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これ以上は想定できない「極限の数字」 南海トラフの津波

(2012.04.02)  エイプリル・フールの4月1日の朝刊各紙1面トップ記事の見出しを見た読者のほとんどは、

 ほんまかいな

とびっくりしたのではないか。なにしろ、たとえば読売新聞東京本社版は、

 南海トラフ巨大地震 10メートル津波 最大11都県に 内閣府予測「震度7」153市町村

 津波は2分で襲来

 中面(浜松・遠州)では

 津波 下田・南伊豆で25.3メートル 知事「非常に重く受け止め」

というのだから、浜松市に暮らすブログ子も驚いた。もっとも驚いたのは、浜岡原発(御前崎市)あたりを襲う津波は最悪の場合、

 最大津波高21.0メートル

という数字だ。今回の大震災を受け、今年中に完成させる予定の浜岡原発防潮堤の追加津波対策では、堤の高さを18メートルにかさ上げした。

 いくらなんでも、これで十分だろう

と中部電力が胸を張ったばかりなのだ。それが1か月もしないうちに、それより3メートルも高い津波が最悪の場合、押し寄せてくるというのだから、中部電力もこの数字には衝撃だったろう。まさか、まさかとうろたえる様子が目に浮かぶ。

 遠州灘(浜松市)の場合、先の津波シンポでの最悪シナリオの数字

 14-15メートル

とほぼ同じだった(とは言っても、従来の想定東海地震単独での5.6メートルの約3倍)。

 ただ、この数字の意味を正しく理解するには注意が必要だ。

 というのは、科学的な根拠があり、合理的なものとしては、これ以上の想定はあり得ないという、

 いわば「最悪のシナリオ」

だということだ。

 言ってみれば、これ以上は想定外を想定しようにも、想定できない数字なのだ。現実味のある「妥当な数字」ではなく、極限の数字、上限値なのだ。

 東海、東南海、南海地震が同時発生すると仮定し、しかも、そのエネルギー規模は大き目のマグニチュードはM9.1を想定している。最大津波高は満潮時である。津波痕跡調査の結果から考えられる最悪の数字を採用している。

 その結果、この南海トラフのある太平洋側はほとんど全部

 震度7

となった。そして、太平洋沿岸では、2分ぐらいで1メートルの津波が早くも到達するというのだ。まだ地震の揺れが続いている間に津波が襲う。津波警報が発令されるのは、押し寄せる津波の高さが1メートル以上の場合だから、この基準では警報を聞く前に沿岸部の人たちは津波に不意打ちされる。

 この予測の前提である3地震が同時に発生するかどうかは、不明だ。仮に、今回の東日本大震災の場合がそうだったように、プレートとプレートの小さな固着域(アスペリティ)が固着状態からスリップし、それが南海トラフ寄りにある(いまだ不明の)巨大な固着域の固着をスリップさせ、その結果、3地震それぞれの固着域の固着も次々とスリップして、超巨大地震が発生する( 注記 )。今回公表された予測数値は、この一仮説の段階にすぎないメカニズムが起きるとしたら、最悪、こんな津波が押し寄せてくるという意味なのだ。

 しかし、巨大な固着域が南海トラフ寄り(沖合い寄り)にあるかどうか、仮にあったとしても今回の大震災のように、次々にスリップするかどうかについては、現在のところ科学的な根拠のある確証はない。

 したがって、この極限の数値については、冷静に受け止めるべきだろう。次にくる巨大地震そのものを表す数字では、必ずしもないのだ。たとえ来たとしても、これ以上の揺れや津波は起きないという意味だ。

 この意味を、別の言い方で、わかりやすく言えば、こうだ。

 この2000年間の歴史地震のうち、南海トラフで超巨大な3連動地震の発生については、少なくとも天武地震(684年)、正平地震(1361年)、明応地震(1498年)、富士山噴火を伴った宝永地震(1707年)の4回が知られている。震源域は南海トラフの沿岸寄りであったろうことは共通しているものの、その規模や正確な位置はそれぞれ少しは違っていたであろう。が、いずれの場合も太平洋沿岸に巨大津波が押し寄せた。

 今回の最悪予測は、その沿岸、その沿岸で、四つのうちの、いわば〝最悪取り〟をした結果なのだ。だから、次に来る地震が、公表どおりになるとは言えないのだ。来たとしても、どの沿岸でも公表より悪いものにはならないというわけだ。

 注記 

 こうしたスリップメカニズムで、今回の東日本大震災が起きたのではないかという検証は、大震災後に東北大学の松澤暢(とおる)教授の研究室でも考えているようだ(2012年4月1日夜のNHKスペシャル MEGA QUAKE II  今、列島の地下で何が起こっているか)。これまでは、こうした巨大固着域を介した連動メカニズムは、

 比較沈み学の思い込み

から、列島周辺では働かないと、なぜか信じられてきたようだ。

 しかし、列島付近でも、たとえば、東北の太平洋沿岸でも起きていたことが、今回の大震災後に指摘されだした。

 超巨大地震、貞観の地震と長期評価 科学誌『科学』(岩波書店)2011年5月号

に掲載された島崎邦彦東大名誉教授(地震学)の論文がそれである。貞観地震は869年に発生している。

 上記の松澤教授も、またこの論文でも、巨大固着域では

 数百年の間、ほとんど地震の震源域とはならなかった。いわば

 地震の〝空白域〟

とみなされて、考慮外におかれたのである。

 しかし、その実は300年-500年間隔で起きるとされる超巨大地震の引き金部分だったらしいことが次第にわかりだした。こうなると、地震の発生予測には、こうした長期評価がポイントであり、その場合、空白域こそ無視してはならない核心部分であるということになりそうだ。

