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どのようにしてできる生きものの縞模様

Imgp0150 (2013.08.28)  ブログ子は、歳のせいか、魚が大好きで、よくスーパーなどでサバなどを眺めては、買おうか、どうしようか、楽しんでいる。

 そんな折、おいしそうな塩サバを見つけた(写真上= JR浜松駅地下の鮮魚店)。そして、ふと、サバの皮膚についている縞模様はどのようにしてできるのだろうか、と考え込んでしまった。

 ● 位置情報はどこから得ているか 縞は模様か

 いままでは、単純に縞模様の皮膚かその下に縞模様をつくる何かしらの組織があるものだと思っていた。しかし、そんなものはどうもない。

 とすれば、

 縞模様をつくる皮膚細胞は、自分が皮膚になるのだということは知っていても、魚全身に対し、縞のどの部分になるのかという位置情報をどこから得ているのであろうか

という謎が浮かび上がる。あらかじめ受精卵はそんな情報を先天的にしっかり持って成長をはじめるのだろうか。それとも、最初はどの細胞も一様なのだが、成長とともに縞模様をつくる細胞とそうではない細胞とに次第に別れていくのだろうか。

 細胞を風船にたとえると、しぼんだ風船を膨らます場合なら、最初から位置情報を持っているとしてもそれでいい。だが、細胞分裂してどんどん大きくなる場合、風船が倍々ゲームで増え、最終的に美しい縞模様が出来上がるなどということはとうてい不可能だろう。

 だから、多分、成長の途中で位置情報を獲得するという後者だろう。そんなことまでは、そのしくみはわからなくとも、想像できる。

 その後が、わからなかった。

 形のないところから、発生段階を通じて、どのようにして、自律的に形ができてくるのかという問題である。

 ● 縞模様の実験装置- 浜松科学館

 ところが、偶然にも、サイエンスボランティアをしている浜松科学館(浜松市)で、この謎を解く手がかりとなる驚くべき展示を発見した。シマウマの皮膚の縞模様はどのようにしてできるか、ということを簡単な実験で示したものである。

 Imgp0139_1 大きな蛍光灯のような管の中に、粒の大きさの異なる白砂と青砂が混じって入っている。最初はよくかき混ぜておく(写真中の上)

 次に、その蛍光灯のような管をハンドルでグルグルと100回以上回転させる。

 すると、なんと、蛍光灯管の砂は、写真中の下のように、縞模様に分離する。

 Imgp0140_1 最初砂にはそんな位置情報は持っていなかったのだが、回転することで白砂と青砂との間で、一定の条件を満たすような相互作用が働く。その結果個々の砂の行き場が知らされて砂が分離し、濃度分布が一様にならず縞模様が浮かび上がる。

 ● チューリングの卵

 あまりに不思議な実験装置なので、説明を読むと、

 こうした生物の皮膚模様の現れかたの秘密のことを

 チューリングの卵

というのだそうだ。あの天才数学者、アラン・チューリングの研究(1952年)があるらしい。それを少しやさしくした解説論文が

 JT生命誌研究館機関誌「生命誌」第11号(1995年冬号)

に出ている。近藤滋さんの

 チューリングの卵 生物の模様の秘密

である(写真下)。

 Imgp0152 発生段階での反応拡散波理論という微分方程式に帰着されて、いろいろな縞模様ができるという。

 ようするに、分子などの物質の拡散する速度の違いが、模様を生み出すのだ。コロンブスの卵ならぬ、チューリングの卵というわけだ。

 このチューリング論文(The Chemical Basis of Morphogenesis)は、コンピューターの発達し始めた1970年代に方程式のシュミレーションから、その重要性が再発見された。生物の皮膚の模様がチューリングの予言どおり、いろいろと再現できることがわかったのだ。

 ただ、再現はできても、生物としてのシマウマの縞がこの反応拡散波かどうかという点については、確実な証拠か得られなかったらしい。

 ● 再発見から反応拡散波理論の確証へ

 その確証につながるようになったのが、近藤さんの解説論文によると、1990年代。1970年代から1980年代には再び、忘れ去られたのだが、1990年代になると再度、研究が始まった。

 反応に関与する分子の同定など、この反応拡散波理論の分子レベルの解明が最近ようやく始まっているという。

 そして、いまやチューリング理論から60年、

 Image1902_1 生物学の世界に

 チューリングの卵

が常識となりつつある。

 ● 天才チューリングの予言力

 やはり、深い洞察力を発揮した天才の予言というのは、凡才にはなかなか理解ができない。その本当の意味を、そして本当の秘密を理解するには50年、60年かかるということだろう。

 チューリングの数学的な反応拡散波理論が、これまたチューリングの発明したチューリングマシン(仮想コンピューター)によって、再発見されたというのも、おもしろい。

 そして、いまや、分子生物学を、

 縞は、単なる模様ではない、化学反応が伝わる速度の違いで起きる、つまり拡散波

として、刺激し続けている。生物の成長とともに、縞も新たにできる。

 天才は不滅

 天才、アラン・チューリングは、そんなことを私たちに教えてくれた。

    ( 写真下は、塩サバの模様。スーパー鮮魚店で)

  ● 補遺 2013年10月13日記

Imgp1335_1ok

 以上は、日本でとれる魚ばかりを紹介したが、縞模様というのでは、あたたかい南海の魚が興味深い。たとえば、

 パラオの海に生息するサラサハタ( 写真= 2013年10月12日「BSジャパン」で放送された「世界絶景紀行」画面より )。

  これなど、二種類の縞模様が重なっている。これも、反応拡散波理論で説明できるのかどうか。縦縞、横縞ともに関係がない。どのようにしてできるのか、ちょっと考えてしまうほど不思議な縞模様である。

 ● 補遺 2015年4月8日記

Image2112

 科学技術振興機構広報誌「JST news」2015年4月号に、近藤滋(しげる)教授の

 生命の謎を数学・数理科学で解く

という記事が出ている(写真)。反応拡散波というチューリング波の話である。近藤さんは、縞模様は体の表面の細胞で起こる化学反応の「波」で生じているという仮説を世界で初めて、飼育しているゼブラフィッシュの実験とチューリング波の数値シュミレーションで実証してみせた。

 この考え方を魚の骨格のつくりについても適用したいというのが次の計画だという。

 

 

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