネルの図は見事であり、わかりやすい。しかし、説明が少しわかりにくいので、わかりやすく言うと、次のような移動のサイクルのことだ。

 海面などの表層には海の栄養源、植物プランクトンが浮遊している。太陽の光を受け取りながら、せっせと光合成をして、酸素も作り出している。

 中層の動物プランクトンのなかには、この植物プランクトンのほかにもエサとなるたくさんの生き物がいる表層は魅力的だ。行きたい。しかし、うす暗い中層に比べ、光のある明るい表層はほかの生き物に食べられてしまう危険性が高い。

 そこで、中層性の生き物は夜、こっそり表層へ移動。おいしいエサをいただく。そして、夜が明けるころには、ふたたび中層に戻る。これなら安全だし、食べ物もいただける。

 ● サクラエビ、ホタルイカの世界

 この代表例が静岡県では駿河湾の名物、サクラエビ。だから、漁業はサクラエビが上がってくる夜が勝負だ。日本海側ではホタルイカ漁業だろう。

 このように日周移動する中層性の生き物同士も、食べたり、食べられたりの生存競争がある。中層では、なかなかプランクトンも落ちてこなくなり、競争が激しいからだ。

 同時に、さらに深い海底近くでは、ますますプランクトンのおこぼれに預かるチャンスも少なくなる。そこで、深海の底では中層性の生き物をエサとして下から狙うのである。これをたくみにかわすのも中層性の生き物の腕の見せ所。

 また、下層の深海生物にとっては、中層性の生き物は、表層からエサを毎日、毎夜周期的に運んできてくれるありがたい格好の運び屋なのだ。一番下の生き物にとっては、カモがネギを背負ってくるようにみえる。

 Imgp0639 このようにして、深海では乏しい酸素と乏しい食料のなかで、それぞれの環境に応じて、巧みな知恵比べで、生き抜いているのである。

 見事な垂直の食物連鎖

である。お天道さまに頼らない生活のメカニズムがそこにある。

 しかし、不思議なのは、ダイオウイカのように、食べ物の少ないはずの深海に、なぜ、エネルギーがたくさん要るはずの巨大な生き物が生息できるのか

ということだ。

 単純な進化論では説明が難しいだろう。深海には小さな生き物しか生息できないのではないか、という問題だ。

 Imgp0602_1

 深海には、ダイオウイカのほかにも、巨大なタカアシガニ( 写真中 )が展示されており、ご覧のように多くの入場者の目を引いていた。

  そのほかにも、解説パネルによると

 比較的に浅い層では、たとえば、有孔虫類が1センチ程度なのに、深海ではこれが10センチ以上にもなることが珍しくない。体積にすると1000倍も大きいことになる。

 Imgp0641_3 巨大化する

という展示パネルの下には、

 ダイオウグソクムシ(写真中)

の巨大な標本と、その横に普通の5ミリくらいの標本がならんでいた。どう見ても、別種のようにしかみえない。体積にすれば10万倍も違うだろう。

  このひとつの解釈としては、大きくなれば、ほかの生き物に食べられるという危険性は小さくなるというものだ。しかも、エサの取り方が効率的で巧みな種だけが巨大化したと考えれば、深海に巨大生き物が生息してもおかしくはない。

 しかし、それとても、そんな種というのは、そう多くはあるまい。

 ● 低い酸素濃度と巨大化

 深海は酸素供給は極端に少ない。巨大生物にとっては暮らしにくい環境だ。

 陸上の進化論では、大気中の酸素濃度が高くなればなるほど、その時代の生物の大きさは、化石の研究から、巨大化していることが実証されている。

 たとえば、酸素濃度が今より1.5倍も高かった3億年前くらいの石炭紀には、大型動物が続々と登場してきている。

 エサとりが上手な体型というのも、大事だろうが、

 酸素濃度の低い深海で、どのようにして生物は巨大化できるのか。

 会場の説明板には、こうした難点、あるいは疑問点にこたえるコメントや解説はなかったのが残念。

 生物の効率的な肺やエラの構造について、言及があったら、親切だったと思う。

 もっとも、そのことを研究するために深海の生物を生きたまま一気圧の海面に引き上げるのはなかなか難しいだろうとは思う。 今後の課題であり、成果を期待したい。

 ● なぜ深海生物は光るのか

 もう一つ、深い海のなかの生き物には

 Imgp0646 光る機能

をもっているものがいる点だ。それはなぜか。

 わざわざほかの生物の注意を引くような行動のように思える。しかし、それは、陸上生物の浅はかな考えらしい。

 深い海のなかの中層生物が、より深いところの敵から身を隠すため

 光る

のだという。どういうことか。

 深いところの敵が見上げると、中層の生き物の影が降り注ぐ太陽の光の中に映し出される危険性がある。これを回避するために、中層性の生き物は腹部一面から光を出し、影を消しているのだという。

 もし、これが事実だとしたら、驚くべきことだ。そう、進化論のダーウィンすらおどろくべき生き残り戦略だとして舌を巻いたことであろう。

 長い進化の過程で、そうした機能を突然変異を通じて、親から子へ、そして孫へと遺伝させていったものだけが、今日に生き残ってきたというわけだ。

 ● 主体性の進化論

 光で自分の影を隠すほか、深海ではクラゲのように透明になるという手もある。光の薄い中層では太陽の光は、ほかの色の光はなくなり、赤みをもつので、

 赤い色の生き物が姿を隠すには優位

という戦略もあるらしい。

 そんなパネルを見ていると、悠長な進化論を信じるというよりも、子孫を増やす方法としてもっと別の進化の仕組みがあるのではないかと疑いたくなった。

 きっと、ダーウィンも、自分の自然選択という単純な、そして気の長い進化論について、果たしてこんなのでいいのだろうかと考え込んだであろう。

 つまり、生き物たちは自分たちの環境に対し、ただひたすら引きずり回されるのではなく、もっと積極的に、はっきり言えば主体的にそのときそのとき対応しているのではないか、と感じた。のんびりと突然変異なんか、待っていないのではないか。

 ダーウィン進化論は、その根幹に人間以外の生物には精神はなく、精密ではあるが機械に過ぎない。主体性というようなものはない。そして、科学には主体性は要らない。そんな発想に基づいている。

 これに対し、ダーウィンは、どうこたえるであろうか。

 見終わって、ブログ子はそんな感想を持った。

 ( 写真下は、特別展の図録。陸上とは別世界の垂直生物界としての深海について、じっくりと思いを馳せるには好著だろう ) 

Imgp0655

  

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