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エベレストが泣いている 

Image164320136 (2013.06.14)  先日、80歳で3度目のエベレスト登頂に成功という冒険家、三浦雄一郎さんの快挙について、このブログで、手放しで

 すごい

と書いた。ところが、山に詳しいある男性から、三浦さんがすごいのは確かに間違いない。しかし、今、

 エベレストは大混雑で困っている

という指摘を受けた。運動オンチのブログ子にはなんのことか、すぐにはわからなかった。いろいろ説明をきいているうちに、ようやくその話の意味がわかった。

 いまごろのエベレストの山頂近くは、天候にも恵まれ、少しオーバーに言えば、登山家の群れで文字通り、押すな、押すなの大渋滞らしい。

 ● コラムニストの山頂取材にびっくり

 そんなこともあり、少し図書館で最近のエベレスト登頂について調べに出かけた。しらべるまでもなく、なんと、写真上に示すように

 満員のエベレスト

という特集記事か出ていて、びっくりした(世界的に知られたカラー雑誌『ナショナルジオグラフィク 日本版』(2013年6月号))。山頂で何が起こっているのか、この山に登ったコラムニストの問題提起の特集である。

 登頂成功の華々しい写真の数々の外側には何があるのか

 それを確かめたいというものであり、コラムニストの目が光っていたのはさすがである。

 この雑誌の後ろに写っているのは、三浦さんの快挙に同行したカメラマンの記事。ベースキャンプで笑顔で乾布摩擦をする三浦さんの写真とともに

 三浦さん、次の夢へ

と、大きな見出しがみえる(産経新聞2013年6月13日付)。

 この二つは、あまりにも対照的である。三浦さんの快挙をたたえる産経新聞。これに対し、今のエベレストのなげかわしい大渋滞状況をどう解消し、どう再生したらいいのかと嘆く『ナショナルジオグラフィック』。

 このコラムニストの記事によると、この写真は、去年の5月19日の山頂直下のヒラリーステップと言われている岩場の様子(約8770メートル)。8000メートル以上のデスゾーンの中でもとりわけ危険性の高い岩場に、薄い空気と寒さに震えながら、今か、いまかと登頂の順番待ちが200人以上なのだ。

 それでも、この日だけで234人が順番待ちに耐えて登頂に成功したという(死亡4人)。

 ● 夜は一層、大混雑

 ブログ子などは、なにも知らないから、ぬけがけで少し早めに最終キャンプを出発すればいいのではないか、と思ったりもする。

 現実は、まだ夜明け前には数時間もあるのに、はや真っ暗闇のなかにヘッドランプをつけた登山家が大行列をつくる。その光のラインが山頂近くまで一本の白い糸のように切れ目なく続く写真も見開きで大きく掲載されていた。

 これでは、自分の体力に合わせて登山などできない。疲れたからといって、休めない。押されるまま前へ、前へと進むしかない。だから、遺体もあちこちに放置されたまま。

 いまや登頂は、自分の体力との勝負でも、自然の厳しさでもない。人ごみをいかにうまくかき分け、切り抜けることができるかというマネジメント能力にかかっている(注記)

 何しろ、エベレストには最近では毎年1000人近く上る。成功率は最近では50%を少し超えるぐらい。今年の分まで含めれば、これまでに6500人以上が登頂に成功している。そのほとんどは、この20年くらいが占めている。

 三浦さんの3回成功分、この中に含まれていることになる。乾布摩擦の効果もあっただろうが、スタッフたちのマネジメントの成果が大きく効いたようにも思う。

 初登頂成功以来、1960年代までは、成功者は年間10人くらいで、死亡率も高かった(現在は1%くらい)。

 ● 登山家はなぜエベレストを目指すのか

 件の取材で登山したコラムニストは、ネパール政府に対し入山許可数の制限を、登山者にはごみや汚物を残さないことを、遺体を放置しないことを訴えていた。

 これらを含め、6つのアイデアを提案している。日本の登山家、野口健さんがエベレスト清掃登山を主唱し、富士山でも実践している。いまのエベレストの状況では、せっかくのこれらのアイデアがどれほど効果があるのか、うたがわしい。

 それにしても、世界の聖なる山、エベレストの山頂がこれほど騒がしく、俗化しているとは知らなかった。このことを知ったら、初登頂(1953年)に成功したニュージーランドの登山家、E.ヒラリーさんはどんな思いをいだくだろうか。

 人はなぜ山に登るのか。そこに山があるからだ、冒険があるからだ、ではすまない事態だろう。

 エベレストは泣いている。そう思った。

 注記

 最新号の「週刊文春」(6月20日号)の末尾の投書欄「読者より」に次のような手厳しい投書が載っている。

 「今のエベレストは「金・時間・普通の体力」があれば頂上まで導いてくれるツアー登山が主流。今回の三浦氏の登山はその最たるもの」

 この投書、返す刀で、だから、政府が検討している三浦賞には違和感を覚える、と政府に対しても、選挙目当てではないかと言わんばかりの辛らつさで切り込んでいる。

 痛快だ。60代の男性の投書だが、手放しで「すごい」と書いたブログ子も、その通りだと思う。「80歳にしては、すごい」と訂正したい。

 横並びの意見ではないきちんとした主張に敬意を表したい。

 泣いているだけではなく、エベレストは怒ってもいる。

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