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原子炉中心主義からシステム中心主義へ

(2013.04.24)  講談社の読書人の雑誌『本』の最新号(2013年5月号)に掲載された

 特別対談 福島原発事故から何を学ぶか

を読んだ。政府事故調の委員長をつとめた畑村洋太郎氏(失敗学の提唱者)と歴史学者の加藤陽子氏が、畑村氏の近著、

 『福島原発事故はなぜ起こったか 政府事故調核心解説』(講談社)

の紹介がてら語り合ったもの(写真)。

 Image967 結論を先に言うと、何を学ぶかという対談タイトルなのだが、特別対談では、それについて、明示的には書かれていない。

 そこで、ブログ子が対談を読んで、まとめてみた。要するに

 これまでのような原発の原子炉中心主義から、巨大技術の全体を俯瞰するシステム中心主義に切り替えることが、規制のあり方にしろ、事故再発の防止にしろ、大事である

ということを学べということらしい。

 部分、部分をみていてはわからない隘路が、システム全体を俯瞰してみてはじめて、みえてくるというわけだ。巨大技術の場合、これまでのような部分、部分の「形だけの運用」でよしとするようではダメだということを今回の事故は警告したというわけだ。

  だから、対談では、事故から2年もたったのだから、全電源喪失あるいは冷却源の喪失という部分的なことだけに限らず、事故全体がどのように進行していったのか、その全体像をつかむ努力と解明が、これからの再発防止を考える上で必要だと訴えている。

 まだまだ部分的にしか、事故原因は解明されていないというわけであり、これは鋭い指摘だと思う。

 ● 効率重視の罠にはまる

 それは示唆的でもある。たとえば、原子力規制委が規制を厳格にしようとしているが、部分、部分の規制指針の強化だけでは、またぞろ事故は起こると警告しているのは、正鵠を射ている。

 しかも、対談内容から推測すると、このシステムというのは、注水とか、配電盤の設置方法などの原発敷地内だけのものではなく、社会システムまでも含む。たとえば、避難道路の確保やオフサイトセンターのあり方まで含めてシステムとして考える。

 これまでは、あまりに効率重視の罠にはまりすぎて、かえってとうてい割の合わない事故が起きたというのだ。その通りだろう。

 ● 技術者倫理「公衆の安全最優先」の欠如

 事故は、さまざまなレベルの

 技術者たちの不作為

で起きたとした上で、

 一番大事なものは何か

という想像力と、その大事なものが「自分に預託されている」という意識を持たない人間がそこに(つまり現場に)いた

と畑村氏は鋭い。大事なところを直視しないで、形式だけで騒いでいる社会のあり方を批判している。

 それでは、畑村氏の言う「一番大事なもの」というのは何か。明示的には書かれていないが、

 技術者倫理の根本

 公衆の安全、健康、福利を最優先する

という姿勢であり、行動規範であろう。

 どの分野の倫理規定でも、たいてい第一条に上げられている規定だ。

 事故やミスの予見性や、その回避性を突き詰めて見極めるというこの最優先思想が、いまだ「形だけの運用」に終わっている。

 もっと具体的に言えば、専門知識を持つはずの技術者の多くは、業務上、当然払うべき注意義務を怠っている。これは倫理上の問題であるばかりか、刑法上の過失責任すら問われかねない状況といえる。

 ● 形式運用の根本原因

 では、なぜ、技術者は、一般的に「形式だけの運用でよし」と満足してしまうのか。

 それは、

 専門分野について、積極的に意見を述べる

という倫理規定がないからだと思う。従来の技術者倫理では、意見を表明する場合には、客観性、真実性、正直性をモットーとせよ、としかたいてい書かれていない。

 これでは技術者は、社会から見ると黒子、影の存在

としか映らないし、技術者自身もそうとらえている人は多い。だから技術者という専門職に誇りが持てない。だから、「形式だけの運用でよし」となりがち。技術者は黙っていい仕事をすればいいんだという閉じられた職人技の世界となる。

 巨大技術の場合には、この無自覚、無責任さが災いする。

 これに対し積極的な意見表明は、自らの責任自覚を高める。また、意見表明は、

 客観的で、かつ、真実性のある正直でわかりやすい方法で行なう

とする。主観的な、あるいは欺瞞的な論理や方法は用いない。

 一言で言えば、科学・技術者は

 専門知識を用いて、自分や雇い主に都合よく公衆をあざむかない

という技術者倫理である。正直ベースでいこうとなれば、原発の「安全神話」の浸透を避け得たはずである。

 畑村氏は、この対談で、システム中心主義の重要性とともに、このことを技術者として大事なものであると表現したように思う。

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