 この核心部分(沈黙し続ける巨大な固着域)をどうとらえるか。これが、今後の南海トラフの3連動地震を評価する場合、重要になる。

  追記- 東日本巨大地震は南海トラフに連鎖するか

 4月8日の日曜日に放送されたNHKスペシャル、

 MEGA QUAKE II 津波はどこまで巨大化するのか

の問いに答えたのが、この公表だったといえそうだ。2000年前の太平洋岸で発生した地震は、宝永地震(1707年)の津波地震よりも巨大で、史上最大の巨大津波地震であった可能性が指摘された。今回の大震災との関連で、貞観地震(869年)の津波についても言及していた。市内の浪分神社にまで津波が押し寄せたという古記録が紹介されていた。

 補足すると、番組に映像出演していた関西大学の河田恵昭教授の最悪シナリオでは、

 南海トラフでは陸寄りの津波と、それに続くトラフ寄りの津波とが時間差的に発生し、その後沿岸で重なると、押し寄せる津波は巨大化する。

 大阪では、淀川河口付近にある大阪城も、内閣府の今回の検討会が最悪3.8メートルであるのに対し、最悪6メートルの津波で浸水する。さらに、今述べた二つの震源の海底で地すべりが起きる可能性があり、この第三の津波が重なり、さらに大きな津波被害が予想されるという。

 特に、縦横に走る道路は津波が侵入すると、合流しやすくなり、合流で津波の速さは加速する。都市特有の現象である。

 もう一つ、この番組で大変に気になったのは、

 巨大地震は〝連鎖〟する可能性が高いという米地震研究者の発言だ。

 その根拠は、2004年に起きたスマトラ沖地震(M9.1)に次いで、2005年にはその南側でM8.7の地震が発生したことだ。そして、さらにその地震の南側で2007年にM8.4の巨大地震が発生しているのだ(そして、2012年4月11日にもスマトラ島北部沖でM8.6の巨大地震が発生した。2004年の時よりも、沖合いで起きており、しかも、津波被害も前回に比べてあまりないことから、いわゆる「アウター・ライズ地震」、つまり沈み込みプレート内の横ズレ型断層地震の可能性が高い)。

 その連鎖の解釈として、巨大地震の発生で隣の震源域にストレスがかかり、地震を次々に誘発しやすくなるというのだ。

 もしこの警告が正しいとすると、

 2011年3月の東日本巨大地震が引き金になって、1-2年後には、あるいは数年後には隣の、つまり首都圏に近い房総沖や、その南の南海トラフでも超巨大地震が発生しやすくなっていることになる。はっきり言えば、連鎖的に地震が発生する可能性があることになる。

 本当に、首都圏も含めて西日本の太平洋側では、すでに次の連鎖の危険が迫っているのか、どうか。検討を急ぐ必要がある。

  追記-富士山の噴火の可能性

 その次の連鎖だが、富士山の噴火の可能性が高まっているのも注意が必要だろう。

 というのは、大震災直後の昨年3月15日深夜、富士山近くの静岡県東部を震源として

 M6.0の地震が起きたことは記憶に新しい。静岡県東部の富士宮市では震度6強という戦後の静岡県でもっとも強い揺れに見舞われた(浜松市の震度3)。

 震災後、富士山周辺でマグマの活動に伴って発生する、いわゆる低周波地震が急増していたこともあり、火山学者の多くは富士山が噴火すると相当強く心配したようだ。

 しかし、気象庁は「その後の観測データに変化(異常)はなく、噴火の兆候は現在のところはない」との見方を示している。ただ、火山研究者の間では、宝永大地震(1707年)後に起きた富士山の宝永噴火のような大噴火が300年ぶりに再び起こるかもしれないという懸念は、いまだ消えていない(2012年4月8日のETV「サイエンスZERO 富士山が噴火? 」)。

 このETVの番組で注目したのは、噴火だけでなく、山体崩壊(大規模な山崩れ)もあるということだ。現に、富士山の東南部にある御殿場市では、富士山の宝永噴火に伴う山体崩壊を示す焼けただれた地層が調査で明らかになっている。

 噴火の被害は、降灰やマグマなどの火砕流だけでなく、こうした大規模な高温の山崩れもあることを知った。

 同番組によると、富士山の場合、フィリピン海溝プレートが押されている方向、つまり、富士山の山頂から見て、北西から南東に噴火口がいくつも並びやすい。富士山の赤色立体図の作成によってわかってきた。また、山体崩壊もその方向で発生しやすいという。

 しかし、その予測となると、出演していたハザードマップづくりの専門家(東大名誉教授)によると、大変に難しいらしい。

 まとめると、静岡県は超巨大地震の揺れ、大津波、浜岡原発放射能被害、富士山大噴火の同時多発災害にどう対応するのか、その課題に直面していると言えそうだ。

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