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脱原発のコスト 1世帯平均年1万円を10年

(2012.08.07)  野田総理が、ついに脱原発、つまり、このまますべての原発を再稼働せず原発依存度ゼロにした場合、各電力会社や世帯、企業に与える影響など、幅広くその課題と問題点を検討するよう、経産相などの関係閣僚に指示した。

 このブログでは、脱原発の1世帯当たりコスト、

 つまり、電力会社に支払う電気料金の負担増と、所得税相当の負担増

を具体的に、弾き出してみた。ブログ子は、現在浜松市に暮らしているので、中部電力から毎月送られてくる

 電気ご使用量のお知らせ

の「電気料金」および、中部電力がこの4月に公表した

 平成23年度( 昨年4月から今年3月まで ) の連結決算報告

をもとに算定した。中電は、この一年、すべての浜岡原発を停止した。このため、報告によると、原発から火力発電に切り替えたことに伴う燃料価格の上昇分は604億円であった。このことに注目する。

 詳しく述べる前に、その結論を先に言えば、

 脱原発コストは、依存度ゼロの態勢が整うのに10年かかるとして、その間、標準的な世帯の電気料金の負担増は平均で年1万円。

 この管内の電力会社に支払う負担増のほか、国に収める税金の負担増には、

 概算で、サラリーマン1人当たり、支払う所得税額に換算して平均1%程度アップ

がある ( 総額では2000億円 ) 。

 これらの負担を重いと思うか、軽いと思うかは、世帯それぞれの事情で異なると思う。しかし、今こそ脱原発の好機と考えれば、この平均的な負担はそれほど重いとはブログ子は考えない。

 情緒的な反対から抜け出し、この負担で、脱原発の着実な一歩を踏み出したい。国民にもそれなりの覚悟が要る。

 さて、脱原発に伴い、電力会社に支払う電気料金の負担増を試算してみる。

 その負担増には二種類ある。まず、先に述べた原発を止めることに伴う燃料費のアップ ( 中電の場合、年約600億円 ) であり、もう一つは、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの固定価格買取制度(この7月にスタート)による電力会社の、いわゆる「逆ざや」負担分の電気料金への転嫁がある。

 この逆ざやの顧客への転嫁負担については、この8月から、ご使用量お知らせに

 再エネ発電促進賦課金 (単価=1kWh当たり、0.22円)

として、表示されるようになった。ブログ子の世帯のように小さい規模では、毎月50円、現在のところ標準的な世帯では100円前後であろう。年間で、標準世帯で1200円。

 問題は、脱原発には、原発が現在背負っている発電割合、20%強をすべて太陽光など再エネが引き受け、肩代わりした場合、現行の再エネ1%程度から20倍に移行期間の終わる10年後までに増やす必要がある点だ ( 現在の原発発電比率は実績では26%前後だが、このうち5%分程度は節電で対応すると仮定 )。

 法律で高めに設定された買取価格で電力会社は否応なく引き取らねばならない。再エネ発電の促進を図るのが法律の狙い。電力会社は、もっと安い電力が手元にあるのに、高い単価の再エネ発電の電気を強制的に全量買い取りることが義務付けられている。これを賦課金として、お客様にそんぐり負担してもらう仕組みだ。

 単純に考えれば、年間1200円の賦課金がこれから毎年どんどん増えて、20倍の年間24000円にもなると考えがちだ。しかし、普及とともに、政府が決める買取価格は、だんだん低く設定され、だんだん非再エネ発電コストに近くなる。つまり、少しずつ逆ざやが解消される。 

 Image880 最近の技術革新のスピードからすると、10年ないし20年後には逆ざやはほぼ解消されると見られる( 写真= 科学技術振興機構 JSTNEWS 2012年7月号 ) から、だから、そう単純に年24000円にはならないだろう。現在の買い取り価格、たとえば1kWh当たり、太陽光の場合、42円)は、今後10年で半値ぐらいには下がる(同ニュース掲載の分析グラフからの概略試算。写真 )。これに伴い、逆ざやも改善に向かう。

 とすると、賦課金は、年1200円程度から12000円程度

となるであろう。再生エネ発電の普及が今の10倍になったところあたりから、逆ざやが急速に改善されていく。そして、ついには、賦課金の単価はゼロになるだろう。再エネ発電が採算ベースに乗り出したことを意味する。

 一方、年間燃料費604億円の負担増。これを世帯と、非世帯、つまり企業や商店などで折半して負担するとして、

 世帯負担分は燃料費302億円

となる。中電の顧客、つまり世帯数は静岡県など5県で約660万世帯。

 燃料費上昇分の負担 1世帯当たり、年4600円 ( 月々 380円)

と弾き出される。この燃料費は、再生エネルギー発電の普及とともに、減少していくだろう。現在の原発発電比率20%強をすべて、当初の火力発電から太陽光発電に引き渡した時には、当然、燃料費の価格上昇負担分はゼロになる。

 このときをもって、脱原発の態勢が整ったといえる。

 以上をまとめると、電気料金の負担増は、上記の2つの費目、つまり賦課金と燃料費上昇分を加算して、

 電気料金の家計負担増は、当初の年5800円から、最高でも年17800円。

 10年間を平均すると、電力会社に余分に支払う脱原発コストは、1世帯平均年約1万円

といえそうだ ( 補遺 )。

 注意すべきことは、電力会社から送られてくるお知らせの「電気料金」には、原発が停止した場合に備える積立金、廃炉に備えるための積立金がもともと含まれている点。こうしたバックエンド費用が含まれているために、直接の発電コスト(単価= 1kWh当たり5-10円) よりも通常高く設定される。中電の場合

