« 論説 = 地域と研究者とジャーナリズムと        ------「左側のない男」からの報告 | トップページ | 肉に見せられるワケ 朝日新聞「GLOBE」 »

ボジョレー・ヌーボーと現代宇宙論

(2012.11.17)   たまには、こんな優雅な飲み方もいいのではないか、と自分決めにして、先日の新酒ワインの解禁日に買ってきた

 新酒ワイン、ミッシェル・ジャック

というのを飲んでいる。このワイン、初めての日本上陸らしい。静かな夜のムードにこの芳醇さが似合う。写真のグラスは、金沢在住時代に手に入れた陶器製の九谷焼で、ブログ子のお気に入り。

 Image12792 こんなときには、衆院解散のドタバタなど忘れて、悠然と、宇宙の起源という浮世離れした現代の最先端科学本でも読んでみるのもいいのではという気分になった。それが、写真の

 『宇宙が始まるとき』(ジョン・バロー、草思社、1996年。原著は1994年)

である。15年ほど前に買った本だが、高名なイギリス人の宇宙論学者の手になるだけに面白い。なんで、今まで最後まで読まなかったのか、悔やまれた。

 なにしろ、宇宙がビッグバンで始まる前には、猛烈な勢いで膨張したというインフレーション宇宙があったこと、さらにその前には、驚いたことに、1秒のごくごく、そのまた、ごく、ごく短い時間だけだが、量子宇宙があった。このことを現代の相対性理論や量子論が示唆していることを、とてもわかりやすく最後のほうで詳しく解説していた。

 しかも、そのごく、ごく、ごく、ごく、ごく短い時間の出来事こそ、現在の宇宙の大規模構造、たとえば、銀河団のつながりなどを決めたのではないかというのだから、すごい。

 しかもそのことを示す、観測的な証拠、たとえば観測衛星がとらえたCOBEデータなどがあるというのだから、二度びっくりする。机上の空理空論ではない。現代の宇宙論は、もはや机上の空論になりがちな哲学ではない。これがブログ子をおどろかせたもう一つの理由。1800円もした本だが、その値打ちは確かにある。

 そんなインフレーション理論を30年前に提唱し、現在、世界的に定説化している。この理論を初めて示した宇宙論学者、佐藤勝彦さんが、今、NHKのEテレで、毎週水曜日に

 相対性理論

について、解説している。時間というのは絶対ではない。時間は、つまり、相対的なのだという。1テーマ4回で放送する「100分 de 名著」シリーズだが、これは理系初の登場らしい。

 Image1298 京都での大学院生時代から少しも変わらぬ、そして飾らぬ雰囲気でわかりやすく解説していて、とても好感を持った。

 ブログ子は、ワインを飲みながら拝見した。先ほどの宇宙論を読んでいたので、佐藤さんが確立したインフレーション理論で、

 長生きすれば、いずれ、そして、きっと

 ノーベル物理学賞が取れる

だろうと確信した。これは、酔っていたせいでは、もちろんない。

 そのときには、もう一度、佐藤さんのために、いや、日本の科学のために、新酒ワインで祝ってみたい。

 そんな悠然たる夜だった-。

  追記1

  BSプレミアム コズミックフロント「素粒子が解き明かす宇宙の始まり(の1秒間)」によると、

 何が、ガモフの言う「宇宙のビッグバン」を引き起こしたのかについて、佐藤さんが取り組むきっかけになったのが、写真下に写っている

 S.ワインバーグの論文(1967年) A MODEL OF LEPTONS

だったという( 同テレビ番組より )。

 Dsc00342 佐藤さんが大学院に入ったころに発表された論文で、内容は、弱い相互作用と電磁相互作用を統一する電弱統一理論。後にワインバーグ=サラム理論と言われるようになるこの理論最初の有名な論文は、

 「自発的対称性の破れの存在」や

 「ヒッグス粒子の存在」

を理論的に示すなど、その後の物理学に大きな影響を与えた。当時、ワインバーグ氏はマサチュセッツ工科大教授で、この理論で1979年にノーベル物理学賞をサラム氏とともに授与される。

 この統一理論への最初の論文が、インフレーション理論への道を切り開くことにもなったということを、ブログ子はこの番組の佐藤さんの話を聞いて初めて知った。

 素粒子物理学の統一理論研究が、宇宙ビッグバンの起源を探ることにつながる。このことを具体的に示したのが、佐藤さんにとって出合いの論文、つまり、ワインバーグの1967年の論文であり、佐藤さんが1981年に発表した論文(真空の第1次相転移と膨張宇宙)なのだ。

  追記2 

 このコラムを書き終えて、BSプレミアムを見ていたら、

 米映画「マトリックス」(1999年公開)

というのを放送していた。この世の中は、実は、いわゆる仮想現実(バーチャル・リアリティ)で、本物ではない。コンヒューターのデジタル技術でつくられたニセの世界という奇抜な逆転の発想でストーリーが進む。真の世界の救世主というのも、映画の最後には登場する(実は、それは主役のネオ(俳優= キアノ・リーブス)という話)。

 この映画を見終わって、ふと思った。

 マトリックスというのは、もともとは英語圏では「そこから何かを生み出す背景あるいは基盤、母体」というぐらいの意味らしい。この背景こそ、真の世界という意味だろう。

 とすると、この話を先ほどの宇宙論に当てはめると、

 この量子宇宙を生み出した背景、つまり、「虚数」時間から量子効果のトンネル効果で、「虚数」時間からリアルな時間の宇宙が生まれた背景というのは、マトリックスから生まれたことになる。

 背景の奥は、虚数の時間が流れる真の実在ということになる。

 そこには、時間も空間も、真空のエネルギーもない。おそるべき「無」の世界。その虚数時間の世界から、つまり真の実在の世界から、私たちのこの宇宙が始まった。そして、ごく、ごく、ごく小さい量子宇宙が誕生した。しかも、その宇宙は仮の、そう、仮想の現実なのだ。この世界は。

 真の世界は、そう、マトリックス、背景。

 その背景の奥で、虚数の時間が流れる場所で、神は、静かに、ワイングラスを傾けている。そのワイングラスの中のワインに浮かぶ無数の泡。その中のたった一つがわれわれの住む宇宙のすべて。神がワイングラスで祝っているのは、きっと、その泡の中に人類がいることを見たからであろう。

 なんと雄大で、なんと悠然たる夜なのだろう。そう考えると、

 人生に乾杯 !

も悪くない気がしてきた。

 蛇足だが、神がこんなにもコンピュータ好きだったとは知らなかった。

|

« 論説 = 地域と研究者とジャーナリズムと        ------「左側のない男」からの報告 | トップページ | 肉に見せられるワケ 朝日新聞「GLOBE」 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/56132873

この記事へのトラックバック一覧です: ボジョレー・ヌーボーと現代宇宙論:

« 論説 = 地域と研究者とジャーナリズムと        ------「左側のない男」からの報告 | トップページ | 肉に見せられるワケ 朝日新聞「GLOBE」 »