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急ぐべきは「使用済み」の安全保管           浜岡原発差し止め訴訟の原告代表は訴える

(2012.09.12)  こじんまりとした勉強会だったが、講師の白鳥良香(よしか)さん、80歳の意気軒昂が伝わってくる会合(浜松市佐鳴台)だった。白鳥さんは、元静岡県議で、今は浜岡原発運転差し止め訴訟の原告代表を引き受けている。

 中部電力を相手に、浜岡原発の運転差し止めの仮処分を静岡地裁に申し立てて10年、福島原発事故をはさんで、今、東京高裁で控訴審(仮処分と本訴)の最中である。

  今回のような大惨事が浜岡、いや静岡県でも、近い将来、きっと起きる。いまのうちに手を打たなければ、ふるさとは大変なことになる。そう確信した白鳥さんの思いを、提訴した10年前、いや2年前ですら、漠然とした不安はあったかもしれないが、静岡県民の多くは容易には信じなかっただろう。見たくないものを人は簡単には信じたくないからだ。それが今や、多くの人の危機感の中で共有されようとしている。

 そんな白鳥さんは、原子炉の運転そのもののをできるだけ早く止めることが大事だが、今、急ぐべきは、

 膨大な量の「使用済み核燃料棒」の安全な保管

だと訴える。これらは、原子炉から役割を終え、取り出されて、原子炉建屋内のプールの水に浸して貯蔵されている。

 では、なぜ、津波対策より、使用済み核燃料の安全保管を優先すべきなのか。その理由はこうだ-。

 Image972 それは、1号機から5号機まで合計で6500体以上もの燃料棒が原発の安全対策のいわば「死角」になっているからだ。このことが大震災であらわになった。

 これがもし、震度7級の巨大南海トラフ地震により、建屋のひとつでも倒壊し、燃料棒が水面から顔を出すような事態になれば、大変なことになるからだ。燃料棒にへばりついている崩壊熱を出す放射性物質が大気に直接まきちらされる。そうなれば原発周辺にはもはや人は近づけない。原発敷地内からの総員退避である。そうなれば、原子炉は制御不能となり、静岡県は破滅的な事態になる。

 これは仮定の話ではない。今回の福島原発事故の4号機であわやという瀬戸際まで行った。

 福島原発の民間事故調による検証報告には、政府の原子力委員長作成の、いわゆる首都圏3000万人避難の最悪シナリオ全文が公表されている。作成は、事故発生から2週間後。

 この原発事故で、アメリカの原子力規制庁がもっとも恐れたのは、運転中の原子炉のメルトダウンでもなんでもなく、地震発生時には定期点検で停止中だった4号炉の使用済み核燃料だった。これが地震あるいは余震によってプール表面に顔をのぞかせるのではないか。余震や本震で、原子炉の真上にあるプールの底が抜けて燃料棒が大気中にむきだしになる。あるいは、冷却水が注入できずプールの水が燃料棒からの崩壊熱で蒸発し、これまた外界にむき出しになることを恐れたのである。

 このシナリオの報告を受けたからこそ、当時の菅直人首相は、すべての浜岡原発の一時停止を中部電力に強く要請する決断をしたのだろう。

 国の最悪被害予測では、南海トラフ地震では原発のある御前崎海岸には約5分で19メートルの高さの津波が襲う。だが、これほど高い壁をつくっても、敷地内の軟弱な地盤ではとうてい防ぐことができない。壁自体がそもそも津波に耐えられないというのだ。そんな工事はそもそも無駄だというのだ。

 それでも、これまで防潮壁(堤)のなかった浜岡原発では、現在、高さ18メートルの防潮壁の建設を急いでいる。しかし、白鳥さんによると、地盤の軟弱な浜岡では津波が来る前に、地震による敷地内の不等隆起で建物間の配管などが破壊されるだろうという。

 この予測はあながち空想ではない。具体的に言えばこうだ。

 福島原発事故では、震源域は沖合い約100キロ。これに対し、南海トラフでは浜岡原発から沖合い、10キロ程度。福島原発では、津波は地震発生から3、40分後に海岸にやってきた。これに対し、浜岡では、数分後には津波が押し寄せてくる。それほど震源は近い。

 浜岡原発が地球の重力、つまり980ガル以上の約1000ガルの振動加速度に耐えられるというが、これだけ震源域に原発立地が近いと、南海トラフ地震では、1000ガルをはるかに超える振動加速度となるだろう( 注記 )。そうなると、稼動中の原発の場合、プラント損傷だけでなく、本体の原子炉がきちんと緊急停止するかどうかすら、不安がある。

