« 疑わしきは予防する 共同診療所訪問記     「3.11」福島ルポ | トップページ | 拡散する放射能汚染  福島「3.11」ルポ »

白、黒はっきりしないのは「シロ」か      診療所報告会 「3.11」福島ルポ

(2013.03.25)  一般の人々からの寄付金で設立された

 「ふくしま共同診療所」(福島市)

が開院して3か月。先日、その運営状況について、福島市で報告会が開かれ、ブログ子も参加した(写真)。

 写真でもわかるが、会場は入りきれないほどの盛況だった。

 強く印象に残ったのは医師同士の間でも、闘いが始まっているということだった。

 Image759 つまり、福島県が福島医大に委託して震災時18歳以下だった子どもたちを対象に現在行なっている甲状腺「異常」検査。検査そのもののあり方や、いわゆる超音波エコー検査結果の評価をめぐって意見が対立している。見つかった〝異常〟が原発事故の影響かどうか、その因果関係について

 白、黒が医学的にはっきりしない場合、それは「シロ」=因果関係はないと言えるか

という問題に要約できる。

 ● 判定のあり方に不満と不安感

 福島県の甲状腺検査判定基準によると、異常の指標として、結節(しこり)やのう胞(液体が入った小さな袋状のもの)の大きさを採用。深刻な順に、

 C、B、A2、A1(異常なし)

の四段階で判定される。C、B判定については、異常があるとして「要再検査」=精密検査となる。問題はA2判定というグレーをどう扱うかという点で受診者との間でトラブルが相次いでいる。

 診療所の松江寛人医師によると、スクリーニング検査のA2判定とは、異常はあるが、それが、しこり=5ミリ以下、または、のう胞=20ミリ以下と比較的に軽い場合に相当。この場合は、追加的な精密検査の必要はないと診断される。

 つまり、受診者にすれば、A2判定は、見つかった異常が事故の影響によるものかもしれないと具体的な不安をもっているのに、異常なしのA1判定となんら変わらないことになる。

 ここに受診者側が検査のあり方に不満や不信感をいだく原因がある。検査が家族の不安にこたえていない。きつい言い方をすれば無視している。

 このことは、診療所を訪れた人の約8割が、漠然と来院したのではなく、具体的に甲状腺がんを心配した親子であったことからもわかる。

 こうしたA2判定の子どもは福島県の場合、現在までのところ検査した子どもの約4割で見つかっている(注記)。だから、検査のあり方に対する県民の不信感、不安感は福島県では大きな社会問題になっている。

 ● 普通のスクリーニング検査とは異なる

 事故を受けての検査の判定の問題点は、

 通常の、たとえば胃がん検診のようなスクリーニング検診と同じ考え方

で行なわれていることだ。通常のスクリーニング検査の場合には、特段の原因がないことを前提に行なわれる。これに対して、今回のような検査は、スクリーニング段階ですでに原発事故の影響という、甲状腺がんを引き起こす具体的な要因が存在する。

 だとするならば、異常があった場合、それは事故と何らかのつながりがあるのではないかという、予防的な疑念をもつのが科学的にも医学的にも正しい。それを再検査は必要なしと切り捨てるのでは、何のための検査なのかと疑われても仕方がないだろう。通常のがん検診とは状況は違うのであり、誤りだ。

 具体的な要因が目の前にあるのに、その要因に結びつくかもしれないすべての異常をこの際、検査するという姿勢がない。ここに問題がある。

 白、黒はっきりしない場合、それはグレーであり、シロではない。ましてや、原発事故という特定の影響が疑われている場合は、それは黒、つまり、因果関係があるとの前提で、慎重に精密検査をするのが、検査のあり方であろう。このことが受診者の信頼を得る道なのだ。

 ● 判定基準にも問題が浮上

 診療所の検査では、1ミリ以下ののう胞が広範囲に無数に存在する症例が多く見つかっている。このような症例はこれまで報告の例がないという。甲状腺の広い範囲に放射能の影響を受けた可能性が浮かび上がっている。

 こうなると、判定基準そのものがスクリーニングとしてすら適切かどうか疑わしくなってくる。

 さらに言えば、事故の影響は、甲状腺がんだけではないことも、チェルノブイリ事故以来、国際的な知見からわかり始めている。循環器その他についても検査、診療していく必要があろう。

