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画龍点睛を欠く中日新聞            原発放射能拡散予測 報道する側の問題点

(2012.10.26)  こういう記事を

 画龍点睛を欠く

というのだろう。ものごとの眼目となるところ、つまり大事なことが欠けていたという意味だが、10月25日付中日新聞朝刊は、原子力規制委員会が公表した

 防災対策が必要な30キロ圏について、いくつかの原発の放射能拡散のシミュレーション結果

について、1面はもちろん、数ページにわたって大々的に報道している。なのに、読者が最も知りたい大事なところが新聞には抜けていた。読者が一番知りたいのは、その結果もさることながら、どのくらいの精度でちゃんとシミュレーションできているのかという点なのに、そして、規制委員会はその点のデータをそれなりに公表しているのに、その意味合いをきちんと読者に伝えていない( 注記、注記2 )。

 Image1122_3   規制委員会は、それぞれの原発について、福島第一原発事故と同規模ケースと、その発電所のすべての原発が事故を起こしたと想定した、いわば最悪シナリオの2つのケースで、気象条件などもいろいろ考慮して、シミュレーションし、マップにまとめている。

  新聞には多数のその図が載っているのだが、その読みずらいのは別にしても、地元の浜岡原発を1面に掲載し、詳しく記事にしているのはいい。しかし、

 マップは目安、限界も

と1面中央に見出しを打っていながら、その分析があまりにお粗末。

 読者が知りたい精度に関するデータというのは、事故を起こした福島第一原発の拡散のシミュレーションの結果だ。この結果を実際に起きた事故の拡散マップと比較すれば、

 シミュレーションの精度が、定量的には限界があるとしても、少なくとも定性的には読者は、ほかの原発についても一定の精度があると説得力を持って読んだはずだ。

 ところが、この比較図が中日新聞にはない。おそらく、編集段階で、

 もう福島第一のすべての原発は廃炉であり、シミュレーションの結果を掲載するのは無意味

とそこつに早合点したのだろう。これでは、中日新聞読者はマップをどの程度信頼していいのか、さっぱりわからない。中日新聞が大きく報道したのは見識であり、それはいい。けれども、どの程度の精度かについて、きちんとした分析記事がないのは、画龍点睛を欠くどころではない、ひょっとすると大チョンボかもしれないと思う。

 このことと、天下のブロック紙、中日新聞には、組織として科学部という部署がないことと無関係ではないような気がする( 姉妹紙の東京新聞には科学部はある )。

 これに対し、同日付朝日新聞は、業界では比較的に科学に強いだけあって抜け目なく、この比較をし、

 福島第一の拡散予測、実際と類似

として、第2面で分析記事を載せている( 写真 )。単に中日のように「限界」とするような乱暴なことはせず、

 類似と、一定の限界

とをきちんと仕分けしており、訴求力がある。

 これを逆に言えば、規制委員会は、まず最初に事故を起こしたこの福島第一原発で、シミュレーションの有効性をチェックしているのだ。そして、「おおむね妥当」(規制委員会委員長)となるように、

 シミュレーションのプログラムのパラメーターを設定している

というのが、委員会は認めたくはないだろうが、実態だろう。この意味で言えば、定量的には一定の限界は( 当たり前だが )あるものの、定性的には妥当なのは当然なのだ。定量的にも定性的にも限界があるとなれば、たとえ地元自治体の今後の防災計画立案の参考資料用予測といえども、混乱を招くだけであり、公表などするはずもない。

 こうした突っ込んだ指摘は朝日新聞にも掲載されていない。日本の科学ジャーナリズムの批判精神のなさ、ひ弱さ、行政ないし学界依存体質をはしなくも露呈したといえる。

 もう一つ、この点で痛感したのは、

 なぜ7日間に積算線量100mSvなのか

という予測の前提ともいえる問題点について、突っ込んだ分析と批判がほとんど、どの新聞にもないことだ。あたかもそれを追認、追随しているかのような姿勢は、ジャーナリズムの怠慢であろう。

 この許容量は、緊急避難用の設定とはいえ、異様に高い安全マージンであろう。この指摘がない。あまつさえ、そのことでこれ以下なら安全という誤解が社会に浸透する風潮さえ出始めている。

