« 一日二食のすすめ  カロリー制限の問題点 | トップページ | ベンハムのこま ボランティアを楽しむ »

人間くさい葛藤と対立 科学者映画の限界

Image519_2 (2012.04.29)  大型連休に入ったが、こののんびりした機会に、これまで読まなかった何冊かの偉人伝や、つい見そびれた偉人科学者の映画を何本か見てみた。そして、あらためて

 偉人科学者の映画はなぜ面白くないか

その共通の理由に気づいた。まじめではあるが、なぜ苦痛なのかと言ってもいいだろう。

 面白い小説や映画には当然だが、常識を覆す事実、奇抜なストーリーの提示のほかに、

 登場人物間の人間くさい対立や、そこからくるそれぞれの人間の心の中の葛藤

が、巧拙は別にして描かれている。この二つは、小説や映画が名作といわれる絶対条件だ。

 ところが、偉人科学者の生涯を描いた小説や映画には、偉人であるがゆえに、これができない。というよりも、葛藤や対立がたとえあったとしても、そういう

 不都合な真実

は世間をはばかって、あるいは関係者をはばかって伏せられる。

 誰も知らない発見や発明、特許権争いには、かならず普通の人以上に、名誉をかけた激しい葛藤や対立があるのが普通なのに、それが隠される。偉大な発明や発見が対立、あるいは人間くさい競争なしに忽然と現れるはずはない。そこには挫折と葛藤がつきものなのだ。なんとももったいない話だが、それが伏せられる。ここに

 偉大な科学者の小説や映画に名作がない

本当の理由がある。

 ブログ子の記憶する限り、この唯一の例外が

 黄熱病の研究で世界的に知られた野口英世博士の生涯を描いた小説

 『遠き落日』(渡辺淳一、角川文庫)

である。生活破たん者、あるいは性格破たん者だったことなど否定的な面も前面に出している。それだけでなく、渡辺氏は医師でもあることから、当時の野口の医学的な業績も丹念に調べ、その結果、今ではほとんどが誤りか、価値のないものであることを淡々と描いている。世間からたたえられる栄光の中で、人間・野口の挫折。その落差から生まれる晩年の葛藤が見事に描かれている。

 野口英世はなぜアフリカで死んだか

というその理由も、ブログ子には想像できる気がする。

 それだけに強烈な印象であり、これぞ人間・野口英世であると感動する。

 そんな小説であるにもかかわらず、映画化では、この否定的な面をほとんどカットして描かれているのはさびしい。野口英世を冒涜しているのではないかとの印象さえ持った。

 先日、NPO法人高峰譲吉博士研究会の知人からDVD

 映画「さくら.さくら サムライ化学者高峰譲吉博士」+その第二弾「TAKAMINE  アメリカに桜を咲かせた男」

をいただいた( 写真 )。昨年の公開映画では上映時間の制限でカットされた部分、義母との確執なども付け加えられた「完全版」である。

 高峰氏は、野口博士と同じ時代に生きた科学者であり、アメリカで野口氏とも親しく出会っているだけに、興味をもった。研究分野も高峰の化学、野口の医学と近い。

 早速拝見したが、公開映画に比べて、こちらのほうが面白かったと言えなくもない。ただ、二作合わせて4時間にものぼる大作にもかかわらず、感動が今ひとつなかったと正直に告白しておこう。毀誉褒貶の激しい偉人であっただけに、そこに切り込み、もう少し人間・高峰に迫れなかったか、残念だ。偉大な人であったことはよくわかったが、そこに心に染み入る感動はなかった。偉人な科学者の映画制作の限界、あるいは難しさをあらためて思い知った。

 幸運な成功はある。しかし、不運な失敗はない。失敗には必ず合理的な原因がある。予定調和的な成功物語ではなく、痛恨の失敗やそこから生じる葛藤物語にこそ、名作が生まれるような気がする。

 追記

 そんな思いがよぎる中、

 『ゲノム敗北』(岸宣仁、ダイヤモンド社)

を読んだ。1980年代に東大教授でゲノム解読の自動化のアイデアを持っていた和田昭充氏の悔やみきれない痛恨事が面白い。なぜ遅れていたはずのアメリカやイギリスに1990年代その解読競争で日本は一気に追い抜かれてしまったのか、和田氏の心の奥底のトラウマをえぐり出した異色ノンフィクションである。

 成功者ではなく、先頭に立った人物になぜ敗北してしまったのか、その原因を語らせた物語である。

 主な原因として、日本に国家的な解読戦略の重要性に気づいていなかったこと、その原因として縦割りの官僚制があったことなどが示された。

 ただ、こうした大上段の原因のドラマではなく、最前線に立った研究者たちの葛藤と対立、日米間の科学者たちの虚実ないまぜな競争の実態に切り込んで描けば、人間くさいドラマができるであろう。

|

« 一日二食のすすめ  カロリー制限の問題点 | トップページ | ベンハムのこま ボランティアを楽しむ »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/533942/54588154

この記事へのトラックバック一覧です: 人間くさい葛藤と対立 科学者映画の限界:

« 一日二食のすすめ  カロリー制限の問題点 | トップページ | ベンハムのこま ボランティアを楽しむ »