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顕微鏡下の「センス・オブ・ワンダー」       - 科学ソムリエの役割

(2013.02.12)  農家でも家庭でも、貯蔵ができるせいか、春の新タマネギとは言うものの、今では年中楽しめる。これからの新タマは格別だが、ブログ子も季節に関係なく、ときどき、疲れたときなどは

 たたき用カツオの上に刻んだタマネギを乗せたもの

を晩酌の肴にしている。辛口の熱燗のお酒にピッタリである。これにレモン汁をたらし、レタスをトッピングとして添えることができたら、これはもうりっぱなカルパッチョ。サラダ感覚で生でタマネギを食べるのもいい。生で食べると、タマネギのあの独特の刺激臭が、ニンニクほどではないにしても、疲れをとってくれるのがありがたい。

 だが、しかし、これまで一度たりとも、あのタマネギやニンニクの正体がどんな風なものなのか、その微細な様子をまじかに見たことも、考えたこともなかった。

 ● 植物細胞を究める

 そんな折、先日、ボランティアをしている浜松科学館(浜松市)で、1000倍の拡大能力を持つ

 顕微鏡で植物細胞を究める(サイエンスわくわく探偵団)

という小学校高学年、中学生を対象にした理科実験教室に参加させてもらった。静岡県内の「中高大の理科教育連携を考えるグループ」の主催なのだが、顕微鏡の台数にまだ余裕があるというので、急きょ、実験教室の片隅で子どもたちと机を並べて4時間もの授業に臨んだ。

 Image685 その様子を示したのが、上の写真。結論を先に言えば、静岡大学農学部教授や子どもたちの教育に手馴れた元高校教師(生物担当)が協力して計画を組み立てたからであろう、実に、周到に準備された驚きの授業だった。

  双眼鏡型の顕微鏡の操作では、両目をしっかり見開いて観察すること(片目はダメ)、そのための顕微鏡の調整の仕方、細胞のスケッチでは実線と同じ大きさの点のいずれかで描くこと(絵画でよく使われる、ぼかし陰影は使わない)など、科学実験ではこうした準備が非常に大切なことを、まず体と手で学ぶ。

 ついで、いよいよタマネギの生きたままの細胞の分裂の様子を観察する。

 タマネギのごく小さな黒いタネから発芽中の根のそのまた先を鋭くとがったピンセットで数ミリ切り取る。さらにその根端の細胞内を観察しやすいように特殊な方法でピンクに色素で染色する。成長著しい根の先は、タマネギの中でも細胞分裂を盛んに繰り返しているはずだから、顕微鏡観察に好都合というわけだ。

 ついに、生命の設計図といわれているDNAやRNAが入っている黒っぽい緑色に染色された核が見える。拡大率を上げると、核の中に黒い点が2つのものと1つのものとがある。

 ニンニクの場合、拡大率を上げると、つまり、400倍、1000倍にすると、染色体も黒っぽく見える。ごく細く見えないDNAがくるくる巻き上がって凝縮して太くなったかららしい。みえるだけでなく、二手に別れようとしている様子も鮮やかに見えた。核分裂である。それが終わり、二つの独立した細胞になる寸前の仕切りの様子などいろいろな位相のものもなんとかわかった。

 このとき、これが生命の源の姿かと思うと同時に、DNAと染色体とは実体は同じでも、顕微鏡下ではこんなにも鮮やかな違いがあることも実感できた。これでは、染色体の正体が当時すでに知られていた核酸の一種、DNAの折り重なったものであることを突き止めるまでの20世紀前半の生物学者たちのあの手この手の苦闘も無理はないと、少なからず納得した。

 ● R.カーソン女史の遺した言葉

 今から50年以上も昔、『沈黙の春』で知られる生物学者、R.カーソン女史は、最後のメッセージとして次のような遺言を残している。

 子どもと一緒に雨の森に出かけてみましょう。

 自然は嵐の日も 穏やかな日も

 夜も昼も

 憂鬱そうに見える日も

 子どもたちへの一番大切な贈りものを用意しておいてくれます。

   - 『センス・オブ・ワンダー』(新潮社、上遠恵子訳)

 彼女の言う「贈り物」とは

 生命の不思議さに驚嘆する感性、センス・オブ・ワンダー(sense of wonder)

のことである。

   先日のこのブログ(2月4日付)でも、科学ソムリエの心得について

 http://lowell.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-093b.html 

で4か条、たとえば、だれでもが楽しめることなどを挙げた。今回の授業には、理系大学出身のシニアのブログ子も、これから本格的に学ぶ小学生も同じ机を並べて学んでも、十分楽しめたし、それぞれが驚きを感じることもできるものだった。

 Image690 そんな心得を持った優れた科学ソムリエの役割とは、カーソン女史が遺した

 子どもたちへの大切な贈りもの

を、質の高い感動を、今の時代、雨の森でなくても、用意できることだろう。

 そんな思いで、この日の夜の晩酌では、かつて少し読んだ光学顕微鏡よりもさらに微細な様子がわかる電子顕微鏡の世界

 『新 細胞を読む』(山科正平、講談社ブルーバックス。写真下)

を拡げてみた。ともに学んだ子どもたちの中には、やがて、この小宇宙のさらなる驚異と謎の世界に目を向ける人材が出てくるような気がした。

 注記

 生き物の小さな細胞がたくさん集まって一つの「組織」や「器官」をつくっている様子については、

 『MicroFantastique(ミクロファンタスティック)』(西永奨、考古堂書店、1997年)

が面白い。電子顕微鏡を使っているのだが、拡大率は、数10倍から数100倍と、今回の授業で使ったものと同程度。しかし、走査型電子顕微鏡の特徴として立体感があり、そのファンタスティックな様子は圧巻である。その分、リアルであり、子どもたちをより強く生命の世界に引き込むだろう。

  注記2  2013.03.01

  立体感の出せる電子顕微鏡の特徴うまく活用して、1mmから0.01mmの世界をクローズアップして見せた記事に、

 科学雑誌「ニュートン」2013年4月号 電子顕微鏡で見る花粉の世界

というのがある。

 花粉症の季節に合わせたカラー企画で、圧巻。オクラ、アサガオ、リンゴ、菊などの花粉、つまり動物で言えば精子にあたる世界の驚きと不思議を伝えている。

 風や昆虫によって「めしべ」に運ばれたおしべの花粉には、なんと、受精するための管を出す〝穴〟、あるいはすき間が開いている。しかもこの穴やすき間の形は植物によってさまざまな。いずれも芸術性の高い形をしているのには、不思議でもあり、また驚く。 

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