 7日間というのは、放射源の放射性ヨウ素の半減期であり、これをすぎると放射性ヨウ素からのガンマ線(電磁波)が急速に弱まることを受けたものなのだ。しかし、放射性ストロンチウムやセシュウムなど降り積もった残留放射能は除染しない限り、いつまでも、少なくとも数十年は残る。また、ガンマ線以外の粒子線(アルファ線、ベータ線、中性子線)については、どの新聞にも問題点としてすら挙げられておらず、死角になっている。

 ブログ子の試算では、以前にもこのブログで紹介したが、チェルノブイリ事故の疫学的な調査や医学的な調査を元にして言えば、人になんとか、がんなどの健康被害が生じない限界は、つまり

 年間の許容量3mSv

であろう。これでも、進化の過程で人類が身につけてきた耐性値、年間1mSvの3倍もあることに注目したい。

  積算にしろ、年間当たりにしろ100mSvという数字は、広島・長崎被爆についての疫学的なデータからはじき出したものであり、国際放射線防護委員会などが認めるように、確実に健康に影響が出る量。つまり、科学的に確かめられた安全ラインではなく、危険ラインなのだ。安全ラインと危険ラインの間には、グレーゾーンがあることを忘れている。というのは、100mSv以下では安全という疫学的な相関データはないからだ。しかもそのデータはガンマ線という電磁波のみの影響なのだ。

 いずれにしても、人生100年として、年許容量1mSvだから、積算で100mSvまでなら短期で浴びても大丈夫だというような乱暴な議論には、ブログ子は加担したくはない。それは線形理論の愚といえるだろう。つまり、結果が同じだとは言えない。

 そう考えると、100mSvについては、グレーゾーンを考え安全マージンを1桁勘案して、

 100mSv × 10分の1=10mSv

というのが、積算にしろ、年間にしろ、とりあえずの概算の安全ラインだろう。

 これに対し、現実の安全ラインは、おそらくそれよりも低い、先ほどの年間3mSvであろう。人類の進化とチェルノブイリ事故はそのことを警告していると考えたい。

  注記

 規制委員会が配布した公表資料=予測試算の妥当性の検証については、この配布資料の最後のほうに「参考」として、出ている。具体的に言えば、

 http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/data/0007_04.pdf 

である。実態を反映しているかどうか、疑問もあるが、ともかくも信頼度の「%表示」までしている。委員長の言う予測結果は「おおむね妥当」とした根拠がここにある。

  注記2

  念のため、前日24日付中日夕刊(東海本社版)をチェックしてみたが、ここでも、この拡散予測を、どういうわけか、1面、3面で図入りで詳しく報道している。力が入っているのだ。

 この3面の記事では「簡易版、精度に限界」と見出しをつけ、最後の最後に、わずか7行で、規制委員会が予測と実際とを比較し、

 「ほぼ同様の結果だったとしている」

として事実のみを伝えている。これをどう評価するか、その点には踏み込まなかったが、かろうじてかすってはいる。

  補遺

 ここでは、中日新聞のみをあれこれあげつらったが、実は、ほかの25日付新聞朝刊も似たりよったりなのだ。

 たとえば、

 毎日新聞は、3面「クローズアップ」の見出しで

 「条件単純化 実測と異なる公算」

とはしているものの、福島第一原発について実測と予測の比較はしていない。図もなく、全体的に地味なのが気になった。

 読売新聞は、1面準トップと3面「スキャナー」で記事化している。しかし、朝日新聞のようなこの比較はまったくしていない。ただし、年間にしろ、積算にしろ「100mSv」の意味合いについて、解説していたのは親切だった。日経新聞も、比較についての言及はない。

 それでは、現在、東海地震の震源域にあることから最も危険な原発といわれている浜岡原発を地元にかかえる地元紙、静岡新聞はどうか。

 第2面のしかも、準トップ扱い。図もないというそっけない扱い。だから、比較について言及がないのも無理はない。

 ただ、どういうわけか、静岡新聞は、拡散予測について社説には取り上げていた。

 主張となる見出しは

 「より関心高める契機に」

としていて、ごく常識的に予測を原発防災への一助にしてほしいと訴えていた。

 産経新聞も、

 「現実に即した防災計画を」

との社説を掲げている。冒頭、拡散予測の公表は「誤解される可能性をはらんでいるのではないか」との危惧を述べている。そういう割には、他紙同様、記事には福島第一原発での実測と予測との比較検討はしていない。社説では、単に予測は

 「精度や信頼性には、さまざまな限界がある」

としているだけだ。具体的にどういう限界なのか。その点について突っ込んだ考察はない。失礼ながら、いかにもおざなりな社説の感は否めなかった。

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