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希望の『悩む力』 自殺3万人時代の幸福論

(2012.07.11)  先日、NHK‐BS1の地球テレビ「エル・ムンド」をみていたら、政治学者、姜尚中(カン・サンジュン)さんが出演していた。最後の団塊の世代といってもいいだろう。夜の華やかな雰囲気のある番組には、ちょっと似合わないのではないかと最初は思った。しかも、話は

 近著『悩む力』(集英社新書 ) 

なのだから、話が暗くなりそうで、かみ合わないのではないかと余計な心配もした( 『続・悩む力』もつい最近出た= 写真 。浜松市内の書店で)。ご本人もそう思ったのであろう、はにかみながらも、つとめて明るい笑顔で振舞っていたのは、姜さんの意外な面を知って、彼に対していい印象をもった。

 Image730 悩む力とは、悩むから生きる力もわいてくる、という意味らしい。絶望ではなく、可能性がいろいろあるから、かえって悩む。前向き、前向き志向ではなく、悩んで、立ち止まって、そして突き抜ける。それは、プロ野球選手になりたかった若き日の姜さんのにがい体験、悩みから得たものらしいことがわかった( 注記 )。

 かつて、作家の渡辺淳一さんのエッセー集『鈍感力』というのがベストセラーになり、ブログ子も読んだ。今のストレスの多い時代、鈍感なのは優れた才能、おおいに結構というものだった。

 依然として、この10年以上自殺者3万人超の時代が日本では続いている。世の中、渡辺さんの言うように、そうそう鈍感にはなれないものだからだろう。

 だったら、悩めばいい。そう、姜さんは言っているように聞こえた。

 悩む力というのは、

 一種の希望学

なのだ。社会学者の玄田有史さんは、学問として希望学プロジェクトをはじめ、

 「希望は、厳しい現実に立ち向っていく時に、わき上がってくる言葉」

と書いている(2010年2月12日付毎日新聞夕刊 新幸福論)。

 番組の最後で、姜さんは

 (人の心は) 悩みの海

と締めくくりの言葉を書いていた。韓国での言い方らしい。だから、希望を持って生きるんだというわけだ。考えてみれば、何の悩みもない人生とはなんと退屈なことだろう。想像するだに、死にそうだ。

 とすれば、聞き手に

 「悩む力。それは新しい幸福論ですね」

と一言、コメントすれば、地球テレビらしい番組になったと思った。

 うなづくだけでなく、華やかさだけでなく、ゲストに負けない教養と知性。それらが最後にチカッと光る。そんな番組であってほしい。

 注記

 つい最近でた『続・悩む力』には、具体的な悩む内容として、人間とは何かという大上段にふりかぶった哲学的な問いとともに、

 人生にはどんな意味があるのか。どうしてこんなに孤独なのか。

と、いわゆる人生論風、人生相談風ではない書き方で、問いかけられている。

 たとえば、人生に生きる意味はあるか、という問いには、この問いをした人に、神でも仏でも、愛する人でも、あるいは科学でも、何か信じるものがあるかどうかにかかっているとしている。それがない人には、残念ながら、人生に生きる意味はないということになるらしい。

 この伝でいくと、虚無主義、つまりニヒリズムを本気で信じている人には、それが明るかろうが、暗かろうが、人生に生きる意味はない。

 いろいろ考えさせられる本ではある。

 ただ、これが正続あわせて100万部にもなるベストセラーになるというのには、どこか売り方や社会の現状がおかしい。100年も昔の夏目漱石やマックス・ウェーバーが本の主題になっているが、本来は、ほそぼそと読まれるべきものだと、団塊世代のブログ子などは店頭で思った。

  ベストセラーというのは、売れ行き新書ランキングのトップ 

 『聞く力』(阿川佐和子、文春新書)

のような、もっと軽い本だろう(浜松市内の谷島屋書店調べ)。もっとも、この本に次ぐ第2位には、なんと

 『重力とは何か』(大栗博司、幻冬舎新書)

がランキングされていて、びっくりした。暇つぶしに読む本でも、本気で読む本でもないものが、こんなに売れるとは、ほんとかね、と不思議に思った。教養本として読むにしても重過ぎないか。出版不況乗り切り策の無理やりベストセラーかもしれないと思った。

 追記 (2012.10.04)

 ちょっと驚いたのは、上記の

 人の心は悩みの海

という言葉は、姜尚中さん自身のことでもあったと知った。「週刊文春」2012年10月11日号に、姜尚中さんの記事が出ていた。

 それによると、熊本市の在日集落に育った姜さんは、不登校の長男が自殺したり、あるいは病死したり、妻とは不和や確執があったりと、今、家庭崩壊の状態らしい。悩むから希望という力もわいてくるというのは、単なる言葉のあやで言っているのではなく、姜さんにとっては、現在進行形の生身の体験から出てきた言葉なのだ。

 65歳の定年を待たずに、まもなく東大教授を依願退職するという。宗教の道にすすむ、帰依するというのだが、何かと注目される東大教授で政治学者という肩書きが在日韓国人としては重荷になったのだろう。悩む力もいいが、それにも限界があり、早く重荷を下ろして自由になりたい。これだろう。

 人生いろいろだ。

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