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第4の創世記へ iPS細胞の「影」

(2013.07.31)  新聞界にいたことのあるブログ子は、新聞の片隅のベタ記事、それも「止め記事」のこわさを何度も経験している。こわさとは、今はどうでもいいような小さなニュースなのだが、それがいつしか大ニュースとなってあらわれてくる予感がするという意味だ。

 ● ベタ記事のiPSシンポジウムに注目

 今でも、ベタ記事をていねいに読み、そのニュースが将来の何を合図しているのか、半日も考えることがある。

 つまりは、

 ベタ、ないし止め記事は、あすの大ニュース

というわけだ。

 Image1809ips20130727 そんな記事を先日みつけた。写真上がそれ。7月27日付中日新聞朝刊の総合面に、せまいところに押し込まれるように

 京大でiPSシンポ

と出ている。見出しも入れてわずか20行ちょっとの記事。

 iPS細胞づくりでノーベル賞を受賞し、シンポジウムを主催した山中伸弥教授。人間のiPS細胞から自分の精子や卵子をつくったり、ブタの体の中で自分用の臓器をつくったりすることができる。

 このことについて

 「(その)新しい技術を社会が受け入れるか(どうか)は、研究者や倫理学者ではなく、社会全体で決めること」

と強調したと記事は伝えている。

 つまり、その言わんとするところは、新しい技術は臨床段階目前まで来ているといいたいのである。社会全体で考えなければならないほど、iPS細胞研究は、倫理学者の饒舌な言葉遊びの段階はとっくに過ぎているというわけだ。その通りだと思う。

 Image821ips20130327 事実、目の網膜の難病治療では、来年夏にも臨床治療が行なわれることが政府によってつい最近認められた(写真中=  2013年3月27日付毎日新聞朝刊)。理化学研究所が行なうもので、世界で初めてのiPS細胞の臨床応用である。

 iPS細胞の機能から、人間の臓器をつくったブタは、体質はもともとのブタというよりも人間の体質に近くなるという。

 iPS細胞の持つ「光」部分の無限の可能性は否定しない。

 しかし、目の網膜組織や心臓などの臓器ならまだしも、脳や神経組織までブタでつくれるとなるとどうなるのだろう。

 人間の脳を持ったブタがつくれるのだろうか。同時に声帯という器官もつくりだされれば、人間のように話し、声も人間のように出すブタができることになる。

 いわんや生殖なしに、卵子も精子も自由につくりだされるとなると、人間の進化というのはどうなるのだろう。生殖機能がなくなっても、人類は永遠に存続できる。

 ● 内閣府で基本指針の見直し

 こう考えてくると、山中教授の言う「社会全体で決める」には、どういう手続きを踏む必要があるのか、早急に詰める必要がある。

 現在、内閣府の総合科学技術会議が専門調査会で、iPS研究のこれまでの指針を、見直しも含め再検討している。脳や生殖細胞も含めて、今年中にもこの新しい事態に対応するため、臨床も含めた新たな基本方針をまとめる(注記)

 この事実を国民の多くは知っているのだろうか。そして、これでいいのだろうかという疑問も出てくる。

 ● 生物学革命の世紀に

 Image18152 この半世紀、

 生物学の革命

といわれた時期がこれまで3回あった。

 旧約聖書の冒頭のアダムとイブになぞらえて、いずれも第二の創世記といわれたりもした。

 最初は、1950年代の生物の設計図、DNAの構造の発見。第二は、1970年代の体外受精(試験管ベビー)技術の確立、第三は、1990年代のクローン羊、ドリーの誕生の時期-である(写真下= 左はA・ローゼンフェルト著(早川書房刊、1972)、右はI・ウィルマット他著(岩波書店、2002))。

 そして、今、iPS細胞の時代という、

 いわば第4の創世記の時代へ

突入しようとしている。

 一言で言えば、

 21世紀は生物学の時代

といわれているのも故なしとしない。

 だが、しかし、私たちの社会は、これにうまく対応する仕組みをいまだ持っていない。ここに問題がある。

 ● 一定の歯止めは必要

  作家で精神科医でもある帚木 蓬生が、今から20年も前に

  『臓器農場』(新潮社、1993年)

で描いた「影」の世界を回避する知恵を、今こそ出さなければなるまい。どこかで「影」の部分の歯止めを設ける必要があるだろう。それは世界に先駆けてiPS細胞を発見した日本の責務でもある。

 山中教授は、国際シンポでそのことを訴えたかったのではないか。

 そんなことを、かのベタの止め記事は語っているように思う。

  注記 2013.08.01

   8月1日夜のBSニュース(NHK)によると、

 内閣府の総合科学技術会議の生命倫理専門調査会が

 「動物でヒトの臓器」をつくる基礎研究を、一定の条件のもとに認める報告

をまとめた。

 一定の条件とは、人間の尊厳を損なうことがないというややあいまいな歯止めのこと。ヒトの脳を動物体内でつくりだすことは明らかにこの条件を満たさない。

 しかし、ヒトの精子や卵子はどうであろうか。あなたは、ブタがつくった精子と卵子から生まれたと言われた場合、人間の尊厳は損なわれないか。それとも平気か、という問題に帰着する。

  もう少し、根本的な問題点としては、

 人間の尊厳と、より広い生命の尊厳との関係をどうとらえるか

というのがある。どこまで人間の尊厳、あるいはわがままを優先するのか。ブタには尊厳などないとしていいのか。これは難しい。

 パンドラの箱を開けてしまわないよう、具体的な指針づくりではもっと詰めた論議が必要だろう。研究指針づくりの前に、広く国民から意見を求めることが必要と考える。

 今後、文部科学省がこの容認方針をもとに研究指針を作成するという。具体的にどんな歯止め策を打ち出すのか、注目したい。

 ● 参考論説

 現在の問題点について解説したものに、NHK解説委員の時論公論、

 http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/162447.html

が参考になるだろう。

 ( 写真最下段=  日本におけるiPS細胞の中核的な研究機関。科学技術振興機構「JSTnews」最新号<TOPICS>より )

   Image1493ips

 

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