« 新聞小説「愛ふたたび」の地方紙による検閲  | トップページ | 科学ソムリエの心得  タングラムづくり »

「不都合な真実」と「好都合な真実」の間          - 温暖化は欺瞞の政治神話か、それとも科学的な警告か

(2013.01.31)  植生の変化にしろ、気温などの気候変動にしろ、長期にわたる地球温暖化の影響が地球上でもっとも敏感に現れるのは、北緯67度よりも緯度の高い海ばかりの北極圏であろう。

● 南極大陸は安定しているか

  Image648 陸地というのは、グリーンランドぐらいだが、北極海にはる海氷は薄く、少しの海水温、あるいは気温の変化でも、比較的に氷から水に、あるいはその逆に変化しやすい。しかも、周囲にはユーラシア大陸、北米大陸など人の活動も盛んなところがあるという人文地理的な要因も人為的な変化を受けやすい理由だろう。

 これとは対照的に、南極圏のほとんどを占める南極大陸は、数千メートルという分厚い氷に覆われている。その温度も氷点下40度くらい。昭和基地のような南極では気温の比較的高いところでも、年平均気温は氷点下10度くらい。氷は零度にならないと、とけないのだから、多少の温暖化なんか関係ない。氷は年中氷のままであり、温暖化に対しては安定している。

 陸氷が氷河として海に流れ落ち、白い氷山となる量と、新たに南極大陸内陸部に降り積もる雪が凍る量とは、この1万年以上にわたる間氷期の間ではほとんどつり合っていて、全体としては氷の量の変化はない。

 そういう意味で、南極大陸に温暖化の影響が仮にあったとしても、氷が増えたり、あるいは減ったりしてはいない、安定している。氷の温度がわずかに高くなる、たとえば氷点下40度から氷点下30度の氷になるだけだ。ブログ子はそう思っていた。

 ましてや、南極大陸は人間活動の盛んな大陸からは隔絶されている。だから、温暖化が実際に起こっていると仮定して、その原因のほとんどが、これまた仮に人為的なものであったとしても、そして大気大循環を考慮したとしても、北極に比べたら、まあその影響、つまり気温や海水温の変化、さらには海面の上昇あるいは下降うんぬんは南極圏では無視していいだろう、とたかをくくっていた。

 ● 南極大陸自身が融けていく

 ところが、温暖化という問題は、仮に起こっているとしても、そんな単純なものではないということを思い知った。 

 温暖化がすすむと、南極大陸の上に乗っかっている氷がとけるのではなくて、突然、南極大陸自身が崩壊する危険がある。

 つまり、氷を乗せたまま南極大陸自身が崩壊する、カタストロフィーが次々におきる可能性が出てきた

というのだ。こうなると、バランスを崩した南極大陸の氷が南極海にいっきょに入り込み、みるみる海水面は数10センチ高くなることも考えられる。

 先日夜のNHK「クローズアップ現代」で放送された

 南極大陸が融ける? 温暖化調査最新報告

というのがそれである。国立極地研究所の藤井理行前所長がそのメカニズムを説明していた。

問題はそのメカニズム。番組によると、南極大陸に降り積もった氷をすべて取り除いた陸地の形を調べたら、昭和基地のあたりは海面よりは上にあるが、なんと、大陸の半分くらいは今の海水面より下にあることが最新の極地探査で明らかになった。その様子を地図上に表したのが写真上(= 1月29日NHK「クローズアップ現代」の画面より。うす緑の部分が海面下の大陸)。

 Image646 海水面が少し上昇すると、海面下のところに海水が入り込み、バランスが崩れる。その結果、その上に乗っている棚氷がいっきょに不安定になり、分裂、崩壊するというのだ。その実際の様子をとらえたNASA衛星写真が下の写真(同番組の画面より)。

 つまり、氷がとけるうんぬんというよりも、底に水が入り込むことのできる南極大陸の地下構造のほうが問題なのだ。

 全地球の氷の約9割を占める南極の氷の温度は、氷点下40度。不安定化で、海に流れ出た氷山の分だけ海水面が上がる。

 このメカニズムだと、地球が温暖化すると、南極海の海水温度は、あるタイムスケールの間は必然的に低下する

だろう。恐ろしいのは、海水面が上がると、南極大陸は、その分支えがなくなり、さらに力学的な不安定化を招くという

 負の連鎖(正のフィードバック)

が働くことだ。この不安定化の連鎖で、さらに、氷山が増加し海面が上がる。それがまたますます大陸の不安定化を進行させる。最終的には南極大陸は〝海没〟し、ほとんどなくなる。

 この間、海水温度は氷で冷やされるので低下する。しかし、海面上昇は物理的な不安定化が原因なのでとまらない。というのは、熱力学的には、海水温が下がると、海水は縮み、蒸発は少なくなるが、定性的には、それらが互いに相殺する。その結果、先ほどの海面上昇はとまらないことが予想される。

 つまり、地球が温暖化すると、南極海の海水温はむしろ低下する。

 結論的に言えば、

 温暖化問題は、線形的でストレートな話ではなく、非線形の問題なのである。つまり、わかりやすく言えば、原因と結果の因果関係の間に、さまざまな要因が入り込んでいて、意外な結果がでるというたとえ、