 1kWh当たり、20円前後

である。

 また、先の1世帯年平均1万円については、中部電力より、かなり原発依存度の高い関西電力や九州電力では、その分の燃料費がかさみ、負担増もやや、試算では2、3割、割高になるであろう。

 次に、国に収める税金の負担増である。

 国は、今でも研究費、開発費、立地対策費などの名目で原発関連の財政支出をしている。その総額は年4000億円。立地自治体に交付する、よく知られた電源三法交付金やもんじゅ開発・運用維持費などがこれに含まれる。

 脱原発では、この4000億円の枠の中でやりくりしながら脱原発に移行することもできないわけではない。しかし、仮に、同額を家庭の所得税と、企業などの非家庭の法人税とで折半し、追加の財政支出を図るとする。つまり、年2000億円は、脱原発促進税制といってもいいだろう。

 国に収められる所得税の総額は景気動向に左右されるが、最近では、おおよそ毎年20兆円。とすると、サラリーマンの所得税に換算して、2000億円というのは1%の負担増ということになる。

 中堅サラリーマンの給与所得税の例で言うと、この負担は年4000円程度。

 以上まとめると、1世帯平均で電気料金で年1万円と、所得税では年4000円を追加で負担すれば、費用バランスの面では、10年で脱原発の態勢が整う。態勢が整えば、以上の負担は家庭でも企業でも要らなくなるのは、いうまでもない。

となる。

 それでは、脱原発の問題点とは何か。簡単に言ってしまえば、

 冬場と夏場、夜と昼、地域ごとの天候などに左右されない安定したベース電源としての原発がなくなると、エネルギー確保の安定性がゆらぐことだ。また、電源確保の多様化の原則が崩れる。国際情勢に大きくは左右されない安定した国づくりには、大規模な蓄電技術の開発が、脱原発の推進とともに、大きな課題となろう。この分野への研究開発に税金を投入してほしい。

  そのほかの問題点としては、脱原発では、再エネ発電に切り替わるまでの間、一時的に火力発電、つまり化石燃料をこれまで以上に使わざるを得ないが、温暖化防止の観点から、脱原発は、これまでの国内政策、国際公約と整合性がとれないという難問がある。この問題に真正面から取り組んだ脱原発支持者は今のところ見当たらないように思う。

  脱原発を叫ぶことは、簡単だが、説得力をもたせるには整合性のある政策も同時に提示していくことが欠かせない。二酸化炭素を増やすアクセルと、抑制するブレーキを同時に踏む国政運営では、国という車は壊れるし、乗っている国民の安全も確保できないだろう。

 注記

 今回は、世帯の電気料金というミクロな視点から、具体的に試算したが、Photo_2

 マクロ的な原発、脱原発のコストに関する考察としては、

 近著『原発のコスト』( 大島堅一立命館大教授、岩波新書 )

が参考になる。

  補遺

 以上は、世帯を中心にした話。これに対し、企業負担も含めた国民全体では、年間平均どのくらいの総額負担で脱原発の態勢が整うか、以下、試算する。

 以上のデータから、

 東電を除いて、原発をすべて止め、火力発電に切り替えたときの年間燃料費の価格上昇分は、実績で約1兆6000億円。8月1日付読売新聞によると、まだまとまっていない東京電力を除く4月-6月期の電力会社全体の燃料費上昇分は約4000億円。年間ではその4倍。東京電力分を加えると概算だが、総額は2兆円前後だろう( 2012年8月22日のBSフジ「プライム・ニュース」に出演した広瀬直己東電社長によると、事故前には燃料費は年間約2.0兆円。事故後は、火力に切り替えたことで燃料費が年間で約2兆4500円に高騰。差し引き、年間で約4500億円の負担増の見込みだという。だから、この概算2兆円はおおむね妥当といえるだろう)

 しかし、これは脱原発の取り組みの当初の費用であり、原発依存度が下がるとともに燃料費負担は減り、態勢が整えば、代替燃料費負担は、当然ゼロになる。したがって、先ほどの総額は、理論値のように半分とはいわないまでも、実際には多くても1兆5000億円程度だろう。

 これに、再エネ発電費用を加えればいい。再生エネ発電の上記賦課金の平均は、6000円程度であり、全世帯では2500億円。企業などの非世帯も同額を負担すると仮定すると、おおよそ、再エネ転換費用は、総額年間5000億円。

 したがって、双方加えると、

 脱原発のコスト= 年間約2兆円 × 10年間

ということになる。これで、脱原発の態勢は整い、以後は国民負担の要らない採算ベースになる。

   これは、別の言い方をすれば、国に収めることになった消費増税5%のうち、1%分に相当すると言えば、わかりやすいかもしれない。

 最新の連結決算報告や再エネ賦課金の実績から弾き出した結論が、

 池内了氏 ( 総合研究大学院大教授 )の別の角度(かなりの節電と、新たに一般家庭に太陽光発電設備を800万台設置する場合)からの試算結果、

 つまり、年間2兆円10年で採算

と大筋で一致していることに注目したい ( 2012年2月8日付中日新聞朝刊「時のおもり」 ) 。

 2月の時点では、連結決算が未定であり、しかも再エネ賦課金の算定もできていなかったのに、一致したということは、試算が大筋で実態を反映した合理的な数字であることをうかがわせる。

 ただ、池内氏の一般家庭発電のケースと、ブログ子が想定した電力会社経由のメガソーラー方式のケースにおいて、ビジネスの経済効果などの精査は、必要であろう。それぞれのケースの得失の差は、電力料金や発電設備費用の算定に大きな影響を与える点を見逃してはなるまい。

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