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神の〝一撃〟以前                「無」の前の痕跡に迫る観測的宇宙論 

(2012.08.24)  Image926 ブログ子は、若い頃、大学で宇宙天体物理学を専攻していたから、最近の理論的宇宙論や観測的宇宙論の目覚しい進展には目を見張っていた。絵空事ではなく、宇宙論がりっぱに実証を旨とする科学になってきている。理論と観測がうまくかみ合うようになってきたからだ。そんな折、このお盆に、ふと目に留まったのが、

 いったい宇宙とは何であるのか

という「アエラ」( 2012年8月13日・20日合併号 )の記事( 写真 )だった。引き出しにしまってあった、いわゆる「ヒマだね」だと最初は思った。ありきたりな事実を並べただけの陳腐な、例によって例の如くの記事であろうと嵩をくくって、気楽に読み始めた。しかし、初めてこの記事のすごさに驚いた。

 宇宙の誕生時の「神の一撃」から始まった超加速度的な膨張宇宙のときに、その後の宇宙の一切が決定されていたというあまりに衝撃的な内容もさることながら、そんな難しい内容のこの記事を書いたのが、

 「ライター 長谷川 煕(ひろし) 」

だったことだ。もう今では御歳80歳に近いのではないだろうか。確か、朝日新聞記者だった人で、国際関係や戦争調査報道を一貫して取材していた記者と記憶している。平記者で退職して、20年にはなるだろう。

 確かに、一文にいろいろなことを書き込み、読みづらい文章だが、宇宙論の最先端で今何が論じられているのか、何が焦点となっているのか鋭く突いた記事になっている。しかも、

 観測的宇宙論の世界的なキーパースン、小松英一郎氏(37歳)

に、二度も取材している。あいかわらずの「足でかせぐ記者」魂は少しも衰えていない。取材前に慣れない宇宙論について、現代宇宙科学の3本柱など詳細に勉強していたことも記事内容から伝わってくる。

 その取材と理解の上で

 「この世」は、ごく宇宙初期に決定済み、そもそも無とは何か、時間と空間の揺らぎなのか、時間も空間もない無から宇宙出現までを記述するは刺激的な試み、そのとき誰が、あるいは何が、「この世」の物理法則を設計したのか、さらには、超加速度的な宇宙膨張の「前」の痕跡が、NASAの精密宇宙背景輻射観測(NASAの精密WMAP)データから今後見つかるのではないか、また日本もこの観測的宇宙論に資する衛星が近く打ち上げられる

ことや結論を多くの専門家の取材をもとに、科学的な則(のり)をこえないことに注意しながら、つづっている。 長谷川氏は、取材の動機として、前文で

 「現代の宇宙物理学の最前線に、根本的な疑問を投げかけてみた」

と書いている。表題の「いったい宇宙とは何であるのか」という宇宙論の壮大な疑問だ。ここに同氏の並々ならぬ執筆意欲が伝わってくる。この疑問にかなった記事冒頭の写真( 馬場岳人撮影 =上記写真 )も見事である。

 そう考えると、これは単なる科学記事ではないことに気づく。科学的な事実を踏まえた上質な哲学が語られている。だからといって哲学者にありがちなこけおどしの、意味不明な思弁とはまったくことなる科学的な態度で終始論じている。取材先が行き届いているなど、さすがは老練な文系記者が書いた科学論考だと感服した。読者の理解を助ける脚注もおどろくほどしっかりしている。

 最後に、この記事を読んで、

 この「わが宇宙」だけが唯一ではないかもしれない

という印象を強く持った。遠くのほうほど加速度的に宇宙は膨張しているというこの10年の観測結果、あるいは最近の「ヒッグス粒子」発見などとあわせて考えると、

 今、コペルニクス以来500年ぶりに宇宙論の大転換期を迎えている

ような気がしてきた。

 この夏、一番の読み応えのある科学論考に出合ったことをうれしく思う。 

 補遺

 宇宙誕生のごくごく初期のこの超急速膨張については、この理論の提唱者、佐藤勝彦氏自身による近著

 『宇宙はこうして誕生した』(株式会社ウェッジ)

がある。

また、

 『宇宙96%の謎』(佐藤勝彦、実業之日本社。2003年)

もカラー解説図が豊富でわかりやすい。

 Dsc00320 補遺2 2012.11.09

  BSプレミアムの「コズミック・フロント」で、11月8日夜

 素粒子が解き明かす宇宙の始まり その1秒間

というのを放送していた。ビッグバンでヒッグス粒子などのクォークが創生されたが、その前は

 宇宙のインフレーション

だという話。真空のエネルギーが倍々ゲームで膨張し、ビッグバンに。

 ここまでは、ブログ子もなんとか理解したが、この番組は驚くべきことに、その前にまで言及していた。

 つまり、インフレーションの前は何だったかという問題。宇宙誕生の10のマイナス44乗秒以前のことを現代物理学がどうとらえているか、解明して見せていた。

 番組の話。

 宇宙は「無」から生まれる

という。時間も空間も存在せず、また真空のエネルギーすらも存在しない世界。そこは、時間と空間が生成したり、消滅したりしている「ゆらぎ」の世界だというのだ( 写真下= テレビ画面から )。

 番組では、米タフツ大学のアレキサンダー・ビレンキン教授が登場していた。こうした「無」の泡は、ワイングラスの中のシャンパンの泡のように、無数にあるらしいことがそれとなく言及されていた。ボトルにはなかった泡がグラスに注がれると泡がこつ然と現れるように、時空のゆらぎをすり抜けて、こつ然と「無」から時空が立ちあらわれてくるというのだ。

 そう言われると、なんだか、われわれの宇宙以外にも、無限の数の宇宙、泡があるような気もしてくる。

 ひょっとすると、そのシャンパンを悠然と飲んでいるのは、「神」かとも思う。とすると、神は何を祝っているのだろう。

 もしかすると、それは泡のなかに誕生した人類かもしれない。

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