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驚異の「アマゾネス」の世界 ハキリアリ

(2013.06.23)  このブログは、科学や技術と社会の関係について論じようというのがテーマである。

 人間社会では、男女共同参画社会づくりといって「男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野の活動に参画できる」社会の実現を目指している。基本法にも、そう書いてある。それが活力ある日本をつくるというわけだ。

 ● 産むメス、産まないメス 真社会性昆虫

 ところが、このことは、真社会性という昆虫の仲間ではそもそも通用しない。進化論的な繁栄の帰結として、高度な分業、つまり、同じメスの中でも

  Dsc01877 生殖の分業

まで行っている。同じメスでも、産む女と、膨大な数の産まない女である。性差別どころか、生殖差別で繁栄を極めている。

  先日、アリの仲間の

  ハキリアリという社会性昆虫

の驚異の世界が、NHKのEテレ

 「地球ドラマチック 驚異のハキリアリ」

というタイトルで放送されていた(写真上=同番組画面より)。

 途中から見始めたのだが、感想を一言でいえば、

 アリの家族は、女だけの部族「アマゾネス」

のようだと思ってしまった。

 こういう〝高度な〟社会性昆虫を最近では、

 真社会性昆虫

というらしい。シロアリやミツバチもこの仲間という。

 Dsc01881 どういう点が、高度な社会性というのかというと、

 第一には、繁殖が分業化されているという点

 巣内、つまり家族のなかでは、巨大な大きさの女王アリ一匹だけが卵を産む役割を担う。

 女王アリは産む機械であり、それ以外の役割はない。産んだ卵はほとんどすべてが女王アリによってメスとして生まれてくるように調整されている。またすべて不妊調整が施されているという。

 それらのメスは育児期間がすぎると働きアリ(ワーカー)として、女王の世話を担当する(写真中= Eテレ番組画面より)。

 第二は、卵の世話や育児、食料調達、見張りや農園の管理なども、カーストと呼ばれる社会的な役割が決っている階級性がある。身分制社会である。

 つまり、家族構成は、一匹の大きな女王をトップに、比較的に小さいほとんどの働きアリ(メス、不妊)、体の大きい兵隊アリ(ソルジャー、写真下=同番組より)、ごくわずかの羽根のある雄アリ、ごくごくわずかの羽根のある処女女王アリからなる。

 この場合の雄アリというのは、人間世界でわかりやすく言えば

 ヒモ

だろう。次に女王アリになる処女女王アリに交尾する役割が与えられている。この役割が終われば、その交尾の雄アリは力尽きて死亡する。相手の女王アリは、結婚飛行で一生分の精子を受け取ると羽根を落とし、巣をつくり二度と交尾はしない。ひたすら繁殖に励む、というのだ。

 ● 女王アリ、君臨すれども統治せず

 ブログ子にはわからなかったが、こうした繁殖分業制と身分制のある昆虫がどうして繁栄できたのか、ダーウイン進化論的には大変に興味がある。不妊が進化論的に生存にとって有利に働くとは考えにくい。不思議である。

 Dsc01873 個体メスが個々に利己的に繁殖に励むのが最も繁栄するのではないかと思う。それとも、同じメスでも生殖の分業がその効率からして、より有利とでもいうのだろうか。

 いわば、産まないメスたちの共同戦線。おもしろい進化論研究のテーマだと思う。

 ところで、先ほど、女王アリをトップと言ったが、女王アリは集団生活においてはなんら命令などは出していないらしい。リーダーなどではない。これまた驚いた。

 女王は繁殖という形で君臨すれども、統治せずというのだから、人間社会でもイギリスのように、女王をいただいて世界の7つの海で繁栄した実例もあり、おもしろい。

 では、どのようにして、アリ集団は効率よく統治されているのか。

 特殊なホルモンや腹部を利用した摩擦音でコミュニケーションをとっているだけなのだという。嗅覚と聴覚だというのだから、これまた驚きだ。単純なルールで複雑な行動を統御しているらしい。

 これなども、人間社会の問題、いわゆる

 セールスマン巡回問題

に、大いに活用されているらしい。

 人の進化の歴史は、せいぜい数100万年ぐらい。これに対し、アリの進化は100倍も長く、なんと数億年もの長きにわたって、しかも繁栄しながら続いている。

 思うに、男女共同参画というのは、新参者の浅知恵でしかないのかもしれない。もっとアリたちに学ぶべきなのかもしれない。

 いや、悔しいが、学ぶべきなのだ。

  なお、生物一般について、子育てなどオスとメスの家族の姿については

 「千差万別な家族の姿」(「ニュートン」2013年5月号)に詳しい。

 オスとメスの駆け引きから性の進化に迫っており、真社会性生物のハチについても詳しく出ている。個体の利己的行動ではなく、なぜ自己犠牲の繁殖が進化にとって有利なのか、解説されている。

 ● 建築する生物たち

 Image1692 こうした真社会性昆虫にはハキリアリ、シロアリのほか、ミツバチでもみられるらしい。

 真社会性昆虫の研究がもっと進めば、共同参画社会の実現こそが日本をより繁栄させるという美しい常識に一石を投じることになるかもしれない。

 このブログには、一度は常識と思っていることを本気で疑ってみるという隠しテーマがある。真社会性昆虫の研究はそのいい材料を提供していると番組を拝見して、痛感した。

 なお、番組では、ハキリアリの巣づくりについても触れてはいた。写真のような大変におもしろい本があることを紹介しておきたい。

 この本を書評した解剖学者で名著『唯脳論』の著者、養老孟司さんは、巣をつくる行動の進化と、実際の生きもののほうの進化との関連にふれ、

 「巣は体でない体」 

と語っていた(毎日新聞2009年9月6日付朝刊読書欄)。巣をみれば、その生き物がたどったであろう進化の軌跡がわかるというわけだ。人間社会で言えば、

 住宅は住んでいる人の体(実体)を現す

といったところか。見事な視点であると思う。

 (写真最下段 = シロアリなど生き物たちの巣づくりの驚異に迫った『建築する動物たち』(マイク・ハンセル、青土社、2009年)

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