 そもそも浜岡原発の地盤に問題があることは、2009年8月の駿河湾地震の地震でも判明している。M6.5と、今回の大地震の数百分の一の規模にすぎないこの地震ですら、もっとも海側に立地する5号機がほかの号機にくらべて異常に高い振動加速度があった。地下の構造が一様ではなく、軟弱なところもあることを示唆している。このことを考えれば、敷地内の不均一な隆起や、陥没もありえる。そうなれば配管は地震でズタズタになるというのも、あながち否定できないだろう。白鳥さんの危惧はうなずける。

 事実、国会事故調の報告書によると、福島原発事故では、少なくとも1号機では津波が来る前に配管破断など重要部分のプラント損傷があった可能性は否定できないとしている。配管損傷が、原子炉内の主蒸気逃しや格納容器から外界への、いわゆるベントができなくなるという重大な事態を引き起こしかねないのだ。

 地震発生後一定の時間がたてば、こうした不安は増す。が、しかし、少なくとも発生直後においては、使用済み燃料棒を貯蔵するプールが損壊し、総員退避で原子炉のコントロールが不能になることを防ぐことが先決である。そうでないと作業自体ができなくなる。地震発生直後の原発には、使用済み核燃料施設という「死角」がある。これが今回の原発事故から学ぶべき重大な教訓である。

 だから、浜岡原発の場合、津波よりも、使用済み核燃料の安全保管対策のほうに、より緊急性がある。具体的には、たとえば敷地内の高台に空冷式などの乾式で貯蔵する方式が考えられる。

 ところが、これに電力会社が容易には踏み切れない事情がある。それというのも使用済み核燃料の安全対策を強化することは、電力会社自ら、原発の地震に対する安全性に不安を持っていることを認めることになるからだ。だから電力会社としては「使用済み」うんぬんの話は切り出せない。認めれば事実上の廃炉になるからだ。電力会社はこれをもっとも恐れている。

 しかし、こんなことで、県民の命をもてあそぶようなことがあってはならない。

 最後に、浜岡原発についての一連の裁判については、弁護団長、河合弘之弁護士と、ノンフィクション作家、大下英治氏による

 『脱原発』(青志社、2011年6月、写真)

に詳しい。大震災直後にまとめたものだ。これを読むと、控訴審でも予断は許されないが、白鳥さんの執念が実る日は、そう遠い先ではないような気がした。

 また、浜岡原発訴訟以外の事情を知るには

 『原発訴訟』(岩波新書、海渡雄一、2011年11月。写真下)

が大変に参考になる。

  注記

 東日本大地震では、震源域が海岸からずいぶん離れていたにもかかわらず、

 内陸部の宮城県栗原市で震度7、強震計は約3000ガルの加速度を記録

した。

 付言。

 Photo_2 今年2月に県庁で、全交流電源喪失と原子炉のメルトダウンを想定した原発防災図上訓練が実施された。しかし、死角の使用済み核燃料の露出に伴う総員退避については、想定外だった。図上訓練とはいえ、実態が反映されていない空論的な演習といえる。改善を求めたい。

 また、防災の日にちなんだ先の訓練では静岡空港を使った訓練も行われたようだ。しかし浜岡原発から北北東20キロにある空港は、原発の風下にあり、放射能汚染の真っ只中。あるシュミレーションでは急性放射線障害がただちにあらわれる恐れもある。むしろ空港が閉鎖されたという想定こそが必要ではないか。好都合な想定にもとづく訓練は役に立たないばかりか、かえっていざというときに混乱する。

  補遺 

 静岡県内では、白鳥さんたちの取り組みとは別に、県内の弁護士らを原告として3号機から5号機の永久停止を求める

 浜岡原発廃炉訴訟

が、福島原発事故後の昨年10月から中部電力を相手取って静岡地裁で審理されている。3号機から5号機の原発の廃炉と、1号機から5号機に貯蔵されている使用済み核燃料の安全保管を求めた民事裁判である。大震災後の新知見に基づいた本格的な裁判として注目したい。

  裁判は原告にとって険路が予想されるが、よもや裁判官も、仮処分のときの判決のように、他人事として受け流すことは、もはやできないのではないか。法曹界を右顧左眄するような判決態度は世論の指弾を受けると覚悟してほしい。差し止めなどは政治の仕事であり、司法になじまないというのでは職場放棄に等しい。後世の評価にたえる毅然とした判断を望みたい。

 それには、県内では比較的に関心の薄い浜松市民も裁判の行方に無関心であってはなるまい。

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コメント

こんばんは。浜ネット会員でブログ担当者です。
http://blogs.yahoo.co.jp/hamaokagenpatunet    「浜ネットブログ」で検索して下さい。
白鳥会長と一緒にそちらの学習会に参加したかったのですが、できませんでしたので、こちらをブログに掲載させていただきました。もしダメならお返事ください。すぐに削除いたします。よろしくお願いいたします。

投稿: 浜岡原発を考える静岡ネットワーク | 2012年10月 3日 (水) 20時11分

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