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浜名湖の生き物が持続できる水環境づくり       - 研究者の会

Image1351_3 (2012.12.11)  このブログが機縁で、

 「浜名湖をめぐる研究者の会」

という会合に先日参加した。

  東大農学部大学院の付属水産実験所(浜松市西区弁天島)が毎年1回、今ごろ開いているごく気軽なワークショップ(WS)で、今年で21回目らしい。全国からの研究者だけでなく、会場には地元高校生、静岡大学の大学院生なども成果をポスターに張り出し参加している。総合討論では地元漁師が発言をリードしたり、市会議員あり、県庁の技師あり、と多様な分野の人たちが浜名湖やその周辺の環境について、日ごろの成果をまとめたパネルを前に熱っぽく語り合っていた( 写真上 )。

 この実験所は、浜名湖の海水を使ったトラフグの研究が有名で、ここの鈴木譲教授がこの10年手がけている( 写真 )。通常のオスのトラフグは「XY」の性染色体を持つのに対し、遺伝子解析と何世代もの育種で「YY」の染色体を持つ、いわば

 「超」オス

をつくりだすのに成功した。いわゆる

 オス、メスの産み分け技術

がトラフグで確立した。こうした技術を使うと、生まれてくるフグがすべてオス、あるいはすべてメスという産み分けができるので養殖への利用も考えられているという。

 Dsc00465 ブログ子も、そのYYの「超」オスの2010年ものと、まだ少し小さい2012年ものが、実験水槽のなかで元気に育っている様子を見せてもらった。WSのポスターセッションでは、この産み分けの仕組みを鈴木さん自身が解説してくれていた( 写真右と下の2枚 )。

 このほか、浜名湖のウナギの生態についての特任研究員の成果など、地域研究にも力を入れていた。どうやら、ウナギは、11月ごろに銀化という体制を整え、南のマリアナ海溝めがけて南下していくらしい。その、よし行くぞ、とウナギが決心するのは、ある特殊なホルモンが関係しているらしいことも突き止められたという。

 ブログ子も、「科学・技術と社会」という見地から、ポスターセッションで参加した。内容は、このブログの

 http://lowell.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-18f9.html 

と同じ、

 「論説 あなたは、自分の仕事を社会と結びつけて語れますか」

というもの( 写真中 )。

 Image1356 地域と研究者とジャーナリズムと - 非線形型社会を考える

というサブタイトルも付けた。

 こうした観点から、会場のポスターを見て回った。

 浜名湖北部の「最終処分場計画の危険性」(奥山地区環境保全対策協議会)や「浜名湖地域の6次産業- 県内事例から見た浜名湖の可能性」(静岡県経済産業部水産振興課)の発表が目を引いた。「いのちを守る森の防潮堤をつくろう」(NPO法人縄文楽校)では、今回の大震災の教訓を生かした取り組みである。

 見て回って、ふと、づいた気づいた。この会合というのは、研究者それぞれはバラバラに研究しているようにみえるが、つまるところ

 浜名湖の生き物が持続できる水の環境づくり

ということを考える会ではないのかという点だ。ポスターセッションの佐鳴湖のヤマトシジミ再生の取り組み(静岡県立浜松北高校)などはその典型だ。シジミを再生させるには、上流河川からの、いわゆる「押し水」が必要なのだ。単に水を浄化するだけでは再生にはなかなかつながらないことがわかってきたという。

 そこで、去年の14件のポスターセッション予稿集にも目を通したが、大きなくくりとしては、持続可能な水環境づくりと関連しているテーマが多い。

 持続できる水環境づくりは、また、浜名湖の「豊かさ」とは何かを、その変遷を通じて問うことでもある。

 こうした枠組みで、これまでの講演要旨一つ一つを時系列をいったんはなれて、たとえば、フィールドデータなどの発見的なまとめ方、KJ法で分類、整理して総合的に分析する。きっと

 海域、浜名湖の喫水域+淡水の佐鳴湖、河川流域という水循環の今後の展望

が見えてくるのではないかと思ったりもした。KJ法というのは、東工大教授(文化人類学者)だった川喜田二郎さんが開発した野外調査のためのデータの発見的なとりまとめ技法である。

 Image1345 主催者側の現時点でのブレーンストーミングも取り入れて、20年間分の講演要旨をこの方法でまとめれば、これまで関係ないと思っていた取り組みが時間を飛び越えて、思わぬところでつながる、あるいは死角となっていた課題も浮かび上がってくるのではないか。

 その結果、きっと、発見的な地域研究にまとまる。また、そうすれば、生き物の水環境の展望を開く出口戦略も、ポスターセッションでも展示されていた「浜名湖の可能性」(木南竜平)よりも、さらに具体的に見えてくるのではないか。

 一言で言えば、浜名湖をめぐる生き物が持続できる水環境の構築というこの20年間を俯瞰する発見的なまとめ報告がほしい。

 そんな、こんなで、いろいろ考えさせてくれたワークショップ会合だったように思う。

 補遺

 Image1381jst このまとめ提案は、たとえば、国立環境研究所が中心になり、さまざまな研究者が協力し現場重視で行っている

 「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」(「JSTnews」2012年12月号に概要説明 = 写真左)

の生物版であり、フィールドも浜名湖やその周辺に絞ってより具体的にアプローチするものにあたるであろう。

 別の言い方をすれば、

 社会のための科学・技術という見地に立つ

 科学技術公共政策における

 「アウトリーチ活動」の推進

ということになろう。異なる専門分野が分野をこえて協力し、よりよい社会技術を開発しようという試みである。

  補遺2   2012.12.14

   今回の会合には、これまで謎だったニホンウナギの産卵場所を特定したことで数年前話題になった

 塚本勝巳教授( 東大大気海洋学研究所)

も参加していた。

 塚本さんに、話をうかがったら、特定は偶然ではなく、

 成長しながら回遊するウナギの回遊ルートは海水の潮目ときっと密接に関係があるとの仮説を立てたらしい。そこから、ウナギの仔魚(しぎょ。レプトセファルス)を手繰り寄せ、ついに、

 ニホンウナギの天然魚卵

をグアムなどのあるマリアナ諸島の西方深海で発見した。つまり、日本人におなじみのニホンウナギの産卵場所が、世界で初めて特定されたというわけだ。2009年5月のことだった。このとき、塚本さんの40年にわたる執念が実ったという。

  201207242055931n_3 そんな挑戦については、塚本さんの近著

 『ウナギ大回遊の謎』( PHPサイエンス・ワールド新書。写真右)

に詳しい。浜名湖にやってくるニホンウナギは、そのマリアナ諸島の深海の産卵場所からやってくるというわけだ。そして、また、そこに帰ってゆく。進化とも関係しているらしい大回遊といっていいだろう。

 注記 参考文献

 浜名湖の動的な水環境については、

 『浜名湖水のふしぎ 内湾の自然と海水の動き』(松田義弘、静岡新聞社、1999年)

が名著だろう。著者の30年近い研究の成果を、23のテーマと問題意識に分けて、丁寧に、しかも、グラフや図でわかりやすく書かれている。

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