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いま、福島のツバメに何が起きているか

(2013.07.24)  世界的に知られている進化生物学者、T・ムソー米サウスカロライナ大教授が、自らかかわったチェルノブイリ事故の生物調査からわかったことや、福島原発事故後の現地調査結果を、一般の人々にもわかりやすく報告するという講演会が浜松市内で開かれた(写真上)。

 反原発でも、脱原発派でもない独立した研究者であることを特に断っていた。

 ● 米進化生物学者の浜松講演

 Dsc0207820130723 チェルノブイリ事故で大気中に放出された放射能が野生の鳥や昆虫、特に野生のツバメにどんな影響を与えるか。突然変異率や、それが生物にどのような形で具体的に現れるのか(表現型問題)。

 そして、どのように子に遺伝していくのかなどの調査研究を、同教授は、この10数年続け、多数の国際学術誌に発表している。福島での調査は2011年の事故直後から数回にわたって実施してきた。

 この講演では、野生のツバメを中心にチェルノブイリと福島の動植物の変異について比較検討している。

 ● 遺伝子損傷率が上昇

 その結論を先に言えば、

 チェルノブイリでも、福島でも、ツバメをはじめとする調査した大部分の野生生物では、被ばくレベルに正比例して、遺伝子損傷率が統計的にみて有意に上昇している

というものだった。このことは個体レベルだけでなく、精子など生殖細胞にも当てはまるという。

 また損傷に伴う小頭症という脳の障害もムソー教授たちの研究グループは世界で初めて突き止めたという。

 さらに出生率も低下しているし、生存したとしても寿命が短くなっている

というのだ。

 このため、突然変異率が通常より高く、しかもそれが実際に個体群の減少につながっていると結論付けている。たとえば、局所的には有意に絶滅している個体群もあるという驚くべき結果である。

 通俗的に言われているように、汚染地域に人がいなくなって、かえって生物が繁栄しいるという見方がある。が、同教授は、汚染地域外からの侵入者が増えているというみかけによるものであり、英BBC放送が伝えているような 

 汚染地域は「野生の天国」というのは誤り

と指摘していた。それどころか、もともと汚染地域にいた生物個体群に限れば、世代が交代するにつれ、遺伝的にも絶滅の危機にあるというのが実態だということだろう。

 Dsc02085_2 そのほかの詳しい成果については、写真中の講演スライドを参照してほしい(写真のダブルクリツクで拡大)。

 また、講演で使用されたスライドについては、下記の「補遺」からダウンロードできる(主催者「春を呼ぶフォーラム」、「放射能測定室「てぃ~だ」提供)。

 ● 福島の現状ではどうなっているか 

 講演で興味深かったのは、ムソー教授による

 事故後のツバメの地域ごとに分けた巣調査

である。その巣が事故後も利用されているのか、はたまた何らかの理由で放棄されたものなのか。そのことを自治体ことに写真のような先にミラーがついたバーで調査した。

  Dsc02100_3 それをまとめたのが、写真の棒グラフ(写真下)。

 放射線の強い浪江町、双葉町、大熊町ではツバメが今も利用している割合は、いずれも10%前後と低い(赤色)。ほとんどが放棄されている。

 これに対し、比較的に弱い南相馬などは、いずれも50%前後と高い。半分は事故後も利用されている(青色)。

 ● 体毛に白化(突然変異)

 このことは何を意味するか。

 (空間)放射線の強いところでは、ツバメが死亡したか、あるいは何らかの障害で巣に戻れなくなってしまったかの、どちらかだろう。

 弱いところは、事故前とあまり変わらない生活が続いているというわけだ。

 厳密には、事故前でのこうしたグラフがないので、疫学的には確実なことはいえないが、

 Dsc02103_2 浪江町などの放射線の強いところのツバメは、死亡か突然変異などで大きく生活環境を変えられるという放射線の影響を受けた

というのが自然な結論だろう。現に、福島でも、チェルノブイリと同様、

 ツバメの体毛に白化

という突然変異が、通常の場合以上に多く見られるという(補遺のスライドには、その写真)。

 ● 研究費の支援のない日本

 ムソー教授が強調していたことだが、こうした研究には国際的には支援がある。なのに、しかし、

日本の公的な機関からの支援はゼロ

などと繰り返し、嘆いていた。

 これには、福島県民に対するむやみな不安を呼び起こしてはならないという政府の〝やさしい配慮〟もあるのだろう。

 しかし、そうした配慮は結果的にむしろ福島県民の健康不安や実際の被害を拡大し、放置するということにつながらないか。

 水俣病とその原因企業チッソ、原発事故の放射能漏れとその原因企業東電。このままでは、ふたたび、1960年代の水俣病のような悲劇を、今度は福島県内で引き起こす危険性がある(注記)。

 水俣病対策の失敗という教訓から、科学的な根拠に基づいた広域的で、包括的な福島県民の健康調査とその対策を一刻も早く政府はスタートさせるべきだ。

 ● 許すまじ東北の「沈黙の春」

 そのためには、まず私たちはツバメたちの声なき警告に耳をすます謙虚さが今、求められている。講演を聞いて、そのことを痛感した。

 春風に乗って日本にやってくるツバメ。

 東北地方に、R.カーソン女史の言う

 「沈黙の春」

が訪れることがあってはなるまい。

 (最下段の写真=講演するT・ムソー教授、浜松市内のクリエート浜松)

  ● 注記

 Image180420130729eyes_2 最新号の「アエラ」2013年7月29日号の巻頭論説「eyes」(姜尚中)では、長期にわたってじわじわとあらわれてくる低線量被ばくの問題においては、将来の救済が水俣病の場合に比べて、より遅れる可能性が指摘されているのは、ポイントを突いており、注目される。

 また、同号の同欄で、もう一人の筆者、福岡伸一氏も、

 リスクの大きさを死者数に還元する危険性

について述べている。その中で、時間をかけ世代を超えて蓄積、顕在化する場合のほうが、最初の死者数がたとえ少なくとも、ついにはそれをはるかに超える結果をもたらすかもしれないと、狂牛病の体験から警告している。

 被ばく当初にはほとんど死者のいない低線量放射線のこわさもこのたぐいであろう。

  明確に言えば、リスクの大きさは、時間の関数であり、t= 0 という出来事が起きた当初だけでは、一般には決らない。時間がたてばたつほど、リスクが増大するケースも多い。水俣病にしろ、低線量被ばくにしろ、このたぐいの現象は多い。

 安全性の考え方については、50年近く前の名著

 『安全性の考え方』(岩波新書)

がある。メリットとデメリットを勘案した「許容量」を安全性の判定の基準にするという考え方である。しかし、この考え方には、許容量が事前に、あるいはt= 0の時点で決定可能であるとの仮定がある。

 時間とともに被害が広がる胎児性水俣病や低線量被ばくでは、これは通用しない。許容量の考え方に代わる新しい安全性の考え方が求められている。

Dsc0207920130723_2

 ● 補遺 参考文献

        ティモシー・ムソー講演会 チェルノブイリから福島へ

    - ツバメたち動物が教えてくれたこと -

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