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なぜイボニシ貝は福島の海岸から消えたか

(2013.05.08)  珍しいことだが、「日経サイエンス」2013年6月号の

 当世かがく考「砂漠の駱駝」

の欄で、日経新聞の滝順一論説委員が

 福島の生物相の異変は本物か

という論説を掲げていた(写真上)。

 Image146520136_3 珍しいことというのは、環境異変を取り上げていたからだ。しかし、記事自体は、むしろ本当かいな、という後ろ向きのニュアンス(注記)

 事故から丸2年がたち、放射能の影響に関心が集まり出している昨今を考えると、タイミングのいい、そしていいところに目をつけていた。注意喚起の論説として評価したい。

 さて、その内容だが、3月の日本水産学会で、

 福島原発事故の現場付近の海岸で巻貝のイボニシが姿を消している

との発表があったことを取り上げている。発表したのは国立環境研究所の堀口俊宏研究員。岩手県から千葉県までの43地点の波打ち際の生物の生息状況を調査したところ、

 「その結果、(原発事故現場に近い)双葉町から広野町にかけての8地点、約30キロでイボニシがまったく採取できなかった」

という。

 この貝は日本のたいていの海岸に生息する(写真下= 『新世紀ビジュアル大辞典』(学研)より)。事故が起きる以前がどうだったかは、これまでのところ不明であるから、消えた原因が、原発事故の影響なのかどうかを直接知ることはできないが、それでも異常な、あるいはおかしいのは確かだ。

 イボニシだけではなく、ヤドカリなどの馴染みの貝類も先の8地点では消えていた。

 放射能による海洋汚染の影響というよりも、これには津波の影響という原因も考えられる。しかし、大きな津波が来たほかの地点では、イボニシが見つかっているところもあるというから、確実ではないが、消えたのは大津波のせいではないらしいともいえる。その見つかったイボニシもまだ小さく、震災後に生まれたらしいことがわかっているからだ。

 Image1467 となると、まだまだサンプル数が少ないなど問題点もあるが、放射能の影響ではないかと疑いたくなる。

 これに符合するように、大気中においても、蝶の仲間、ヤマトシジミにおいて、福島県内のものは、全国の他県に比べて、どうやら子の世代で死亡率が有意に高い。そういう事実を琉球大学理学部の大瀧丈二准教授が海外論文誌に発表し、この滝論説委員の記事によると大きな反響を呼んだらしい。

 空気中を飛んでいた蝶が放射線を浴びたため、その子どもの発生段階での放射線の影響が疑われるからだ。

 蝶というのは、卵からさなぎ、幼虫と大きく変態するので、遺伝子がちょっと傷ついただけでも、成虫に育つまでに大きな影響を受けやすい。低線量の被ばくの影響に敏感に反応する昆虫なのだ。そこが気になる。

 より踏み込んで言えば、海洋や大気の放射能汚染が、たとえそれが微量であっても特定の生き物に生殖異常を引き起こさせ、正常な繁殖を妨げている可能性は排除できない。

 ただ、サンプルの一様性、つまり、各県や地域ごとに少しずつヤマトシジミの個性があることを無視しているなど、サンプルの統計処理上の問題点、比較の仕方に問題があるとも指摘されているらしい。今後の慎重な再検証を期待したいところである(補遺)。

 福島県内の子どもたちの甲状腺異常が問題になっている折、こうしたさまざまな生き物の〝異常〟について、注意を怠ってはなるまい。

  注記 

 後ろ向きの根拠は、言葉の言い回しにある。

 たとえば、冒頭

 「関連が疑われるが、現時点で断定はできない。予断にとらわれず、詳細な調査を進める必要がある。」
としている。関連を積極的に評価する場合、こういう言い方はせず、

 「現時点では断定はできないが、関連が疑われる。予断にとらわれず-」

とするだろう。

 もう一か所、締めくくりの部分。

 「まったくの仮説であるが、確かめる必要がある。」

というのも、積極的に関連性の仮説を取り上げる場合には、

 「仮説であり、確かめる必要がある。」

となる。わざわざ、「まったくの」仮説と強調しているのは、仮説に疑問を持っていることを示唆している。

   補遺

 地震や津波で東北の海や、そこに生息していた生き物はどうなっているのかという、環境調査については、水産総合研究センター(独立行政法人、横浜市)も調査している。たとえば、

 「FRA NEWS」(水産総合研究センター、2012年12月号)

にその結果の一部がまとめられている。

 それによると、アマモ場では、宮城県鳥の海や福島県松川浦の全調査地点すべてでアマモが確認できない。

 あるいは、福島県松川浦では、2010年生まれのアサリのグループが多く減っていた。一方で2011年生まれのグループが確認されている。

 こうした調査は、2012年度も続けられており、海洋の放射能汚染との関連にも注意を払って、今後もさらに注意深く調査する必要があろう。

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