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拝啓 日本地震学会様 改革決意に具体性を

(2012.06.15)  6月14日付毎日新聞朝刊の「ひと」欄に

 先月、日本地震学会の新会長に就任した

 加藤照之さん(59歳)=東大地震研究所教授(地球惑星科学専攻でテクトニクス、地殻変動論が専門)

が紹介されている。戦後最大の3.11大震災を阪神淡路大震災に次いで、またしても「寝耳に水」と言っていいほどまったく予測できなかったと反省しきりだった地震学会が、満を持して選出した新会長であろう。だから、期待して読んだ( 写真 )。

 Image634 冒頭はこうだ-。

 「 東日本大震災を予測できず「反省」を続ける日本地震学会。学会内から自戒の声が上がっている。これを機会に新しい組織に生まれ変わりたい。」

 その通りだろう。それにはどういう具体策を新会長として提示するのか期待して、このあとを読もうとしたが、またまたくだくだ反省の弁がつづられている。そして、最後に

 「地震への備えは命に関わるテーマなのに、学会内の議論で終始してきた。ゆっくりでもいい。社会に向けて発信する組織にしたい。」

と、どうとも解釈できる抽象論を述べて記事は終わっている。

  これでは、新生日本地震学会に向けた改革は無理だろうという印象だけが、残った。新しい組織に生まれ変わるための具体策がない。

 これには、取材したT記者の聞き方にも問題があったであろう。しかし、新会長として、明確に、そして、具体的にこうするという方策を話さなかったことにも原因があると思う( 注記 )。それがあれば、いくらぼんくらな記者でも、ぐじぐじした反省の弁なんかカットして、それを冒頭に書くはずだ。デスクもそれを見逃さず、きちんとそこを見出しにも打つだろう。

 精神論だけの、また定年近い年齢での改革決意では、これまでの異端排除の体質、つまり地震学会=仲良しクラブから抜け出せるかどうか、きわめて疑わしい。批判を嫌うなど、風通しの悪い仲良しクラブの体質こそ、この5月に学会が公表した意見提言集でも、予測ができなかった原因として挙げられた「既存の理論に依存した過度の思い込み」を生む温床になっているのだ。

 そう思って、念のため、地震学会のホームページの「新会長あいさつ」を読んでみた。

 「これまでの地震学会のあり方を見直し」「ひるむことなく地震学会を改革し」という改革の決意はある。しかし、せっかく集約した意見・提言集をもとに、この1年、学会の対応臨時委員会に関わってきた経験も生かし、新会長として、 

 任期中に具体的にこれだけはやり遂げる、

という決意の具体性がない。決意の本気度の試金石となるものがない。これでは、何のための意見・提言集だったのかといいたくもなる。毎日新聞の取材記者ばかりを責めるわけにはいくまい。変革期の学会運営では、もっとリーダーシップを発揮してほしい。

 具体的には、秋の大会(10月、函館市)までに、行動計画(アクションプラン)を立て、具体的な行動の成果を報告することを期待する。この大会では、改革によってどの程度、風通しのいい学会になったのか、検証する必要もあるだろう。昨年の静岡市での特別シンポ = 「今、地震学を問う」だったが、函館大会では、特別シンポ =「 改革は進んでいるか アクションプランを検証する」を期待したい。

  記者会見や記者懇談会は仲良しクラブを強化する働きをしてきたことにいい加減気づいてほしい。「上から目線」の啓蒙主義はもういい加減抜け出してほしい。教えてやるという意識では国民が期待する改革はできない。こうしたことが巨大地震を予測できると思っていたのに、またまたできなかった原因なのだ。

 十数年前、日本考古学界に、旧石器時代に関する衝撃的な石器捏造事件がおきた(毎日新聞の大スクープ)。しかし、信頼が完全に失墜した日本考古学協会(学会)は徹底した学術論文の検証と事件から4年後の特別委員会調査報告書(2004年12月)の公表、相互批判を通じた仲良しクラブ体質の地道な改革で、紆余曲折はあったものの、今、よみがえろうとしている。この姿勢を地震学会も真摯に学ぶべきではないか。

  若手の登用、予測・予知はできないなどの批判論文に真剣に耳を傾け、それを尊ぶ真摯な気風の醸成、異分野の人材を再び学会に呼び戻す努力など、日本の地震学界の身を切る改革は今である。「百年の大計」を誤ってはならない。 

  注記

 加藤新会長からの私信(2012年6月16日付)によると、取材記者に対して

  会員間の議論の場や機会を設けること、地震・津波防災の関する他学会との連携の枠組みづくり、学会の委員会の構成の再検討-の3点について、その実現に努めていきたいと抱負を述べている。

  この3点については、学会内に設置した対応臨時委員会のこの1年間にわたる議論の総括を踏まえている。それぞれの点についての詳細は、日本地震学会ホームページに公表された意見・提言集(2012年5月)の中で、対応臨時委員会「総括 地震学への提言」に述べられている。臨時委員会はこの3点を含む総括と、臨時委員会の議論に基づいてまとめられた4つの各論的な会員意見論文の計5論文が地震学会への提言であると位置づけている。

    この対内的な総括と提言を携えて、加藤会長と対策臨時委員会委員長は、先月5月22日の地球惑星科学連合大会(幕張メッセ)のユニオンセッション「地震学への提言」に臨んでいる。

  このセッションには、ブログ子も一部参加したが、地球科学の大御所で、最近では地震学の範疇をこえた新しい観点から「予知はできる」とする上田誠也東大名誉教授がセッションのっけから、言葉を極めて猛烈な学会批判を展開していたのを目の当たりにした。今の地震学会が「地震の予測はできる」と考えていること自身がそもそも間違いであり、「やっとわかったか」とばかりに、予算獲得の苦労など日ごろの鬱憤をぶちまけていたのには驚いた。

  そんな中、学会側は、おおむね、提言として、研究を取り巻く現実を正確に認識すること、学会内外でコミュニケーションや意思疎通を深めること、出せる情報と、決定論的な予知など出せない情報を明確にすること、今は未熟であるとしても敗北にひるまず地震学は将来必要な学問になることを社会に伝えていくこと、身近な社会に関心を持ち、内にこもらず積極的に社会に関わっていくこと-などを訴えていた。

 補遺

 ブログ子の意見については、このブログ「科学・技術と社会」の

 http://lowell.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-c46a.html

を参照してほしい。昨年2011年10月の学会特別シンポを取材したおり、書いたものである。

 その要点は

 2011年12月10日付朝日新聞朝刊「私の視点」にも

 地震学の敗北 学会や報道の体質改善を

として掲載されている。

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