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君は今、幸福なのか問いかけ 木下恵介論

(2013.05.26)  木下恵介生誕100年ということもあり、木下恵介記念館(浜松市)に同監督の

 「今日もまたかくてありなん」(松竹芸術祭参加作品、1959年)

という映画を見にでかけた。50人くらいの市民が集まった。

  60年安保の前年に公開された映画なのに、木下監督ともあろうものが、どうしてこんな小市民的な映画をあえてつくったのだろうと疑問を持ちながら見た。

 見て、気づいた。 

 Image160120130526_2 今日もまたかくてありなん、というのは、怠惰というのか、こんなんでいいのかという反語的なタイトルなのだと-。君は今、幸福なのかと問いかけていたのだ。

 大衆という賢くもまた愚かな存在を温かい目で見つめた、きわめて社会派的な映画なのだ。この映画の暗いイメージに暗示を受け、ささやかな希望を見つけてほしいという表面の意味とは正反対のメッセージを込め、ある家庭を、それもしみじみと描いてみせたのだ。小津安二郎監督にはできない芸当だろう。

 そして、こうも思った。この映画の脚本は監督自身が書いたのだが、

 おそらく、なんとつまらない台本だろう

と制作スタッフは思ったことだろうと。表面の意味とは逆のメッセージを込めているのだから、無理もない。

 ● 反語的な映画なのだ

  案の定、この上映会に出席した当時のプロデューサー(当時の言葉で製作補)、脇田茂さんのミニ講演、

 素顔の木下恵介

で、わかった(写真= 木下恵介記念館)。

 脇田さんによると、松竹大船撮影所スタッフたちの世論は

 「木下さんの台本はなんとつまらないのだろう。それに比べ、出来上がった映画はなんと、すばらしいのだろう」

というものだったらしい。この世評に木下監督自身

 「それは、みんなの台本の読み方が悪いからだ」

と皮肉ったらしい。反語的な映画だから、声高には、あからさまには叫ばない。沈思のひとなのだ。

 ● 天才監督と呼ばれた由来

 脇田さんが話してくれたエピソード、その1。

 木下恵介は天才監督だ

というようになったのは、どういう経緯からだったか。

  Image160320130526_2 それは、この映画の公開される10年も前、1949年に出されていた、いわゆる3号雑誌『泥沼』に、当時、松竹の助監督だった西川克己氏が

 木下恵介論

を書いた。その冒頭が

 木下恵介は天才である。これに異論のある者は前に出ろ、うんぬん

と書いたらしい。この場合の天才というのは、

 要するに、特異児

という意味だったらしい。テーマのバラエティが広く、また制作手法も変化に富んでいたらしい。天才というのはこのことを指していたという。

 以前に紹介した「笛吹川」の意表を突く、しかしメッセージ性のあるパートカラーもそうだが、とかくいろいろな手法を試していたようだ。

  ● 幻の映画「戦場の固き約束」 

 エピソード、その2

 日中合作映画「戦場の固き約束」(1988年、シナリオ完成後、土壇場でシナリオ修正問題でご破算に)は、もともと25年も前の1963年に、脚本家の山田太一氏が木下監督の口述を筆記したもので、

 『戦場の固き約束』(木下恵介、主婦の友社)

にまとめられていた。最後まで中国側の求める問題の箇所の書き変えを妥協はせず、承諾することはなかったらしい。企画段階で、幻の映画となった。そして、翌年、天安門事件が発生。

 ● 木下さんの書架から

 記念館には、一階に木下さんの書斎が再現されている。

 上映会の帰りに、ちょっと寄ってみた。問題の

 戦場の固き約束

の赤表紙の台本もあった。

 ブログ子の目に留まった蔵書の一部をここに紹介すれば、監督の思想や信念のおおよそはうかがえるように思う。

 『庶民列伝』(深澤七郎、新潮社)

  『黒い雨』(井伏鱒二、新潮社)

 『わだつみ』(井上靖、岩波書店)

 「監督」と呼ばれることを好まなかった人柄からもわかるが、大衆の愚かさも静かに見つめ続けた「下から目線」の社会派映画人だったように思う。

 補遺 はじまりのみち

 なぜ、そのような信条をいだくようになったか。その原点を探ろうと、

 近々、木下恵介の戦中自伝映画

 「はじまりのみち」(原惠一監督、2013年6月)

が公開されるらしい。

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