 風が吹けば、桶屋が儲かる

式の非線形問題なのだ。わずかな原因の違いが、結果に大きな違いを生む。

  ● もう一つの解答

 ところが、ところがである。

 上に述べた、仮に温暖化が進行しているとした場合、確かに、

 この30年、衛星データによると、北極海の海氷が減っている。これはうなずける。

 しかし、なのに、同じ衛星データを見ると、南極海では氷の量が増加している。

 それは、上の南極大陸の地下構造によって説明できるといいたいのだが、別の観点から

 このパラドックスの理由は何か

という疑問に取り組んだ最近の研究がある。

 「温暖化でも南極の氷がとけない理由」( 「Proceedings of the National Academy of Science」誌オンライン版2010年8月16日号、米ジョージア工科大学研究チーム)

である。そのポイントは、

 海面下の深層海流

にあるというのだ。

 こうだ。温暖化がすすむと、海水面からの蒸発が盛んになり、南極海の上空から降りそそぐ雨の量が増える。すると海水面近くの塩分濃度は小さくなる。海水密度が小さくなるので、これまでのように、なかなか沈み込まない。すると、比較的に温かい深層水が海面に出てこれない。だから、海面の氷は以前よりもとけにくくなり、結果として増える一方となる。

 ここでも、温暖化すると、南極の海水表面温度はかえって下がる

というのだ。かき混ぜ効果がきかなくなるから、海氷が増加するというのが、その理由らしい。

 この説によると、

 地球温暖化による南極海の海氷の増減は、世界規模で起きている深層海流の沈み込みの有無にまで関係している

ことになる。北極海と南極海の増減の違いは、深層海流の沈み込みがあるかないかの違いによるというのが真実だというわけだ。

 ● 予見のできる科学ジャーナリズムの試金石

 以上の二つのどちらが正しい解釈なのか。それとも、二つとも的外れなのか。

 その判定は、それぞれのモデルで、どの程度、新しい現象を予測できるか

にかかっている。それが双方ともにできていない。

 現象にモデルを合わすことはできるが、予測ができない。これが

 地球温暖化が欺瞞の政治神話、あるいは科学的な警告

の間でゆれている原因だろう。

 その理由は何だろう。

 それは、次回の

 北極圏の場合

の後に、詳しく紹介したい。

 が、結論を先に言えば、

 温暖化の物理現象において、原因と結果の因果関係は確かにあるのだが、それの間が互いに強くカップリングしているからだ。だから、ある原因はある結果を生むが、その結果がまた別の原因となるというふうな構造になっていて、つまり要素還元論的に原因と結果を明確に分離できない。したがって、モデル化しても、それは非線形のシミュレーションであり、温暖化現象は、いわゆる

 複雑系

を扱うことに相当する。だから、似たような原因であっても、意外な結果が出てきてもおかしくない。わかりやすい例でたとえれば、風が吹けば、桶屋が儲かる式の現象であり、

 思考を変動させれば、つまり、

 因果関係が明確に分離できないことに目をつければ、モデルを使った温暖化真実論は

 欺瞞であり、神話

となる。温暖化懐疑論である。

 一方、そもそも分離できない因果関係をあえて単純化した「好都合な」モデルを構築する科学者たちにとっては、

 温暖化は科学的な警告

と胸を張る。ただ、そこには、現象を記述するモデルは構築できても、単純化で現象の本質的なメカニズムが抜け落ち、決定的に大事な予測を確実な根拠を示してはできないという欠陥がある。それでも温暖化真実論者にとっては、懐疑論者というのは温暖化を「不都合な真実」として、政治的な立場から隠蔽しようとしているようにみえる。

 好都合な真実も、不都合な真実も、どちらでもつくりだすことができるというのが、温暖化現象の解明の難しさなのだ。

 ここで注意すべきは、この困難は、計算機の能力が向上すれば、こんな事態は改善されるだろうというのはまちがいであるという点だ。

 現象の予測は、本質的に不可能

なのだ。ここが非線形現象の複雑系と、普通の線形現象の根本的な相違なのだ。

 古典物理学の範疇なのだから、現象の決定性は当然あるが、それを人知ではあらかじめ知ることはできない。ましてや予測などできない

 ここが大事な点だ。

 ここに、複雑系の真実を追い、政治と科学のあり方を提示するに当たって、

 予見のできる科学ジャーナリズム構築の試金石

がある。

 つまり、疑わしきは予防するという原則

の確立だ。何が原因であるか、どんな結果が現れるか、わからない場合、重大な結果が出てくる可能性もある場合、予防する原則、つまり疑わしきは国民の利益になる行動をとる。このことは、本質的に重要になる。

|

« 新聞小説「愛ふたたび」の地方紙による検閲  | トップページ | 科学ソムリエの心得  タングラムづくり »

ニュース」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/56654115

この記事へのトラックバック一覧です: 「不都合な真実」と「好都合な真実」の間          - 温暖化は欺瞞の政治神話か、それとも科学的な警告か:

« 新聞小説「愛ふたたび」の地方紙による検閲  | トップページ | 科学ソムリエの心得  タングラムづくり »