 ● 医師の良心とは

 Dsc012242 さらに、ひるがえって問題なのは、甲状腺がんの信頼できる疫学的な大規模検査が国際的にも国内的にもいまだ存在しないという点だ。

 甲状腺罹患率100万人に1人という数字が、あたかも信頼できるかのように一人歩きしている。あくまで、効率の良い検査態勢を構築する場合の一応の目安にすぎない。

 この不確かな数字に寄りかかって、福島県民の甲状腺罹患率が高いとか、少ないとかという議論はその信頼性を慎重に考慮すべきだ。

 慎重な態度とは、

 「疫学的には因果関係があるとも、ないともいえない場合、現段階では断定しない」

という態度であろう。これでは物足りないというのなら、どの程度断定が確かなのか、いわゆる「有意水準」の%を同時に明示すべきだ。

 サンプル数が少ない、つまり30以下の小数サンプルの場合は、大サンプル数のケースとは違って、さらに統計的な扱いに慎重さが必要だ。科学的に断定できないことは断定しないという慎重さがほしい。

 甲状腺異常については、地域特性があることが知られている。だから、原発の影響がすくない他県と比べて、福島県の罹患率うんぬんという論法は、参考にはなっても決め手ではないことも注意すべきだ。事故前の信頼できる福島県の罹患率がわかっていない以上、

 もしかしたら因果関係があるかもしれない

という受診者の利益につながる慎重さが今の段階では要る。

 繰り返すが、要するに、今必要なのは、疑わしきは、不安をあおらないために軽々にシロと断を下すことではなく、あくまでグレーである。受診者の安全という利益を考える側に立つ

という謙虚さと慎重さだろう。安易な断定は、科学的ではないばかりか、かえって今後に禍根を残すという弊害を生むことを見落とすべきではない。

 ● チェルノブイリの教訓生かす

 実は、このことは、事故から27年もたった「チェルノブイリ」の教訓でもある。この謙虚さと慎重さに欠けていたことが、ウクライナや隣国、ベラルーシの数十万人にも上る人々を、放射線障害の有無をめぐって今も不安をかきたて、苦しめている。

 Image819 写真下は、チェルノブイリ事故に関して、甲状腺がんだけでなく、子どもに慢性疾患のある割合が年々増え続けている様子を示したデータ(ウクライナ政府報告「未来のための安全」(2011)より)。一方、健康な子どもたちの割合は逆に減り続けている。ただ事ではないことがわかる。

 科学者としての良心とは何か。予防原則とは何か。これらをめぐって、医師同士の間で具体的な闘いがはや始まっている。このことを、報告会は目の当たりにさせてくれた。

 (写真中は、診療所の診察室の様子)

  ● 注記 A1/A2判定で判定医師の違いによる地域差

 2013年3月30日付朝日新聞(写真最下段)によると、

 比較検査を実施した環境省が、その後、福島県外の子どもの甲状腺検査でのう胞やしこりのある割合について、検査した県により4割ないし7割と開きがあったと発表した。

 Image8661 つまり、A1かA2かの判定をする段階で、判定する医師の基準が県ごとに統一されていなかったり、技量の差異だったりすることによる統計的な偏りであることがわかった。つまり、系統的な誤差がある。

 地域差は系統誤差によって見かけ上生じたものであり、子どもの体の医学的な実態を反映したものではないことなる。

 このことから、環境省のこれまでの全国検査だけでは、福島県内の子どもの甲状腺〝異常〟の割合約4割という数字が他県に比べて多いのか、少ないのかという疫学的な判断は、系統誤差を補正しない限り、できないことになる。

 もっとはっきり言えば

 福島の子どもの検査結果は、原発事故によるものとは言えない、あるいは考えにくい、などとは軽々に結論付けられない

ことになる。

 慎重を期して、ひょっとしたら事故との因果関係があるかもしれないとの立場から、A2判定の子どもたちの精密検査を今後行なうべきではないか。

|

« 疑わしきは予防する 共同診療所訪問記     「3.11」福島ルポ | トップページ | 拡散する放射能汚染  福島「3.11」ルポ »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/56967443

この記事へのトラックバック一覧です: 白、黒はっきりしないのは「シロ」か      診療所報告会 「3.11」福島ルポ:

« 疑わしきは予防する 共同診療所訪問記     「3.11」福島ルポ | トップページ | 拡散する放射能汚染  福島「3.11」ルポ »